性別交換ハウス

廣瀬純七

文字の大きさ
2 / 8

元に戻れる保証

しおりを挟む

「ねえ、これって……元に戻れる保証、あるのかな?」

孝弘――いや、今は美奈の姿をした彼が、鏡越しにそっと問いかける。口に出すと、思った以上に不安が濃くなった。女性の声帯で発せられる自分の声には、どこか心細さがにじんでいた。

美奈は、一瞬だけ言葉を飲み込んだ。彼の身体を借りたまま、鏡の前に並び立つ彼女は、少し考えるように眉をひそめたあと、ふっと笑った。

「戻れなかったら……そのときは、そのときでしょ?」

「え、それって――」

「冗談だってば。たぶんね。ていうか、仮に戻れなかったとしてもさ、私たちなら、やっていけるんじゃない?」

その言葉に、孝弘は苦笑いを浮かべた。軽口のようでいて、彼女はときどき本質的なことをさらりと言う。だが、彼の中には言いようのない不安が残っていた。

スイッチハウスには、誰もいなかった。館の中には時計もカレンダーもなく、時間の感覚が薄れていく。館の中央にあるサロンには、円形のステンドグラス窓があり、そこから差し込む光は、どういうわけか常に午後三時を思わせる柔らかさだった。まるで時間ごと、閉じ込められてしまったかのようだ。

そして、不思議なことに、ハウスの外に出ようとすると、また最初に入った玄関ホールに戻ってしまう。つまり、出られない。

「一時的な体験だと思ってたけど……この状況、ちょっとゲームみたいだね」

「でも、クリア条件がわからないゲームって、一番たちが悪いよな」

二人は手を取り合って、サロンの奥のソファに腰を下ろした。肌の感触が、以前とはまるで違うことに戸惑いながらも、どこか安心感を得ている自分がいることにも気づいていた。

「じゃあ……せっかくだから、もっとお互いのこと、深く知ってみようか」

「え?」

「だって、こんなに“相手になれる”機会、もう二度とないかもしれないじゃん?」

美奈はいたずらっぽく笑って、孝弘の胸元――いや、自分の胸元に指をあてた。彼は思わず身を引いたが、それすらも、今の美奈にとっては「自分の」身体なのだと思うと、不思議な錯覚に陥る。

彼らの関係は、確かに恋人同士だった。しかし、それはお互いが“異性”という前提の上で築かれてきたものだった。性別が反転した今、その関係はどうなるのだろうか? 愛とは、身体に宿るものなのか、魂に宿るものなのか――その答えを探す旅が、今まさに始まろうとしていた。

---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純七
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

処理中です...