性別交換ハウス

廣瀬純七

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元に戻れる保証

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「ねえ、これって……元に戻れる保証、あるのかな?」

孝弘――いや、今は美奈の姿をした彼が、鏡越しにそっと問いかける。口に出すと、思った以上に不安が濃くなった。女性の声帯で発せられる自分の声には、どこか心細さがにじんでいた。

美奈は、一瞬だけ言葉を飲み込んだ。彼の身体を借りたまま、鏡の前に並び立つ彼女は、少し考えるように眉をひそめたあと、ふっと笑った。

「戻れなかったら……そのときは、そのときでしょ?」

「え、それって――」

「冗談だってば。たぶんね。ていうか、仮に戻れなかったとしてもさ、私たちなら、やっていけるんじゃない?」

その言葉に、孝弘は苦笑いを浮かべた。軽口のようでいて、彼女はときどき本質的なことをさらりと言う。だが、彼の中には言いようのない不安が残っていた。

スイッチハウスには、誰もいなかった。館の中には時計もカレンダーもなく、時間の感覚が薄れていく。館の中央にあるサロンには、円形のステンドグラス窓があり、そこから差し込む光は、どういうわけか常に午後三時を思わせる柔らかさだった。まるで時間ごと、閉じ込められてしまったかのようだ。

そして、不思議なことに、ハウスの外に出ようとすると、また最初に入った玄関ホールに戻ってしまう。つまり、出られない。

「一時的な体験だと思ってたけど……この状況、ちょっとゲームみたいだね」

「でも、クリア条件がわからないゲームって、一番たちが悪いよな」

二人は手を取り合って、サロンの奥のソファに腰を下ろした。肌の感触が、以前とはまるで違うことに戸惑いながらも、どこか安心感を得ている自分がいることにも気づいていた。

「じゃあ……せっかくだから、もっとお互いのこと、深く知ってみようか」

「え?」

「だって、こんなに“相手になれる”機会、もう二度とないかもしれないじゃん?」

美奈はいたずらっぽく笑って、孝弘の胸元――いや、自分の胸元に指をあてた。彼は思わず身を引いたが、それすらも、今の美奈にとっては「自分の」身体なのだと思うと、不思議な錯覚に陥る。

彼らの関係は、確かに恋人同士だった。しかし、それはお互いが“異性”という前提の上で築かれてきたものだった。性別が反転した今、その関係はどうなるのだろうか? 愛とは、身体に宿るものなのか、魂に宿るものなのか――その答えを探す旅が、今まさに始まろうとしていた。

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