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ショッピングモール
しおりを挟む人のざわめきと冷房のひんやりした空気に包まれたショッピングモールの自動ドアをくぐった瞬間、二人は思わず顔を見合わせた。いつもならなんてことのない休日の風景。だが今は、互いの体が入れ替わったまま――すべてが特別な冒険に見えた。
隆司の体になった美咲は、にやりと笑って腕を組んだ。大柄な身体で周囲を見回すと、声を少し張って言う。
「よし! せっかくだから隆司に服を買ってあげるよ!」
「……は? ちょっと待て、美咲」
美咲の姿をした隆司は慌てて手を振った。女性らしい細い腕がひらひらと揺れるのが、自分でも可笑しくて戸惑う。
「俺に服って……いまお前、俺の体なんだから、買うのは“お前の服”だろ?」
しかし美咲はまるで聞いていない。隆司の長い足でずんずん歩き出し、エスカレーターを上がっていく。その姿は、まるで大きな子どもが新しい遊びを見つけてはしゃいでいるかのようだった。
案内板を確認した美咲は、「こっち!」と声をかける。到着したのは――婦人服売り場。
マネキンには華やかなワンピースや、落ち着いたブラウスが並んでいる。ハンガーにかかった色とりどりの服の海に、美咲は目を輝かせた。
「見て見て! これとか絶対似合うよ!」
隆司の姿をした美咲が、ひらひらとしたスカートを取り出して隆司に差し出す。
受け取った隆司は目を丸くした。
「……いやいや、ちょっと待て。これって俺の服じゃなくて、美咲の服だよね!?」
声は女性の高い声で叫んでいるのに、中身は完全に困惑する夫。そのギャップに周囲の視線がチラリと向けられる。
美咲は気にする様子もなく、堂々と胸を張った。
「だって今のあなたは私なんだもの。だったら婦人服でしょ。似合うかどうか確かめなきゃ!」
「……理屈は分かるけどさぁ……」
隆司は額を押さえ、溜息をついた。鏡に映る自分は美咲の姿。どう見てもスカートの方が似合うのは分かっている。分かってはいるのだが、心が追いつかない。
「ほらほら、これなんていいじゃない? 爽やかな色合いで、きっと“私”に似合うはず!」
美咲は次々とラックから服を取り出しては、隆司に押し付ける。腕いっぱいに積み上がっていくスカートやブラウスに、隆司は観念したように小さく笑った。
「……結局お前が楽しんでるだけだろ」
「そりゃそうよ! だって普段はこうやって自分を客観的に見られないもの。いまは“あなたが私”なんだから、私の代わりにちゃんと選んでもらわなきゃ!」
強引に試着室へと押し込まれた隆司は、カーテンの向こうで小さなため息をつく。
――でも、こういうのも悪くないのかもしれない。
鏡に映る「美咲」が自分の選んだ服を着て微笑む姿を想像すると、胸の奥がくすぐったくなった。
婦人服売り場のざわめきの中、二人の「入れ替わり夫婦ごっこ」は、ますます奇妙で賑やかな方向へ転がっていった。
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