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ついでに下着も!
しおりを挟む婦人服売り場でひとしきり笑い合ったあと、美咲――隆司の身体を借りている彼女が、ふと思い出したように手を打った。
「そうだ! あっ、ついでに下着も買わないとね!」
その一言に、隆司は思わず声を裏返らせた。
「ええっ!? な、下着!?」
周囲の買い物客が一瞬振り返る。隆司は慌てて口をつぐんだ。けれど、にやにやしている美咲の表情を見て、もう逃げられない予感しかしなかった。
「だって今のあなたは“美咲”なんだから。スカートに合わせて新しい下着を買ってあげるのは当然でしょ?」
隆司の大きな声と体格で、まるで冗談を言っているように軽々しく言う美咲。だが内容はまったく冗談になっていない。
「ちょ、ちょっと待て! それは……俺にはハードル高すぎるだろ!」
「大丈夫、私がついてるから!」
心強いのか、余計に恥ずかしいのか分からない台詞を堂々と言い放つと、美咲は隆司の手をぐいっと引いた。
そのまま二人がたどり着いたのは――女性用ランジェリー売り場。
淡いピンクやラベンダーのレースが並ぶ棚、繊細なショーツやブラジャーが整然と吊るされている。周囲には女性客がちらほらいて、男性の姿は見当たらない。
隆司は完全に固まった。美咲の姿でここに立っているのに、心は完全に男の自分。頬が熱くなり、視線の置き場に困る。
「さあ、“美咲さん”。どれが欲しい?」
美咲はわざとからかうように囁く。
「おま……無茶言うなよ!」
隆司は小声で返すが、目の前のレースの山が視界に入るたびに余計に落ち着かなくなる。
「じゃあ、私が選んであげる!」
美咲は胸を張り、ラックから一枚を取り出した。控えめなレースがあしらわれた淡いブルーのブラジャーとショーツのセット。
「これなんか絶対似合うと思う!」
「……いや、だから俺は美咲じゃなくて……!」
「でも見た目は完全に美咲でしょ? だったら似合うに決まってる!」
押し切られるように、隆司は小さくため息をついた。
「……分かったよ。でも、こんなところで大声出すなよ……」
二人が選んでいる間、ふと近くの店員がにこやかに声を掛けてきた。
「こちら、新作のシリーズなんですよ。柔らかい素材で、とても人気なんです」
隆司も美咲も同時に硬直した。
「え、えっと……あ、ありがとうございます……」
隆司が慌てて返す。美咲の高い声が少し裏返り、店員が首をかしげる。
その隣で、美咲(=隆司の体)がわざとらしく咳払いをした。
「……うちの妻に似合いそうでしてね」
低い声で真顔のコメント。
隆司は思わず「ちょっと!」と小声で突っ込んだ。
店員は「まあ、素敵ですね」と笑い、再び商品棚へ戻っていった。
残された二人はしばし沈黙。そして――同時に吹き出した。
「ははは……! もうダメだ、恥ずかしすぎる!」
「でも面白いでしょ? こういうの、普段じゃ絶対できないもん」
結局、美咲の提案で淡いブルーの下着を買うことに決めた。袋を受け取った隆司は、なんとも言えない気分で見つめながら小さく呟いた。
「……これ、帰ったら俺が身につけるのか……」
「そうよ。楽しみでしょ?」
美咲の悪戯っぽい笑顔に、隆司はため息をつきつつも、口元を緩めざるを得なかった。
入れ替わった二人の奇妙な買い物は、ますますエスカレートしていくのだった。
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