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カフェでの会話
しおりを挟むショッピングモールの一角にあるカフェは、柔らかなライトに包まれていた。木目調のテーブルと観葉植物に囲まれ、客たちが思い思いにくつろいでいる。
その片隅の席に、山本夫妻――ただし中身が逆になった二人が腰を下ろしていた。
テーブルの上には、白い紙袋がひとつ。中には婦人服、そして先ほど慌ただしく購入した淡いブルーのランジェリーセット。袋の存在感がやけに重たく、二人の視線は自然とそこに集まってしまう。
「……なんか、こうして見ると妙にリアルだな」
隆司――今は美咲の姿である彼が、カフェラテを一口すすりながら苦笑する。
「まさか俺が“美咲として”服や下着を買う日が来るとは思わなかったよ」
対面に座る美咲――隆司の体をしている彼女は、カップを指で軽く回しながら楽しそうに笑った。
「ふふ、意外と似合ってたじゃない。スカート姿も、下着を選んでる時の顔も、全部新鮮で」
「おい、そんなに楽しそうに言うなよ……」
隆司は照れ隠しのように小さく咳払いをした。頬がほんのり赤らんでいるのが、ガラスに映る姿からも分かる。
しばし沈黙。二人ともドリンクを飲みながら、目の前の袋をちらちら見ては目をそらす。夫婦で買い物に来たはずなのに、この袋ひとつでこんなにも気恥ずかしい空気になるのだから不思議だ。
「……なあ」
やがて隆司が口を開いた。
「結局さ。こうして服を買ったり下着を選んだりしてると……思うんだけど」
「うん?」
美咲がカップを置き、彼を見つめる。
「もしかして……最初から、自分の服が買いたかっただけなんじゃないのか? それで、“入れ替わるモニター”だなんて話に飛びついたんじゃないか?」
半ば冗談、半ば本気。隆司は眉をひそめながらも、どこか探るように問いかけた。
一瞬、美咲はきょとんとした表情を浮かべた。次の瞬間、大柄な体を揺らして朗らかに笑い出す。
「ふふっ、鋭いわね。そうね、それもあるかな!」
あまりにもあっさりとした答えに、隆司は思わず口を半開きにした。
「やっぱりそうか……!」
「だって、自分の服を買うときっていつも“似合うかな、派手すぎるかな”って悩むでしょ。でも隆司になってたら堂々と選べるじゃない。しかも、目の前で“美咲に似合う”って言ってもらえるんだから、一石二鳥でしょ?」
さらりと言い切る妻に、隆司は呆れたようにため息をついた。
「……恐るべしだな、うちの奥さんは」
けれど、その口元はほんのり緩んでいた。
袋の中には、確かに美咲に似合う服と下着が入っている。けれどその買い物は、入れ替わった二人にしか味わえない不思議な体験であり、思い出になった。
そして隆司は心のどこかで思っていた――「結局、これも夫婦の新しい形のコミュニケーションなのかもしれない」と。
カフェの窓の外には、休日を楽しむ人々のざわめきが広がっていた。二人の奇妙な“入れ替わりデート”は、まだまだ続いていく気配を漂わせていた。
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