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翌朝
しおりを挟む翌朝。
リビングには焼きたてのトーストの香ばしい匂いと、スクランブルエッグの優しい香りが漂っていた。二人はいつも通りの朝食を済ませ、食器を片付け終える。
そのとき、隆司の体の美咲が、すっと椅子から立ち上がった。
「じゃあ、私、仕事に行って来るわね!」
スーツ姿でネクタイをきゅっと締める仕草は、外見そのまま隆司にしか見えない。けれど立ち居振る舞いには、美咲らしい軽快さがにじみ出ていた。
「えっ……ちょっと待って!」
テーブルの向こうから慌てて声を上げたのは、美咲の体の隆司だった。彼はスプーンを持ったまま、美咲に詰め寄る。
「美咲……俺のシステムエンジニアの仕事、できるの?」
問いかけに、美咲は一瞬だけ手を止めたが、すぐににっこりと笑ってみせた。
「大丈夫よ、何とかなるから!」
「な、何とかって……プログラミングとか設計書とか、専門用語ばっかりだぞ!?」
「昨日のトイレよりはマシよ!」
「比べるとこそこ!?」
隆司は頭を抱えた。自分の顔で自分が見たこともない軽口を叩かれるのは、なんとも複雑な気分だ。
しかし美咲は気にも留めず、スーツの上着を羽織り、腕時計を確認すると颯爽と玄関へ向かう。
「い、いや、待ってくれ! 本当に大丈夫なのか? もし仕事場でボロが出たら――」
「そのときは笑ってごまかすの! それに、隆司の同僚さんたち、みんな優しそうだし」
「そ、そういう問題じゃ……!」
声を荒げる隆司を横目に、美咲は靴を履きながら振り返り、ウィンクを一つ。
「任せといて、旦那さま。私、今日から“システムエンジニア山本隆司”よ!」
勢いよくドアを開けると、外の朝の光が差し込み、スーツ姿の美咲の背中を照らした。
その背を見送りながら、隆司は椅子に崩れ落ちた。
「……いやいやいや、どうなるんだこれ……」
心配と不安と、ほんの少しの期待を胸に、入れ替わり夫婦の新しい一日が始まろうとしていた。
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