性転の湯

廣瀬純七

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命の誕生

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ユウタが性転の湯に入ってから約一年が経ち、彼の体は完全に女性として機能していた。お腹はますます大きくなり、サキと一緒に準備したベビー用品が部屋に並んでいるのを見て、出産の日が近づいていることを実感していた。

医者の診断によると、出産予定日は12月の半ば。ユウタは自分が本当に母親になるという現実に、まだどこか夢のような感覚を抱いていた。男性として生きていた時期が長かったため、妊娠と出産が自分に起こっているということが、時折信じられない瞬間があったのだ。

それでも、サキはユウタを常に支え続け、二人でこの新しい家族を迎える準備をしっかりと進めていた。サキはベビーベッドの組み立てや部屋の飾りつけなどを率先して行い、ユウタが体を無理しないように気を配った。

「もうすぐだね、ユウタ」と、サキは微笑みながら言った。「どきどきする?」

「うん、ちょっと怖いけど、楽しみでもあるよ」とユウタは答えた。お腹を撫でながら、新しい命が宿っていることを感じていた。

そして、12月中旬の夜、突然の痛みがユウタを襲った。ベッドに横たわっていた彼は、急に強い収縮を感じ、息を詰まらせた。

「サキ…!」ユウタは声を上げた。

サキはすぐに飛び起き、ユウタのもとへ駆け寄った。「どうした?大丈夫か?」

「陣痛かもしれない…」ユウタは息を切らしながら言った。「こんなに早く来るなんて思ってなかったけど、痛みが…強い…。」

サキは冷静に病院へ連絡し、すぐに出発の準備を始めた。車に乗り込んだ二人は、静かな冬の夜道を病院へ向かって走り出した。ユウタは痛みと戦いながら、サキの手を強く握りしめ、心の中で何度も深呼吸を繰り返していた。

「もうすぐ着くよ、ユウタ。大丈夫、頑張って」とサキは優しく声をかけた。

病院に到着すると、看護師たちがすぐにユウタを出産室へ案内した。ユウタは痛みの波が次々と押し寄せる中、サキが常にそばにいてくれることに安堵していた。出産のプロセスは長く、予想以上に辛かったが、サキが握る手の温かさが彼を支えてくれた。

「もう少しよ、ユウタ。赤ちゃんがもうすぐ出てくるわ」と、助産師が声をかけた。

ユウタは額に汗をにじませながら、必死に呼吸を整え、最後の力を振り絞った。身体の中からの強烈な圧力と痛みが押し寄せ、意識が一瞬遠のきそうになったが、心の中で強く叫んだ。

「生まれてくるんだ…!もうすぐ会える…!」

そしてついに、赤ちゃんの泣き声が響き渡った。

「おめでとうございます!元気な赤ちゃんですよ」と助産師が微笑んで言った。

ユウタは放心したように肩を落とし、疲れ果てた体を横たえながら、赤ちゃんを抱くために両手を伸ばした。サキも隣で、涙をこらえきれずに微笑んでいた。

赤ちゃんを腕に抱いた瞬間、ユウタの胸に一気に温かさが広がった。小さな命が自分の体から生まれたという実感がようやく湧いてきた。赤ちゃんの柔らかな肌に触れると、その小さな手がユウタの指をぎゅっと握った。

「かわいい…」ユウタは涙を浮かべながら、初めて見る我が子の顔を見つめた。「本当に、私たちの赤ちゃんだ…。」

サキも隣で赤ちゃんを見つめながら、「こんなにも小さいのに、もう僕たちの全てだね」とそっと囁いた。

ユウタとサキは、二人の間に生まれた新しい命を見つめながら、今までのどんな冒険や変化よりも、この瞬間が人生で最も特別であることを感じていた。性転の湯の力によって経験した数々の変化も、この新しい家族の誕生によって全てが報われたように思えた。

赤ちゃんは小さく息をしながら、ユウタの胸の上で穏やかに眠り始めた。ユウタはその温もりを感じながら、そっと目を閉じた。

「これからも、きっとたくさんのことがあるだろうけど…一緒なら大丈夫だね。」

サキはユウタの肩に手を置き、静かに頷いた。「うん、これからは家族として、三人で新しい冒険が始まるんだ。」

その夜、二人は新しい命と共に、穏やかで深い眠りに落ちていった。
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