入れ替わりノート

疲れるお風呂

夕食を終えた後、歩美の体になった隆司は、家族と軽く会話をしてから自室に引き上げた。  
（ふぅ、やっと一息つける…でもこの体、本当に慣れないな。）  

しばらくスマホを眺めていたが、歩美の母親・美和子の声が階下から響いてきた。  
「歩美、お風呂空いたわよ～。」  

（お風呂…！？マジかよ。）  
男子として、普段は何の気なしに入っていたお風呂が、今の隆司には大きな壁のように感じられた。  
（女子の体でお風呂って…何すればいいんだ？）  

覚悟を決め、タオルを手に浴室へ向かう。浴室の扉を閉め、鍵をかけると、妙な緊張感が襲ってきた。  

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鏡に映った自分の姿を見て、隆司は思わず目をそらした。  
（これが女子の体か…。自分の顔なのに、なんか変な気分だな…。）  

とりあえず制服を脱ぐと、思いのほか細い手足に驚く。  
（腕とか華奢すぎない？…お、これが橘の腹筋か。意外としっかりしてるんだな。）  

シャワーを浴び始めると、肌に当たるお湯の感触がいつもと違う気がした。  
（なんか、敏感というか…男子の体とは全然違うな…。）  

髪を洗おうとして、隆司は思わず溜息をついた。  
（髪、長っ！これ、どうやって洗えばいいんだ？シャンプーどんだけ使えばいいんだよ…。）  

普段使い慣れた自分の短髪と比べると、洗うのにも時間がかかる。加えて、トリートメントのボトルを見つけて思わず眉をひそめる。  
（これも使うのか？女子って、こんな面倒なこと毎日やってるのかよ…。）  

髪を洗い終わる頃には、普段以上に疲労感を覚えた。  

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やっと湯船に浸かると、ほっとしたのも束の間、隆司は再び緊張感に包まれた。  
（湯船に入るだけでこんな気を使うとか、なんなんだ…。それに、この体温もなんか違う気がする。）  

お湯の中で手足を伸ばしてみるが、落ち着かない。視線をどうしても意識してしまい、気持ちが休まらないのだ。  
（俺が俺の体を見ても、なんか変だし…。ってか、こんなこと考えてるのがそもそもおかしい！）  

その時、ドア越しに妹の奈緒の声が聞こえてきた。  
「お姉ちゃん、長いよ！私も早く入りたいんだけど！」  

「えっ！？あ、すぐ出る！」  
焦って返事をしたものの、今度は母親の声が続いた。  
「歩美、ちゃんとトリートメント流した？この間も流し残してたわよ！」  

「ええっ！？そ、そんなことないよ！」  
（やばい、女子の体ってお風呂のルールまで多すぎるだろ！俺、絶対何か抜けてる！）  

慌てて湯船を出て体を拭き、髪を乾かさないまま浴室を後にした。  

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リビングで妹の奈緒が腕を組んで待っていた。  
「お姉ちゃん、なんか今日また様子変じゃない？お風呂も遅いし、髪の乾かし方も雑だし。」  

「そ、そうかな…？ほら、早く入りなよ。」  
「ほんとにお姉ちゃん？」  
奈緒の疑いの目を受けながら、隆司はその場を逃げるように自室へ戻った。  

（マジで橘、すごいな…。これ毎日やってんのかよ…。俺には無理だ。）  
ベッドに倒れ込むと、隆司は深い溜息をついた。  

（早く戻りたい…。男子の体で、お風呂に何も考えずに浸かりたいだけだ…。）  

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