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昼休憩
しおりを挟む午前中の受付業務がようやくひと段落し、博史(愛)は昼休憩の時間になると、ほっと息をついた。
普段なら「やっと休める~!」と内心で喜ぶところだが、今日は疲労感が段違いだった。
慣れないヒールで足はパンパン、張りつめた笑顔は顔の筋肉を引きつらせたままだ。
「よし、メシ……」
博史は何とか気力を振り絞り、社食へ向かう。
同僚の女性たちがすでに何人か並んでいて、愛の体のまま列に加わった博史は、カロリー表記ばかりが気になった。
「……量、少なすぎじゃね?」
つい独り言をつぶやきそうになりながらも、日替わり定食と小鉢をトレーに乗せて空いている席に向かう。
---
「愛ちゃーん、こっちこっち!」
手を振って呼んでくれたのは、受付で一緒に働くミホとサエだった。
「あ、うん……!」
ぎこちなく返事をして、二人の向かいに座る。
食べる前に両手を合わせて「いただきます」と言うのも、なんとなく恥ずかしい。
(愛は、こんな繊細な動作を毎日やってんのか……)
箸を手に取るが、使い慣れたはずの箸も、手が小さくなったことで感覚が違いすぎる。
ご飯粒をこぼさないように、慎重に運んでいると――
「ねえ、愛ちゃん」
サエがじっとこちらを見つめながら声をかけてきた。
「えっ? な、なに?」
「今日、なんか様子おかしくない?大丈夫?朝からすっごい動きぎこちなかったし」
「う、うそ!?そんなことないよ!」
思わず早口になってしまい、ミホまで「やっぱりー」とクスクス笑い出す。
---
「もしかして、昨日ヒロくんとケンカでもした? 顔も赤いしさ~」
ミホが冗談めかして覗き込んでくる。
(うわっ、そんなこと考えたこともなかった!)
「い、いや、そんなことない!全然ないよ!」
慌てて手を振ると、箸が小鉢に当たってカチンと音を立てる。
「もう~、いつもの愛ちゃんじゃないから心配だよ」
サエが優しく言いながら、飲み物をそっと差し出してくれる。
「ありがと……」
博史は受け取って、ホッと一息。
だがその瞬間、二人の視線が一気に自分の方へ向く。
「ねえ……まさか、ヒロくんの下半身とか入れ替わってるとかじゃないよね~?」
サエが冗談交じりに言う。
博史は思わず水を吹きそうになった。
「ぶっ!? な、なにそれ!」
「やだー、反応が怪しすぎ!」
ミホとサエは大爆笑。
(……いや、本当にそうなんだって……!)
---
なんとかごまかしながら食事を続けた博史だったが、女子同士の距離感とトークの鋭さに、改めて汗をかく昼休みとなった。
「愛……よくこんな日々こなしてるな……」
心の中で愛に尊敬の念を送りつつ、博史は次の午後の業務に備えるのだった。
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