42 / 51
玲奈の選択
しおりを挟む結衣は湯船に肩まで浸かり、静かに目を閉じた。
体の力を抜いて湯に身を委ねると、じんわりと温かさが染み渡っていく。バーチャルの世界のはずなのに、お湯の感触も湯気の匂いも、あまりにもリアルだった。
(……本当に、ここはバーチャルなのかな……)
玲奈から「この世界に住み続けることもできる」と言われてから、結衣の心はずっとざわついていた。
「ねえ、ちょっといい?」
ふいに、背後から玲奈の声がした。
振り向くと、玲奈が髪をまとめながら湯船へと入ってくるところだった。
「玲奈さん、お疲れ様です。」
「ふふっ、お風呂の中でまでそんなにかしこまらなくていいわよ。」
玲奈は結衣の隣に座り、ふぅっと満足そうに息をついた。
しばらく二人でお湯に浸かりながら、湯気の中でのんびりと時間が過ぎていった。
玲奈がふと、ぽつりと呟いた。
「実はね……私、一年前にこっちの世界で生きることを選択したのよ。」
結衣は思わず玲奈を見つめた。
「えっ……玲奈さん、リアルには戻らなかったんですか?」
玲奈は静かに頷いた。
「うん。もともとはリアルで会社に入って研修を受けていたんだけど……気づいたら、こっちの世界が心地よくなってね。悩んだ末に、正式にバーチャルの住人になることを選んだの。」
「そんなことが……」
玲奈は笑顔を浮かべながら、続けた。
「そしてね、今付き合っている人と来月、結婚するのよ!」
「えっ!? 玲奈さん、結婚するんですか!?」
驚く結衣を見て、玲奈はくすくすと笑った。
「うん、そうよ。もちろん、相手もこの世界の人。リアルの人間が操作しているけど、同じようにこの世界で生きることを選んだ人なの。」
「……すごい……」
バーチャルの世界での結婚。リアルとは異なるけれど、それもまたひとつの人生の選択肢なのだと、結衣は初めて実感した。
玲奈はお湯にゆっくりと手を浸しながら、優しく言った。
「結衣も、まだ迷っているでしょ? ここにいることが本当にバーチャルなのか、リアルなのか……」
結衣は湯の中で手をぎゅっと握りしめた。
(……私も、この世界に残る選択をすることになるのかな……?)
玲奈の言葉が、結衣の心の奥深くに響いていた。
12
あなたにおすすめの小説
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる