とある会社の秘密の研修

廣瀬純七

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玲奈の婚約者

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週末の昼下がり、結衣は玲奈と待ち合わせたカフェへ向かった。  

バーチャルの世界にいるとは思えないほど、店内は本物のカフェそのものだった。木のぬくもりが感じられるテーブル、ほのかに香るコーヒーの匂い。ふわりと漂う焼きたてのスイーツの甘い香りが、心を落ち着かせてくれる。  

(本当に、ここがバーチャルの世界だなんて信じられないな……)  

そんなことを考えていると、入り口の方から玲奈が手を振るのが見えた。隣には見慣れない男性が立っている。  

「結衣、こっちこっち!」  

玲奈は嬉しそうに笑いながら、隣の男性を紹介した。  

「この人が私の婚約者、木島達也。達也、こっちは寮の後輩の中村結衣。」  

「はじめまして、中村さん。」  

木島達也は爽やかな笑顔を見せながら、手を差し出した。  

結衣は少し戸惑いながらも、その手を握り返した。  

「はじめまして。玲奈さんからお話は聞いています。」  

「そう? 玲奈がどんな風に話しているか気になるけど……まあ、座ろうか。」  

三人は奥のテーブルに座り、それぞれ飲み物を注文した。結衣はカフェラテ、玲奈は紅茶、木島はブラックコーヒー。  

しばらく世間話をした後、結衣は思い切って聞いてみた。  

「玲奈さんは、どうしてこの世界で生きることを選んだんですか?」  

玲奈は少し驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。  

「うん、気になるよね。正直に言うと、私も最初はバーチャルの世界でずっと生きるなんて考えられなかった。でも……この世界での生活がリアルと変わらないくらい充実してきて、だんだんと考え方が変わっていったの。」  

玲奈はカップを手に取りながら、ゆっくりと話を続けた。  

「リアルでは、私は普通のOLだった。毎日仕事に追われて、家に帰って寝るだけの生活。でも、この研修でバーチャルの世界に来て、初めて“自分の人生を選択する”という感覚を持ったの。」  

結衣は玲奈の言葉に耳を傾けながら、自分の研修の日々を思い返した。  

「それにね……」  

玲奈は優しく木島の方を見た。  

「ここで達也と出会ったのも大きかった。最初はただの同僚だったけど、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、彼と一緒にいたいと思うようになったの。」  

木島も微笑みながら頷いた。  

「僕も同じだよ。玲奈といると、この世界が本当に現実のように感じられた。最初は戸惑いもあったけど、今はここで生きることを選んでよかったと思ってる。」  

玲奈は結衣の目を見つめながら、真剣な表情で言った。  

「結衣も、いずれは選択する時が来るかもしれない。リアルに戻るのか、それともここで生きるのか。どちらが正解とかはないけど……私にとっては、こっちの世界が“もう一つの現実”になったの。」  

結衣は言葉を失ったまま、カフェラテの表面に浮かぶ泡を見つめた。  

(私も……ここで生きることを選ぶ日が来るのかな……?)  

玲奈の話を聞いて、結衣の心にまた一つ、新たな疑問が生まれていた。
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