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青海島の海上アルプス
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通地区を出た達也は、ペダルを踏む足に自然と力が入った。館長の言葉が、心の奥に灯った希望をさらに強く燃やしている。萩に行けば美咲に会えるかもしれない――その思いだけが、疲れを忘れさせてくれた。
青海島の道路は起伏が激しく、特に長く続く上り坂が達也の足に容赦なく負担をかけた。けれど、坂を上りきった瞬間に広がるパノラマの景色が、そんな疲れを一瞬で吹き飛ばす。どこまでも続く青い海。その向こうに見える水平線。達也は自転車を止め、ハンドルに体を預けながら景色を眺めた。
「美咲も、この景色を見ていたのかな……?」
下り坂に差し掛かると、今度は風を切る音だけが耳に心地よく響いた。まるで海の風が背中を押してくれるようだった。
青海島は「海上アルプス」と呼ばれる海岸がある島だ、美咲が一度「達也、あそこは本当に美しい場所なのよ」と話してくれたことがある。紫津浦の駐輪場に自転車を止めて歩いて海岸に向かった。視界に広がったのは雄大な日本海。波が岩壁にぶつかり、白い飛沫が舞い上がっている。その美しさに思わず息を呑む。
「こんな景色、美咲が好きなのもわかるな……」
雄大な日本海を後にして更に自転車を漕いで青海島の峠を越えるとやがて青海大橋が見えてきた。海に架かるその橋を渡るとき、潮風が一層強くなり、達也の頬を撫でる。橋の上から見える青い海と青空のコントラストは言葉にできないほど美しかった。橋を渡り切ると、目の前に広がるのは仙崎の街。通り抜ける風景の中に、美咲が話していた金子みすゞの詩の一節がふと蘇った。
「みんなちがって、みんないい……か」
美咲はいつも、何気ない言葉に大切な意味を込めていた。達也にとってその詩の言葉は、今もどこか心に染み渡るようだった。
仙崎を過ぎると、道は再び山間部に入り、自然の中を駆け抜ける。三隅のあたりでは、田畑の広がる風景が視界を埋め尽くし、どこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。緩やかなカーブを曲がるたびに、時折農作業をしている人々の姿が見えた。
「ぶち、いいところだな……」
山口の方言を、無意識のうちに呟く。美咲に教えてもらったその響きが、どこか心を和ませてくれた。
長い急な坂道を登って峠を越えて長い坂道を下り、道が平坦になり、やがて見えてきたのは、萩の街並み。歴史ある町家や白壁の土塀が続き、どこか時間が止まったかのような佇まいを感じさせる。自転車を止め、達也はゆっくりと息を整えた。ようやくたどり着いた。
「平安橋の近く……そこに美咲がいるかもしれない」
道中で感じた疲れを忘れるほど、達也の胸は期待と不安でいっぱいだった。彼女の姿をもう一度目にすることができるのか。その答えを知るために、達也は萩の街を進む足を再び動かし始めた。
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青海島の道路は起伏が激しく、特に長く続く上り坂が達也の足に容赦なく負担をかけた。けれど、坂を上りきった瞬間に広がるパノラマの景色が、そんな疲れを一瞬で吹き飛ばす。どこまでも続く青い海。その向こうに見える水平線。達也は自転車を止め、ハンドルに体を預けながら景色を眺めた。
「美咲も、この景色を見ていたのかな……?」
下り坂に差し掛かると、今度は風を切る音だけが耳に心地よく響いた。まるで海の風が背中を押してくれるようだった。
青海島は「海上アルプス」と呼ばれる海岸がある島だ、美咲が一度「達也、あそこは本当に美しい場所なのよ」と話してくれたことがある。紫津浦の駐輪場に自転車を止めて歩いて海岸に向かった。視界に広がったのは雄大な日本海。波が岩壁にぶつかり、白い飛沫が舞い上がっている。その美しさに思わず息を呑む。
「こんな景色、美咲が好きなのもわかるな……」
雄大な日本海を後にして更に自転車を漕いで青海島の峠を越えるとやがて青海大橋が見えてきた。海に架かるその橋を渡るとき、潮風が一層強くなり、達也の頬を撫でる。橋の上から見える青い海と青空のコントラストは言葉にできないほど美しかった。橋を渡り切ると、目の前に広がるのは仙崎の街。通り抜ける風景の中に、美咲が話していた金子みすゞの詩の一節がふと蘇った。
「みんなちがって、みんないい……か」
美咲はいつも、何気ない言葉に大切な意味を込めていた。達也にとってその詩の言葉は、今もどこか心に染み渡るようだった。
仙崎を過ぎると、道は再び山間部に入り、自然の中を駆け抜ける。三隅のあたりでは、田畑の広がる風景が視界を埋め尽くし、どこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。緩やかなカーブを曲がるたびに、時折農作業をしている人々の姿が見えた。
「ぶち、いいところだな……」
山口の方言を、無意識のうちに呟く。美咲に教えてもらったその響きが、どこか心を和ませてくれた。
長い急な坂道を登って峠を越えて長い坂道を下り、道が平坦になり、やがて見えてきたのは、萩の街並み。歴史ある町家や白壁の土塀が続き、どこか時間が止まったかのような佇まいを感じさせる。自転車を止め、達也はゆっくりと息を整えた。ようやくたどり着いた。
「平安橋の近く……そこに美咲がいるかもしれない」
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