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朝のドタバタ
しおりを挟む俺は、妊娠八ヶ月の妻になっていた。
「いやいやいやいや待て待て待て!」
鏡を見た。そこにはパジャマ姿の美奈――つまり俺の妻――つまり今の俺が、目をむいて口をパクパクさせていた。何度まばたきしても戻らない。顔、髪、胸、お腹……ぜんぶ、美奈。
「え?夢?これ夢だよね?だって、俺が美奈で、美奈が俺で――っておいおいおい!!」
ベッドで寝ている"俺"――田中健一(元の俺)が寝返りを打ってうっすら目を開けた。
「……んー、腰いてぇ……って、え?」
起き上がった"俺"が、こっちを見て固まった。そしてお互い、同時に叫んだ。
「俺!?」
「私!?」
三秒の沈黙のあと、再びユニゾン。
「マジかよおおおおおお!!!」
***
リビングに移動しても混乱は収まらなかった。
ソファに座る俺(田中美奈ver)は、巨大なお腹を抱えて呼吸するだけで精一杯。
一方、美奈(田中健一ver)は、自分の姿が鏡に映るたびに「なんでこんな毛が濃いの!」とか言ってる。知らんがな!
「てかこれ、どうするの!?今日、健一が産婦人科付き添いで一緒に行く日だったでしょ!?」
「無理だろ!俺が俺としてお前の付き添いに行ったらもうワケわかんねぇよ!」
「しかも健一、今日会社じゃん!大丈夫!?あんたの上司、絶対中身が私ってバレたら怒るタイプだよ!」
いや、もうその前に問題ありすぎるだろ。何がどうなってこうなった。神様?宇宙?妖精?いやむしろ義母の呪い?
「とりあえず、トイレ行ってくるわ……」
「うん、気をつけて。足元見てね」
足元……? と思いながら立ち上がろうとして、俺は悟った。
「……立つの、めっちゃしんどいんだけど!!!」
「それ毎日なんですけど!!」
こうして、俺たち田中夫婦の、入れ替わり&妊娠ドタバタ生活が幕を開けた――。
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