魔法の本

廣瀬純七

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ノーメイクの朝

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タケル(ジュンの体)は教室に入ると、周囲の視線を妙に感じた。普段のジュンと何かが違う――そんな空気が教室全体に漂っている。  

「タケル、ちょっと。」  
ジュン(タケルの体)が教室の後ろからひそひそ声でタケルを呼んだ。  

「なんだよ?」  
タケルはジュンのもとへ歩いていった。  

「鏡、見た?」  
ジュンは真剣な顔で尋ねる。  

「え? いや、顔洗ってそのまま来たけど?」  
タケルが答えると、ジュンは深いため息をついた。  

「…分かってないわね。女子はね、最低限のメイクをしてるのが普通なの。今の私、つまりあなた、ノーメイクだからみんな違和感感じてるのよ!」  

「ノーメイクってそんなに変か?」  
タケルは自分の顔を触りながら首をかしげる。  

「変よ! あなた、私の評判下げる気?」  

***

### 急きょメイク講座  

昼休み、ジュンはタケルを保健室に連れ込んだ。  
誰もいない部屋で、ジュンはカバンから小さなポーチを取り出す。  

「これ、私のメイク道具。今から教えるから、ちゃんと覚えて。」  

「マジかよ…。俺、メイクなんてしたことないぞ?」  
タケルは気まずそうに座る。  

「だから、私がやるから。じっとしてて。」  
ジュンはタケルの顔を覗き込み、眉毛から手を付け始めた。  

「ちょっと! 近い!」  
タケルは反射的に体を引く。  

「動かないで。失敗したら余計におかしくなるんだから。」  

ジュンの冷静な声に押され、タケルは渋々動きを止める。  

***

### メイクの仕上がり  

「はい、完成!」  
ジュンは満足げに後ろへ下がった。  

「どう?」  
タケルは鏡を渡され、自分の顔を確認する。  

「え、なんか…普通にジュンっぽい。」  
タケルは目を見開いた。眉毛が整えられ、ほんのりピンクのリップが塗られている。確かに、普段のジュンの顔だ。  

「でしょ? これで違和感ゼロ。」  
ジュンは自信満々に言う。  

「すげえな…。メイクってこんなに変わるんだな。」  
タケルは感心して鏡を眺め続けた。  

「これで私の評判も守られるわね。でも、次からは自分でやりなさいよ。」  

「いや、無理だって! こんな細かい作業、俺には…!」  

「練習すればできるようになるわよ。それとも、毎朝私がやってあげようか?」  
ジュンはニヤリと笑った。  

「そ、それは遠慮しとく…。」  
タケルは顔を赤くしながら鏡を返した。  

***

### 日常の一歩  

その日の午後、タケル(ジュンの体)はクラスメートたちから「なんか、今日のジュンはいつも通りだね!」と言われて少しホッとした。  

「女子って、ほんと大変だな…。」  
そう呟くタケルの背中を見て、ジュン(タケルの体)は微笑みながら「少しは分かったみたいね」と小さくつぶやいた。
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