魔法の本

廣瀬純七

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これからの人生を

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夜遅く、タケル(美咲の体)は一日の疲れを癒そうと湯船に浸かっていた。美咲の家に泊まっているわけでもないのに、この体で生活することが日常になってしまっていることに、少し戸惑いを感じる瞬間だった。  

鏡に映る長い髪の美しい姿は、完全に「美咲」そのものだ。だがその内側には、自分、タケルがいる。そのギャップが、今でもふとした瞬間に心をざわつかせる。  

湯気が漂う中、タケルは頭を湯船の縁に預け、ぼんやりと天井を見上げた。  

---

### 自分自身に問いかける  

「俺、このままで本当にいいのか…?」  

美咲の体で過ごしているうちに、タケルはこの体に少しずつ馴染んできている自分を感じていた。仕草や声のトーン、さらには周囲の期待する「美咲らしさ」を演じることが、意外と苦ではなくなっていることが不思議だった。  

「美咲も同じ気持ちなのかな。俺の体になって、なんか違和感なく生きてるみたいだけど…」  

ふと、タケルは湯船の中で自分の細い腕や肩を見つめた。強さや力強さを感じたことのある自分の元の体とは対照的だ。  

「もしこのまま戻らなかったら…俺は美咲として生きていくことになるのか。けど、これって本当に俺の人生なんだろうか?」  

---

### 選択のプレッシャー  

神様のメールに書かれていた「本来の姿」という言葉が、頭から離れない。これが自分たちの「正しい」体だと言われても、納得できる部分もあれば、どうしても割り切れない部分もある。  

「でもな…あのメールを信じるなら、これが正しいんだろ?だったら、今さら戻る必要もないんじゃないか…?」  

そう思いつつも、タケルは心のどこかで迷いを感じていた。  

「戻るにしても、このままでいるにしても…どっちにしろ簡単な選択じゃないよな。」  

タケルは大きなため息をつき、湯船から上がった。湯気で曇った鏡を指でぬぐい、そこに映る美咲の顔をじっと見つめる。  

「美咲として生きるのか、それともタケルに戻るのか…」  

鏡の中の自分に問いかけるように、タケルは小さくつぶやいた。  

---

### 未来への一歩  

湯上がりの髪をタオルで拭きながら、タケルはふと美咲の家族や友人たちのことを思い出した。みんなこの「美咲」をどう見ているのだろう。もしこのままでいることを選んだら、自分の周囲の人間関係も変わってしまうのかもしれない。  

「まあ、焦ったところで仕方ないか…。次の満月まで、もう少し時間もあるしな。」  

タケルは湯船の栓を抜き、溜めていたお湯が流れ出していく音を聞きながら、少しだけ心を軽くした。  

「とりあえず、明日もこの体で頑張るしかないか。」  

そして、髪を乾かし終えたタケルは、美咲の体として迎えるまた新たな一日を心の中で覚悟するのだった。
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