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難しい問題
しおりを挟む「うーん……ここまでは分かるんだけど、この先が……全然つながらないんだ」
陸が机に広げたノートには、図形の問題が大きく書かれていた。平行四辺形の中に引かれた対角線と、補助線を用いた面積比の応用問題。中学生にはやや難しい部類だった。
「ふむふむ、なるほど……補助線をどこに引いたらいいか、分からないって感じ?」
かずは——和也は、陸の肩越しにノートを覗き込むようにして腰をかがめた。ふわりと垂れた髪が陸の頬に触れそうになり、彼は少しだけ身体をこわばらせた。
「う、うん……△ABCと△ADCの面積が等しくなるって書いてあるけど、角度も違うし、線の長さもよく分からなくて……なんで等しくなるの?」
「ふふっ、そこに気づくのはいいことだよ。じゃあ、一緒に整理してみようか」
かずははさらさらと鉛筆を動かし、問題の図を別のページに書き写す。そして陸にも見えるように、いくつかの補助線を薄く引いた。
「まず、ここに補助線を一本引くとね……△ABCと△ADCの高さが実は同じになるんだよ」
「えっ? ほんとに?」
「うん。だってこの点、対角線の交点だから、高さは両方とも同じ直線上にあるでしょ? 底辺が一緒で高さも一緒ってことは、面積が等しくなるのは……?」
「……底辺×高さ÷2だから……同じになる、か!」
目を丸くした陸が、急いで自分のノートにも補助線を書き加える。
「それにね、次の問いで“辺ABと辺DCが等しいことを示せ”ってあるでしょ? それも、この補助線を活用すると……」
かずはが続けて解説をすると、陸は何度もうなずきながら、真剣に聞き入っていた。
「……すごい。さっきまで何も分からなかったのに、なんでこんなに分かるようになるんだろ……」
「ううん、陸くんの理解力がすごいんだよ。私はちょっとだけお手伝いしただけ」
「そんなことないよ……かずは先生がいると、全部がわかりやすくなる。本当に……すごい先生だ」
陸の声には純粋な敬意がこもっていて、それがかずは——和也の胸に静かに響いた。
(……この子は本気で勉強に向き合ってる。私を通して、ちゃんと何かを掴もうとしてる)
罪悪感は確かにあった。でもそれと同時に、誰かに「分かった」と言ってもらえる嬉しさを、和也自身が噛みしめていた。
「この問題が解けたら、100点も夢じゃないかもね?」
「うん……絶対に取るよ、デートのために!」
にこっと笑う陸の顔が、まっすぐでまぶしかった。
かずははその表情に微笑み返しながらも、心の奥では静かに問いかけていた。
(私……本当に、このままでいいのかな)
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