セックスチェンジアプリ2

廣瀬純七

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陸とのデート

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 金曜日の午後。かずはのスマホに、佐々木家の奥さんからの連絡が入った。

> 「陸が今日、学校の数学テストで100点を取ったみたいです! 本当にありがとうございました!」

 通知を見た瞬間、かずは——いや、和也の心臓が跳ねた。

(……マジか。取ったのか、ほんとに……)

 あのときの約束。「100点を取ったら、先生とデート」。冗談半分だったその一言が、陸の心に本気で火をつけていたことを、和也は知っている。

 嬉しい——はずだった。生徒が努力して結果を出したのだから、家庭教師としてはこれ以上ない達成感だ。だが、その成果の“報酬”が、和也の「もう一つの姿」である“かずは”とのデートだという事実が、胸の奥にじわりと重く沈んでいく。

 
 日曜日。初夏の風が心地よい昼下がり。いつもより少しだけラフな格好で、かずはは駅前の噴水広場に立っていた。

 先日ショッピングモールで買った淡いラベンダー色の上品なワンピースは派手すぎず、でも中学生の前では“ちょっと大人っぽく”見えるように、時間をかけて選んだコーディネートだ。

 「かずは先生ーっ!!」

 向こうから走ってきた陸は、眩しいくらいの笑顔だった。制服ではなく、紺色のチェックシャツにジーンズ。髪もいつもより整えていて、少しだけ背伸びしているようにも見えた。

 「ほんとに……来てくれたんだ」

 「もちろん。約束だったもんね。100点取ったら——デート、だよね」

 かずはは笑って言った。できるだけ自然に、穏やかに。でも、どこかで心が引きつっているのを自分でも感じていた。

 「先生、俺……めちゃくちゃ頑張ったんだ。分からないところ、何回も解き直して、寝る前にも公式唱えて……初めてなんだ、こんなに点数取れたの」

 「うん、本当にすごいよ。誇っていい。自分の力で掴んだ100点なんだから」

 「……それ、先生がいたからだよ」

 陸の目がまっすぐすぎて、かずはは一瞬だけ視線を逸らした。

 「じゃあ……今日は俺がエスコートします!」

 得意げに言って、駅前の歩道を先に歩き出す陸。その背中を見て、かずははほんの少し笑った。

 「じゃあ、ついていこうかな。よろしくね、“紳士”くん」

 向かったのは、小さな美術館と、その隣にあるレトロな喫茶店だった。

 「……ここ、母さんがデートに良いって言ってたんだ」

 「ふふ、素敵なセンスだね」

 絵画を見ながら、陸は作品の感想を口にするたびに、かずはの反応をじっと見る。そのたびに少し照れたように目を逸らす——そんな姿が、いつもの“生徒”よりもずっと大人びて見えた。

 喫茶店では、クリームソーダとミックスサンドをシェアしながら、学校のこと、将来の夢、家族の話。様々な話題が尽きなかった。

 そして帰り道。駅へ向かう夕暮れの道で、陸がポツリとつぶやいた。

 「……先生。今日、すごく楽しかった」

 「うん、私も」

 「また……こうして一緒に出かけたり、できる?」

 かずはは、一拍置いてから微笑んだ。

 「また100点取ったらね。今度は英語でもいいよ」

 「マジで!? ……じゃあ、次もがんばる!」

 陸はまるで、太陽みたいな笑顔を浮かべた。

 でもその笑顔を見ながら、かずは——和也の胸の奥には、またひとつ重たい石が落ちた。

 この子の想いに、どこまで応えていいのか。
 そして、自分がいつまで「かずは」でいられるのか——。

 夜風が二人の間をすり抜けていった。

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