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仕事中の異変
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朝から美咲の体調は明らかにおかしかった。
下腹部の奥をぎゅっと掴まれるような鈍い痛みが、波のように何度も押し寄せてくる。いつもの生理痛よりもずっと重く、腰まで重だるさが広がっていた。
「……大丈夫、大丈夫」
小さくそう呟きながら、美咲は売り場に立っていた。今日は人手が少なく、途中で抜けるのは気が引ける。制服のポケットに忍ばせた鎮痛剤も、今朝飲んだ分がもう効いていないようだった。
レジに立ち、商品のバーコードを読み取る指先がわずかに震える。お腹の奥で痛みが強くなるたび、視界が一瞬白くなるのを感じた。
――まずいな。
そう思った瞬間、額に冷たい汗がにじんだ。息を吸っても、胸の奥まで空気が入らない。立っている床が、ゆっくりと傾いていくような感覚に襲われる。
「美咲、大丈夫?」
隣のレジから節子の声が聞こえた。
美咲は笑顔を作ろうとしたが、唇がうまく動かなかった。
「ちょっと……お腹が……」
そこまで言ったところで、強烈な痛みが一気に押し寄せた。
膝から力が抜け、視界が暗くなる。
「美咲!」
節子の叫ぶ声と同時に、周囲がざわつく。
次の瞬間、美咲の意識はぷつりと途切れた。
――――
「……さん、美咲さん……!」
遠くで誰かが呼んでいる。
まぶたが重く、開けるのに時間がかかった。
目を開けると、白い天井と蛍光灯がぼんやり映る。消毒液の匂いが鼻をついた。
「……ここは……?」
「病院よ。仕事中に倒れたの」
横を見ると、節子が心配そうな顔で立っていた。その後ろには、看護師が血圧計を手にしている。
「ひどい生理痛で、貧血も起こしていたみたいですね」
看護師の落ち着いた声が続く。
「今は点滴をしていますから、少し楽になると思いますよ」
美咲は自分の腕に繋がれた点滴を見て、ようやく状況を理解した。
体はまだ重いが、さっきまでの激痛は少し引いている。
「……すみません、迷惑かけて……」
かすれた声でそう言うと、節子が首を横に振った。
「何言ってるの。無理しすぎよ」
少し声を落として、
「顔、真っ青だったんだから」
その言葉に、美咲は目を閉じた。
――やっぱり、体は正直だ。
かつて男性だった自分には、経験することのなかった痛み。
毎月訪れるこの感覚に、慣れたつもりでいたけれど、今日は完全に限界を超えていた。
「今日はもう仕事は休み。先生もそう言ってるから」
節子はそう言って、そっと美咲の手を握った。
「……ありがとう」
美咲は小さく息を吐きながら答えた。
点滴の雫が、静かに落ちていく音だけが病室に響いている。
――女性として生きるということは、こういう痛みも含めて受け止めることなんだ。
そう思いながら、美咲は再び目を閉じた。
今はただ、この静かな時間に身を委ね、回復することだけを考えようと。
下腹部の奥をぎゅっと掴まれるような鈍い痛みが、波のように何度も押し寄せてくる。いつもの生理痛よりもずっと重く、腰まで重だるさが広がっていた。
「……大丈夫、大丈夫」
小さくそう呟きながら、美咲は売り場に立っていた。今日は人手が少なく、途中で抜けるのは気が引ける。制服のポケットに忍ばせた鎮痛剤も、今朝飲んだ分がもう効いていないようだった。
レジに立ち、商品のバーコードを読み取る指先がわずかに震える。お腹の奥で痛みが強くなるたび、視界が一瞬白くなるのを感じた。
――まずいな。
そう思った瞬間、額に冷たい汗がにじんだ。息を吸っても、胸の奥まで空気が入らない。立っている床が、ゆっくりと傾いていくような感覚に襲われる。
「美咲、大丈夫?」
隣のレジから節子の声が聞こえた。
美咲は笑顔を作ろうとしたが、唇がうまく動かなかった。
「ちょっと……お腹が……」
そこまで言ったところで、強烈な痛みが一気に押し寄せた。
膝から力が抜け、視界が暗くなる。
「美咲!」
節子の叫ぶ声と同時に、周囲がざわつく。
次の瞬間、美咲の意識はぷつりと途切れた。
――――
「……さん、美咲さん……!」
遠くで誰かが呼んでいる。
まぶたが重く、開けるのに時間がかかった。
目を開けると、白い天井と蛍光灯がぼんやり映る。消毒液の匂いが鼻をついた。
「……ここは……?」
「病院よ。仕事中に倒れたの」
横を見ると、節子が心配そうな顔で立っていた。その後ろには、看護師が血圧計を手にしている。
「ひどい生理痛で、貧血も起こしていたみたいですね」
看護師の落ち着いた声が続く。
「今は点滴をしていますから、少し楽になると思いますよ」
美咲は自分の腕に繋がれた点滴を見て、ようやく状況を理解した。
体はまだ重いが、さっきまでの激痛は少し引いている。
「……すみません、迷惑かけて……」
かすれた声でそう言うと、節子が首を横に振った。
「何言ってるの。無理しすぎよ」
少し声を落として、
「顔、真っ青だったんだから」
その言葉に、美咲は目を閉じた。
――やっぱり、体は正直だ。
かつて男性だった自分には、経験することのなかった痛み。
毎月訪れるこの感覚に、慣れたつもりでいたけれど、今日は完全に限界を超えていた。
「今日はもう仕事は休み。先生もそう言ってるから」
節子はそう言って、そっと美咲の手を握った。
「……ありがとう」
美咲は小さく息を吐きながら答えた。
点滴の雫が、静かに落ちていく音だけが病室に響いている。
――女性として生きるということは、こういう痛みも含めて受け止めることなんだ。
そう思いながら、美咲は再び目を閉じた。
今はただ、この静かな時間に身を委ね、回復することだけを考えようと。
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