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温水プール
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日曜日の昼下がり。秋の風が少し冷たくなり始めた頃、渚(体は優斗)がスマホを見ながら言った。
「ねえ、今日さ、温水プール行かない?」
その言葉に、“渚の姿をした優斗”は目を瞬かせた。
「プール? いきなりだな」
「だって、せっかく日曜だし。体も入れ替わったままだし、なんか運動でもしたいなって思って」
「……運動って、それ俺の体で泳ぐってことだろ」
「そう! ちょっと楽しそうじゃない?」
渚――いや、“優斗の姿をした渚”は嬉しそうに笑った。
その笑顔に押されて、優斗(渚の姿)はため息をつく。
「わかったよ。でも変なことするなよ? 今、俺が渚で、お前が俺なんだからな」
「わかってるって!」
* * *
温水プールの更衣室。
優斗(渚の体)は女子用の水着を鏡の前で見下ろし、なんとも言えない気持ちになっていた。
「……なんか、落ち着かない」
一方、渚(優斗の体)は向こうの更衣室でスポーティなスイムパンツを穿きながら、満足げに腕を組む。
「うん! 思ったより似合うじゃん、優斗の体!」
二人がプールサイドで合流すると、まるで性別が逆転した小旅行のようだった。
優斗(渚の体)はタオルを肩にかけ、やや恥ずかしそうに俯いていた。
渚(優斗の体)はそんな彼女――いや、“彼”を見て、口元を緩めた。
「よし、それじゃ泳ごっか!」
そう言ってプールに飛び込む。
ドボン、と水しぶきが上がり、渚(優斗の体)は気持ちよさそうに潜った。
――しかし。
「ぷはっ!」
浮かび上がった渚は、髪――ではなく、短い優斗の前髪を水で濡らしながら、苦しそうに咳き込んだ。
「な、なんで!? 優斗の体ならもっとスイスイ泳げると思ったのに!」
プールサイドでそれを見ていた優斗(渚の体)は、思わず吹き出した。
「ははっ、そりゃ体が俺でも、中身が渚のままじゃ無理だろ!」
「う、うるさいなぁ!」
渚(優斗の体)は再び泳ぎ出そうとするが、バタ足のリズムが滅茶苦茶で、まるで水面でもがいているようだった。
その様子を見て、優斗(渚の体)は笑いを堪えきれずに手で口を押さえた。
「ほら、肩の力抜いて! 息止めすぎ!」
「わかってるけど、体が思うように動かないんだってば!」
「いや、それ思いっきり“お前の泳ぎ方”だな」
渚はぷくっと頬を膨らませながら、もう一度挑戦する。
が、結局バシャバシャと水をかけては息継ぎに失敗し、浮かび上がってくるたびに顔をしかめる。
「……あーもうっ! 優斗っていつもこんなに簡単そうに泳いでたの!?」
「簡単っていうか、慣れてるだけだろ」
優斗(渚の体)はプールの縁に手をかけ、軽くジャンプして水に入る。
滑らかな動きで水面を滑り、あっという間に渚の隣に並んだ。
「ほら、こうやって手を伸ばして、体を真っすぐに――」
「言われなくても……!」
渚は悔しそうに真似をしてみるが、手足のタイミングが微妙にずれて、また水を飲む。
優斗(渚の体)は肩をすくめて笑い、プールサイドに手をかけて言った。
「な? 泳ぎって体だけじゃなくて、感覚の問題なんだよ」
「……くやしい」
「でも、見てる分には面白いけどな」
「笑うなー!」
渚(優斗の体)は水を思いっきりはねかけた。
優斗(渚の体)が「ちょっ、やめろって!」と逃げるが、その声も笑い声に変わっていく。
ふと、周りの子どもたちが二人の様子を見て笑っているのに気づき、渚(優斗の体)は頬を赤らめた。
「……もう、バカみたいじゃん、私たち」
「まあ、バカっていうか……ちょっと変なペアだな」
「ほんとにね」
二人はプールの端に寄りかかりながら、息を整えた。
水面がゆらゆらと揺れ、天井のライトが波に反射してきらめいている。
「でも、こうしてるとさ」
渚(優斗の体)がぽつりと言う。
「なんか変だけど、ちょっと楽しいね。お互いのこと、前より分かってきた気がする」
優斗(渚の体)は静かに笑って答えた。
「それはたぶん、入れ替わってるからこそだろうな。……まあ、悪くないかも」
「でしょ!」
渚は満足そうにうなずいた。
けれどその直後、また泳ぎ出そうとして、思い切りバランスを崩して沈みかけた。
「ぷはっ! もうっ! なんでうまくいかないの!?」
優斗(渚の体)は腹を抱えて笑いながら言う。
「やっぱり中身が渚だからだよ!」
渚(優斗の体)はむくれながらも、つられて笑ってしまった。
温水プールの中、二人の笑い声が水の音に溶けて、いつまでも響いていた。
「ねえ、今日さ、温水プール行かない?」
その言葉に、“渚の姿をした優斗”は目を瞬かせた。
「プール? いきなりだな」
「だって、せっかく日曜だし。体も入れ替わったままだし、なんか運動でもしたいなって思って」
「……運動って、それ俺の体で泳ぐってことだろ」
「そう! ちょっと楽しそうじゃない?」
渚――いや、“優斗の姿をした渚”は嬉しそうに笑った。
その笑顔に押されて、優斗(渚の姿)はため息をつく。
「わかったよ。でも変なことするなよ? 今、俺が渚で、お前が俺なんだからな」
「わかってるって!」
* * *
温水プールの更衣室。
優斗(渚の体)は女子用の水着を鏡の前で見下ろし、なんとも言えない気持ちになっていた。
「……なんか、落ち着かない」
一方、渚(優斗の体)は向こうの更衣室でスポーティなスイムパンツを穿きながら、満足げに腕を組む。
「うん! 思ったより似合うじゃん、優斗の体!」
二人がプールサイドで合流すると、まるで性別が逆転した小旅行のようだった。
優斗(渚の体)はタオルを肩にかけ、やや恥ずかしそうに俯いていた。
渚(優斗の体)はそんな彼女――いや、“彼”を見て、口元を緩めた。
「よし、それじゃ泳ごっか!」
そう言ってプールに飛び込む。
ドボン、と水しぶきが上がり、渚(優斗の体)は気持ちよさそうに潜った。
――しかし。
「ぷはっ!」
浮かび上がった渚は、髪――ではなく、短い優斗の前髪を水で濡らしながら、苦しそうに咳き込んだ。
「な、なんで!? 優斗の体ならもっとスイスイ泳げると思ったのに!」
プールサイドでそれを見ていた優斗(渚の体)は、思わず吹き出した。
「ははっ、そりゃ体が俺でも、中身が渚のままじゃ無理だろ!」
「う、うるさいなぁ!」
渚(優斗の体)は再び泳ぎ出そうとするが、バタ足のリズムが滅茶苦茶で、まるで水面でもがいているようだった。
その様子を見て、優斗(渚の体)は笑いを堪えきれずに手で口を押さえた。
「ほら、肩の力抜いて! 息止めすぎ!」
「わかってるけど、体が思うように動かないんだってば!」
「いや、それ思いっきり“お前の泳ぎ方”だな」
渚はぷくっと頬を膨らませながら、もう一度挑戦する。
が、結局バシャバシャと水をかけては息継ぎに失敗し、浮かび上がってくるたびに顔をしかめる。
「……あーもうっ! 優斗っていつもこんなに簡単そうに泳いでたの!?」
「簡単っていうか、慣れてるだけだろ」
優斗(渚の体)はプールの縁に手をかけ、軽くジャンプして水に入る。
滑らかな動きで水面を滑り、あっという間に渚の隣に並んだ。
「ほら、こうやって手を伸ばして、体を真っすぐに――」
「言われなくても……!」
渚は悔しそうに真似をしてみるが、手足のタイミングが微妙にずれて、また水を飲む。
優斗(渚の体)は肩をすくめて笑い、プールサイドに手をかけて言った。
「な? 泳ぎって体だけじゃなくて、感覚の問題なんだよ」
「……くやしい」
「でも、見てる分には面白いけどな」
「笑うなー!」
渚(優斗の体)は水を思いっきりはねかけた。
優斗(渚の体)が「ちょっ、やめろって!」と逃げるが、その声も笑い声に変わっていく。
ふと、周りの子どもたちが二人の様子を見て笑っているのに気づき、渚(優斗の体)は頬を赤らめた。
「……もう、バカみたいじゃん、私たち」
「まあ、バカっていうか……ちょっと変なペアだな」
「ほんとにね」
二人はプールの端に寄りかかりながら、息を整えた。
水面がゆらゆらと揺れ、天井のライトが波に反射してきらめいている。
「でも、こうしてるとさ」
渚(優斗の体)がぽつりと言う。
「なんか変だけど、ちょっと楽しいね。お互いのこと、前より分かってきた気がする」
優斗(渚の体)は静かに笑って答えた。
「それはたぶん、入れ替わってるからこそだろうな。……まあ、悪くないかも」
「でしょ!」
渚は満足そうにうなずいた。
けれどその直後、また泳ぎ出そうとして、思い切りバランスを崩して沈みかけた。
「ぷはっ! もうっ! なんでうまくいかないの!?」
優斗(渚の体)は腹を抱えて笑いながら言う。
「やっぱり中身が渚だからだよ!」
渚(優斗の体)はむくれながらも、つられて笑ってしまった。
温水プールの中、二人の笑い声が水の音に溶けて、いつまでも響いていた。
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