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元気な優と大人しい紗月
しおりを挟むそれは、入れ替わりが起きた翌日――まだ幼稚園にも通っていなかった、春のある朝のことだった。
優の家では、母・美佐子が朝食の支度をしながら、不思議そうに優――いや、**中身が紗月の優**を見つめていた。
「……あれ?優、なんだか今日は元気ね」
紗月(優の身体)は朝からよく喋り、トーストを頬張りながら「今日はお散歩行きたい!公園行こ!」とせがんでいた。
普段ならおとなしく椅子にちょこんと座って、黙々と朝ごはんを食べていた“優”が、突然はしゃぎだしたのだから、美佐子も目を丸くするのも無理はなかった。
その頃、紗月の家では逆のことが起きていた。
リビングでテレビを見ていた母・絵里子は、黙って絵本を読んでいる“紗月”を見て、眉をひそめていた。
「……どうしたの? いつも朝から走り回ってるのに」
優(紗月の身体)は小さく「ううん、ちょっと眠いだけ」と答えたが、声は控えめで、目も合わせようとしなかった。
それからというもの、**紗月(中身は優)はおしとやかで落ち着いた女の子**になり、**優(中身は紗月)は活発で元気な男の子**に変わっていた。
近所のママ友たちも首をかしげた。
「優くん、最近すごく元気よねぇ。おしゃべりだし、走るの大好きみたい」
「ほんとほんと。でね、紗月ちゃんが逆に静かになっちゃって……あんなに木登りとか好きだったのに」
ある日、保育園のお迎えの帰り道。
中島美佐子と中村絵里子が並んで歩いている時、ふと絵里子がぽつりと言った。
「ねえ、美佐子さん……うちの子たち、もしかして……\*\*入れ替わったんじゃない?\*\*って思うこと、ない?」
一瞬、冗談みたいに聞こえたその言葉に、美佐子は笑いかけて――ふと顔を曇らせた。
「……実は私も、思ったことあるの。優がまるで、紗月ちゃんみたいになってて……口調も、仕草も、なんかそっくりで」
「うちもよ。紗月が、優くんとそっくりな話し方するの」
二人は顔を見合わせて、半分冗談、半分本気のように笑った。
「まるで、本当に……入れ替わったみたいだね」
そのとき、少し先を歩いていた二人の子どもたちが振り返った。
優(中身・紗月)は元気に手を振り、
紗月(中身・優)はおずおずと目をそらしながら頷いた。
ふと吹いた風に、二人の笑い声と沈黙が、ほんの少し混じった。
そして、誰も気づかぬふりをしながらも、どこかで感じていた。
**この子たちは、何かが違う――けれど、それが「本当の彼ら」かもしれない。**
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