タイムトラベルノート

斎藤優菜

2120年。そこは優人が知る世界とはまったく異なる場所だった。建物は空に向かって無数の層を成し、道を歩く人々の多くは人工的な義肢や光るインプラントを身に付けている。空にはホバーバイクが行き交い、目に見えない情報が浮かび上がる拡張現実の世界。

「ここが……未来か。」

優人は唖然としながらも歩き回った。だが、その異質な未来には何か空虚なものを感じた。人々は互いにほとんど会話をせず、感情が希薄になっているように見えた。彼らのほとんどはAIとの意思疎通や、仮想空間に接続しているらしい。

しかし、優人がもっと驚いたのは別のことだった。未来の情報ライブラリにアクセスする装置を偶然操作し、ノートの秘密を探ろうとしたときだ。その装置はノートの技術を解析し、「タイムトラベル中に性別を変更することが可能」という記録を示した。

「性別が変えられる……？」

優人は半信半疑だったが、試さずにはいられなかった。ノートを開き、今度はこう書き込んだ。

> 「2021――女性」

再び光に包まれた。意識が浮遊するような感覚の中、今度は自分の体が変化していくのを感じた。筋肉の張りが和らぎ、体が少し小柄になり、長い髪が首元をくすぐる。やがて光が薄れたとき、優人は見覚えのある大学近くの街並みの中に立っていた。

近くのショーウィンドウに映った自分の姿を見て、息を飲む。  
「これが……私？」

そこに映るのは、女性になった自分だった。短すぎず長すぎない髪型、どこか親しみやすい顔立ち。声を出してみると、か細く高い声が響いた。完全に別人のようだが、不思議と「自分」である感覚は変わらない。

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### 「大学生活の再挑戦」

優人は女性として、大学生活を再び始めることを決めた。元の自分――2021年当時の「斎藤優人」がこの時代に存在していることも知っていたが、慎重に避けるように生活した。名前は「斎藤優菜」と名乗り、学内では転入生という設定で周囲に溶け込んだ。

新しい生活は驚きの連続だった。女性としての視点で見る世界は、まったく異なっていた。友人関係の距離感、社会の期待、そして自分自身の行動に対する周囲の反応。性別が変わることで、同じ大学生活がこうも変わるのかと驚かされる。

そしてもう一つ、予想外の出来事があった。ある日、図書館で未来の知識を活かして課題に取り組んでいると、同じゼミの男子学生、森山亮（もりやまりょう）に声をかけられた。

「君、転入生の斎藤さんだよね？最近、すごく目立ってるよ。」

森山亮――かつて優人が密かに尊敬していた人物だ。しかし、こうして女性として接する彼の姿はどこか柔らかく、親しみやすい印象だった。少しずつ話を重ねるうちに、優菜（優人）は自分が彼に惹かれつつあるのを感じた。

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### 「タイムトラベルの可能性」

優菜は、自分が女性として新たな人生を歩むべきなのか、それとも元の自分に戻るべきなのか悩み始める。ノートは確かに万能に見えるが、その力にはどこか底知れない危うさも感じていた。

そんなある日、森山がふと語った。  
「もし、人生をやり直せるノートがあったら、君はどうする？」  
その問いに、優菜は笑みを浮かべながらも答えを濁した。

未来、現在、そして過去。性別や存在さえも変えられるノートを手にした優菜の選択は、この時代のどこに向かうのか――。  

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