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二人の健一
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窓の外が徐々に白み始めていた。
布団の中で丸くなっていた健一——いや、“美咲”となった健一は、古びたカレンダーに視線を向けた。
(えっと……今日は2009年3月17日……だったか)
カレンダーの角には小さく赤い丸がついていて、「夜バイト」と鉛筆で書かれていた。
「……ああ、そうだ。この時代の俺は、近所のコンビニで夜勤のバイトしてたっけな」
当時の生活が急に色鮮やかに思い出される。
昼夜逆転の生活。深夜に品出しをして、廃棄のおにぎりをポケットに忍ばせながら、うつろな目でレジに立っていた自分。
(ってことは……朝7時には帰ってくるな)
そう思った瞬間、心臓がドクンと大きく跳ねた。
(まさか、今から……)
と、そのとき。
――カチャッ。
玄関の鍵が回る音がした。
バタンと扉が開き、疲れた足音が玄関から台所へとゆっくり近づいてくる。
(きた……!)
思わず身を強張らせ、布団の中から半身を起こした。
「ふぅ……つかれた……」
聞き覚えのある声。
懐かしい、しかし今の自分とは違う“低くて硬い男の声”。
そして――ついに、その姿が部屋の入口に現れた。
寝ぐせだらけの髪、ヨレたジャンパー、レジ袋をぶら下げている。
過去の健一。まぎれもない“本物の自分”。
健一は部屋に目をやると、そこに座っているショートカットの女の子と目が合った。
「……えっ?」
互いにしばし沈黙。
部屋に漂う空気が固まり、時間が止まったかのようだった。
「君……誰……?」
バイト帰りの健一が、戸惑いながら言った。
“美咲”は一瞬口を開きかけて、しかし何を言えばいいのか分からずに黙ってしまった。
(どうする? 妹ってまた言うか? でも……目の前にいるのは“俺”だ)
自分自身をだませるわけがない。似ているなんてレベルじゃない。顔も雰囲気も、根底の何かがまるで同じ。
それを悟ったのか、過去の健一が顔をしかめ、近づいてくる。
「……どこかで会ったことある気が……いや、そんなわけ……え、ちょっと待って……」
“美咲”の目が揺れる。
そして、微かに震える声で、こう言った。
「えっと……俺は……未来から来た中島健一!」
沈黙がまた訪れた。
だが今度は、空気がざわつき始めていた。
過去の健一が、手にしていたレジ袋をゆっくり床に落とし、信じられないものを見るような目で、“美咲”を見つめ続けていた――。
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布団の中で丸くなっていた健一——いや、“美咲”となった健一は、古びたカレンダーに視線を向けた。
(えっと……今日は2009年3月17日……だったか)
カレンダーの角には小さく赤い丸がついていて、「夜バイト」と鉛筆で書かれていた。
「……ああ、そうだ。この時代の俺は、近所のコンビニで夜勤のバイトしてたっけな」
当時の生活が急に色鮮やかに思い出される。
昼夜逆転の生活。深夜に品出しをして、廃棄のおにぎりをポケットに忍ばせながら、うつろな目でレジに立っていた自分。
(ってことは……朝7時には帰ってくるな)
そう思った瞬間、心臓がドクンと大きく跳ねた。
(まさか、今から……)
と、そのとき。
――カチャッ。
玄関の鍵が回る音がした。
バタンと扉が開き、疲れた足音が玄関から台所へとゆっくり近づいてくる。
(きた……!)
思わず身を強張らせ、布団の中から半身を起こした。
「ふぅ……つかれた……」
聞き覚えのある声。
懐かしい、しかし今の自分とは違う“低くて硬い男の声”。
そして――ついに、その姿が部屋の入口に現れた。
寝ぐせだらけの髪、ヨレたジャンパー、レジ袋をぶら下げている。
過去の健一。まぎれもない“本物の自分”。
健一は部屋に目をやると、そこに座っているショートカットの女の子と目が合った。
「……えっ?」
互いにしばし沈黙。
部屋に漂う空気が固まり、時間が止まったかのようだった。
「君……誰……?」
バイト帰りの健一が、戸惑いながら言った。
“美咲”は一瞬口を開きかけて、しかし何を言えばいいのか分からずに黙ってしまった。
(どうする? 妹ってまた言うか? でも……目の前にいるのは“俺”だ)
自分自身をだませるわけがない。似ているなんてレベルじゃない。顔も雰囲気も、根底の何かがまるで同じ。
それを悟ったのか、過去の健一が顔をしかめ、近づいてくる。
「……どこかで会ったことある気が……いや、そんなわけ……え、ちょっと待って……」
“美咲”の目が揺れる。
そして、微かに震える声で、こう言った。
「えっと……俺は……未来から来た中島健一!」
沈黙がまた訪れた。
だが今度は、空気がざわつき始めていた。
過去の健一が、手にしていたレジ袋をゆっくり床に落とし、信じられないものを見るような目で、“美咲”を見つめ続けていた――。
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