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混乱する過去の健一
しおりを挟む「えっ、中島健一って……」
言いかけた言葉の続きを飲み込むように、過去の健一は“美咲”を凝視した。
その視線には驚きと困惑、そして微かな恐怖が混じっていた。
「君、どう見ても……女の子なんだけど?」
“美咲”は息を詰めた。
その言葉が来るのは、わかっていたはずだった。
けれど、実際に自分自身からそう言われると、妙な羞恥と敗北感が押し寄せてくる。
「……わかってる。でも、これは……その、全部このアプリのせいなんだよ!」
そう言うと、美咲は枕元に置いてあったスマホを取り上げ、画面をスワイプして特定のアプリを開いた。
液晶画面には、SF映画のような光るインターフェースと、中央に浮かぶ文字。
**「ChronoSwitch(クロノスイッチ)β版」**
その下に、さらに小さく、
**“時間移動後は性別が変更されます(仕様)”**
という注意書きが、何とも軽いノリで添えられていた。
「……これが、俺をこうしたアプリ」
過去の健一はスマホを覗き込みながら、眉をひそめた。
「なんだよこれ……ふざけてんのか? てか、ベータ版って何だよ。お試し期間かよ」
「俺も最初はジョークアプリかと思った。でも、起動した瞬間に……今、ここにいるわけ」
「いやいやいや……」
過去の健一は頭を抱えた。理解が追いついていない。
当然だ。いきなり未来から来た自分が、しかも女性の姿で、アプリ片手に「俺だよ」などと言い出すのだから。
「じゃあ、あれか。時間を移動すると、性別が……変わるってこと? 君、つまり“俺”が……こうなって……」
「……そう。信じられないだろうけど、風呂に入るともっと実感するよ。最初、俺もビビったし」
「ちょっと待て、、」
思わず顔を赤くして両手を振る過去の健一。
その反応を見て、“美咲”は少しだけ笑ってしまった。
やっぱり自分だ。そう思える瞬間だった。
「……で、そのアプリって、自分で未来に戻ることもできるのか?」
「一応、指定の時間が過ぎれば再移動は可能。でも……」
「でも?」
「戻った先でも、また性別が変わる。つまり、男だった俺が女になり、また別の時代に行ったら……また変わる」
「何だよそれ?」
「そういう“仕様”みたいだね!」
「何か変だねそのアプリは、」
二人はしばし沈黙し、畳の上に正座して向かい合った。
朝日がゆっくり部屋に差し込み、二つの影を並べて伸ばしていく。
同じ顔。違う性別。けれど、同じ記憶と過去を持つふたり。
その空間は、異様で滑稽で、どこか切なかった。
「……ねえっ、」
と、過去の健一がぽつりとつぶやいた。
「未来の俺って、女になって……何か、気づいたこととかあるの?」
その問いに、“美咲”は少しだけ目を伏せて答えた。
「……あるよ。いっぱい。でも、今の君に言ってもたぶん……理解できないよ、」
「マジか……なんかちょっとムカつくんだけど?」
「でも、それが俺だからさ」
「……ああ、そうか」
ふたりは、微笑んだ。
――時間も性別も超えて、“自分”と出会った朝。
不思議な静けさの中で、新たな物語が始まろうとしていた。
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