5 / 11
優衣の決意
しおりを挟む向かい合わせに座って昼食を食べるふたり。
教室の中では、あちこちで笑い声やお箸の音が鳴っているが――このテーブルだけは、やけに静かだった。
優斗は相変わらず、無言で弁当をつついている。
いや、彼なりに気を使っているのか、たまに「うん」とか「へぇ」とか反応はある。
でもそれが全部、\*\*過去の自分の「テンプレ反応」\*\*であることを、優衣は知っている。
(うわ~、こいつほんとにしゃべんないな~。ていうか、これ俺だったんだけどさ!)
黙ってても気まずいし、かといって話しすぎると逆に引かれるのも分かる。
(これ、難易度高すぎない? 自分と仲良くなるって、つまり自分のクセ全部知ってるから、対処が超めんどくさい……!)
それでも、今の優衣は、ひとつだけ信じていた。
(この子は――いや、“私は”、誰かに話しかけてもらうのをずっと待ってたんだ)
だからこそ、声をかけたのだ。
「……ねえ、中島くんって、さ。夢とか、ある?」
突然の質問に、優斗は箸を止めた。
しばらく沈黙があって、ボソッと返ってきたのは――
「……ない」
「即答かぁ……」
「いや、考えたことはあるけど……何かになりたいとか、特に思ったことなくて。目立つのも得意じゃないし……うまくやれる気もしないし……」
そこまで言って、ふと口を閉じる。
(あ~~~!!! それな~~!!!)
内心、めちゃくちゃ分かる。というか、**それ全部、自分の過去の脳内そのままだから!**
でも、それを言ってしまえば元も子もない。
「……でもさ、なんかひとつくらい、“やってみたい”って思うこと、なかった?」
優斗は少し考えて――目線をそらしながら、ぽつりと漏らした。
「……もし、生まれ変われるなら……なんか、別の自分になってみたかったなって」
(……ッ!!)
優衣の手が、思わずスプーンを握りしめる。
心の奥を、グサリと突かれたような感覚。
(それ、今の私じゃん……)
まさに、今その願いを叶えてこうしてここにいる、自分。
思わず言葉に詰まりかけたが、優衣は優しく微笑んで言った。
「……そっか。そういうのって、案外叶ったりするかもよ?」
「……は?」
「なんでもないっ」
バレないように笑顔でごまかす。
自分で自分に人生アドバイスをするこの妙な構図。だが、それでも――
「……なんか、変な子だな、君」
優斗がポツリと漏らしたその言葉に、優衣はニヤリと笑った。
「よく言われる。中身、おっさんってね」
「え?」
「冗談だよ~ん☆」
そんなこんなで、沈黙ばかりだった机の上には、ようやくひとつの笑い声が生まれた。
---
優衣は決めた。
この優斗に、昔の自分に、少しずつ寄り添っていくことを。
ただ見守るだけじゃなくて、ちゃんと**友達として、導いてあげることを**。
それは、かつてできなかった“自分への救済”であり――
いま、彼女自身が新たな未来へ踏み出す第一歩でもあった。
---
1
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる