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27.元悪役令嬢と国王
あと少しで村に着く、というところで村に続く街道を大きな馬車が走ってくる音がした。
振り返ってみれば馬車は十数人の騎士に囲まれていて一目で高貴な身分の人間が乗っていることがわかる。
だんだん馬車が近付き、最初は道の端に避けようとしていた私だったが馬車に刻まれた家紋が目に入った瞬間、両腕を広げて目の前に飛び出していた。
「おいっ!?」
ニトが慌てて引き戻そうとするけれどそれを無視して大声をあげた。
馬車に乗る人物まで届くように。
「そこの馬車、お願いします!!止まってくださあああぁいっ!!」
急に飛び出してきた私に馬に乗って馬車を先導していた騎士が声を荒げる。
「貴様なにを考えている!この馬車を王族の馬車と知っての狼藉か、返答によってはこの場で切り捨てるぞ!」
やはりあの家紋は王族の物だった。
私は腕を広げたまま頷く。
「知っています!だから飛び出しました!王弟であるジークハルト様に危険が迫っています、私の話を聞いてください!」
「なっ……!?」
ジークさんの名前を出すと私を睨み付けていた騎士は険しい顔をした。
「ジークハルト様の命を狙っている賊は、ある公爵家の侍女と結託してすぐにでも行動を起こそうとしてるんです!どうか手を貸してください!ジークハルト様を助けるために!」
「よくもその様な世迷い言を!」
騎士からすればこんな道端から飛び出してきた人間の言うことなど信じられないのが当たり前だ。
けれどもし彼らを味方につけることが出来れば、確実にリエナ達を捕まえジークさんを助けることができる。
どうにか説得できないかと説得力のある言葉を探していると不意に馬車のドアが開いて中から一人の男性が降りてきた。
「陛下、出られてはいけません!」
騎士が慌てて庇おうとするが男性は片手を上げてそれを止める。
「陛下……?」
王族だとは思っていたがまさか国王の乗った馬車だとは。
見た目は四十代後半だろうか。
ジークさんによく似た顔立ちだがどこか冷たい雰囲気のあるその人は私を無表情で見つめる。
「娘、お前の話を詳しく聞かせろ」
固く冷たい声で告げられ私は自分の知ってる事を全部話した。
リエナに誘拐されて捕まっていた事、そこで聞いたジークさんの暗殺計画、ニトを説得し捕まっていた場所から逃げ出してジークさんが滞在しているであろう村に向かっていた事など。
国王を守るように控えていた騎士は信じられないというように訝しんでいたが国王は目を細めてじっと私の話を聞いてくれた。
「その話、信じよう」
「陛下!?」
国王の言葉に驚いたのは騎士だけでなく私もだ。
「……信じてくださるのですか?」
思わず尋ね返せば国王はひとつ頷く。
「信じるに値する情報があっただけの事だ。乗れ、お前の村に連れていってやる。そこの子供は誰か馬に乗せてやれ」
「しかし陛下っ……!」
「弟の命が掛かっている、反論ならばすべて終わってから聞いてやる。動け」
「……畏まりました」
張りのある声で命令され騎士はすぐに頭を下げる。
「娘、乗れ」
「は、はいっ!」
ニトが一人の騎士の馬に乗せてもらうのを確認して私も国王様の乗っていた馬車に乗り込んだ。
あまりに内装が綺麗な馬車だったので靴の土は出来る限り落としたが、迂闊に足をついたら汚してしまいそうで怖い。
恐る恐る乗り込むと向かい合う形で国王が乗り込みドアが閉まる。
(え、まって、他に護衛の騎士さんとか乗らないの!?)
馬車の中で国王と二人きりにされるというまさかの状況に私は思わず声をあげた。
「あ、あの……騎士の方は同乗されないのですか?」
「必要ない。お前が例え我が命を狙うような輩だとしてもお前に危害を加えられるより先に、私がお前の首を落とす」
そう言いながら国王は帯刀した剣に触れた。
それだけ国王は腕がたつ武人と言うことなのだろう。
ならば私が心配する必要も無さそうだ。
「それよりこれを読め」
緊張して身を固くする私を無視して国王は一通の手紙を差し出した。
言われるがままに受け取って手紙を開くと、とある公爵家と暗殺集団が繋がっている可能性があると密告する内容が記されていた。
そして疑いのある公爵家の令嬢を見つけた事、その令嬢に接触し情報を引き出すといった事まで書かれている。
差出人の名前はジークさんのものだ。
「……暗殺集団と公爵家が繋がっているという情報を知っているのはジークハルトだけだ。だがお前もそれを知っていた。だから信じることにした」
「私が……その暗殺集団の人間だとは思わなかったんですか……?」
「思わない、それがあったからな」
「それ……?」
首をかしげる私に国王はすっと私の胸元を指差した。
そこにはジークさんからもらったブローチがついている。
貰ったときから毎日つけている私の宝物だ。
「それはジークハルトの作ったものだろう」
「分かるんですか!?」
「……これでも兄だからな」
国王の表情が少しだけ和らいで見えた。
離れていてもこの人はジークさんを大事に思っているのだろう。
「ジークハルトが手作りの物を渡すのは家族や身内だけだった。それを持っているお前はジークハルトの特別な人間なのだろう。信じるには充分だ」
国王の言葉に私はそっとブローチに触れる。
熱を持つはずのないそれがほんのり暖かい気がした。
振り返ってみれば馬車は十数人の騎士に囲まれていて一目で高貴な身分の人間が乗っていることがわかる。
だんだん馬車が近付き、最初は道の端に避けようとしていた私だったが馬車に刻まれた家紋が目に入った瞬間、両腕を広げて目の前に飛び出していた。
「おいっ!?」
ニトが慌てて引き戻そうとするけれどそれを無視して大声をあげた。
馬車に乗る人物まで届くように。
「そこの馬車、お願いします!!止まってくださあああぁいっ!!」
急に飛び出してきた私に馬に乗って馬車を先導していた騎士が声を荒げる。
「貴様なにを考えている!この馬車を王族の馬車と知っての狼藉か、返答によってはこの場で切り捨てるぞ!」
やはりあの家紋は王族の物だった。
私は腕を広げたまま頷く。
「知っています!だから飛び出しました!王弟であるジークハルト様に危険が迫っています、私の話を聞いてください!」
「なっ……!?」
ジークさんの名前を出すと私を睨み付けていた騎士は険しい顔をした。
「ジークハルト様の命を狙っている賊は、ある公爵家の侍女と結託してすぐにでも行動を起こそうとしてるんです!どうか手を貸してください!ジークハルト様を助けるために!」
「よくもその様な世迷い言を!」
騎士からすればこんな道端から飛び出してきた人間の言うことなど信じられないのが当たり前だ。
けれどもし彼らを味方につけることが出来れば、確実にリエナ達を捕まえジークさんを助けることができる。
どうにか説得できないかと説得力のある言葉を探していると不意に馬車のドアが開いて中から一人の男性が降りてきた。
「陛下、出られてはいけません!」
騎士が慌てて庇おうとするが男性は片手を上げてそれを止める。
「陛下……?」
王族だとは思っていたがまさか国王の乗った馬車だとは。
見た目は四十代後半だろうか。
ジークさんによく似た顔立ちだがどこか冷たい雰囲気のあるその人は私を無表情で見つめる。
「娘、お前の話を詳しく聞かせろ」
固く冷たい声で告げられ私は自分の知ってる事を全部話した。
リエナに誘拐されて捕まっていた事、そこで聞いたジークさんの暗殺計画、ニトを説得し捕まっていた場所から逃げ出してジークさんが滞在しているであろう村に向かっていた事など。
国王を守るように控えていた騎士は信じられないというように訝しんでいたが国王は目を細めてじっと私の話を聞いてくれた。
「その話、信じよう」
「陛下!?」
国王の言葉に驚いたのは騎士だけでなく私もだ。
「……信じてくださるのですか?」
思わず尋ね返せば国王はひとつ頷く。
「信じるに値する情報があっただけの事だ。乗れ、お前の村に連れていってやる。そこの子供は誰か馬に乗せてやれ」
「しかし陛下っ……!」
「弟の命が掛かっている、反論ならばすべて終わってから聞いてやる。動け」
「……畏まりました」
張りのある声で命令され騎士はすぐに頭を下げる。
「娘、乗れ」
「は、はいっ!」
ニトが一人の騎士の馬に乗せてもらうのを確認して私も国王様の乗っていた馬車に乗り込んだ。
あまりに内装が綺麗な馬車だったので靴の土は出来る限り落としたが、迂闊に足をついたら汚してしまいそうで怖い。
恐る恐る乗り込むと向かい合う形で国王が乗り込みドアが閉まる。
(え、まって、他に護衛の騎士さんとか乗らないの!?)
馬車の中で国王と二人きりにされるというまさかの状況に私は思わず声をあげた。
「あ、あの……騎士の方は同乗されないのですか?」
「必要ない。お前が例え我が命を狙うような輩だとしてもお前に危害を加えられるより先に、私がお前の首を落とす」
そう言いながら国王は帯刀した剣に触れた。
それだけ国王は腕がたつ武人と言うことなのだろう。
ならば私が心配する必要も無さそうだ。
「それよりこれを読め」
緊張して身を固くする私を無視して国王は一通の手紙を差し出した。
言われるがままに受け取って手紙を開くと、とある公爵家と暗殺集団が繋がっている可能性があると密告する内容が記されていた。
そして疑いのある公爵家の令嬢を見つけた事、その令嬢に接触し情報を引き出すといった事まで書かれている。
差出人の名前はジークさんのものだ。
「……暗殺集団と公爵家が繋がっているという情報を知っているのはジークハルトだけだ。だがお前もそれを知っていた。だから信じることにした」
「私が……その暗殺集団の人間だとは思わなかったんですか……?」
「思わない、それがあったからな」
「それ……?」
首をかしげる私に国王はすっと私の胸元を指差した。
そこにはジークさんからもらったブローチがついている。
貰ったときから毎日つけている私の宝物だ。
「それはジークハルトの作ったものだろう」
「分かるんですか!?」
「……これでも兄だからな」
国王の表情が少しだけ和らいで見えた。
離れていてもこの人はジークさんを大事に思っているのだろう。
「ジークハルトが手作りの物を渡すのは家族や身内だけだった。それを持っているお前はジークハルトの特別な人間なのだろう。信じるには充分だ」
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