隠密は恋をしない

粉砂糖

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4.ご挨拶に参りました。

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三日間の馬車の旅では初日からついでと言われて任務に駆り出されることもあった。
登城の為の三日間の休暇かと思ってましたが我が兄は容赦はありませんでした。
お嬢様への優しさはいったいどこから捻出されるんでしょう。
少しは分けてくれてもいいのでは、などと甘い考えも持ちましたが、お嬢様に向ける様な胡散臭い甘い笑顔で「よく頑張ったね」などと言われるその姿を想像すると鳥肌が立ってしまいました。

春先だから冷えた。そういう事にしましょう。


今夜が最後の馬車旅の夜。
王都のすぐ隣町で宿をとり、休む間もなく我が兄にターゲットの写真をス…と机の上に置かれました。恨みたい。
泣く泣く任務着に着替え、獲物を懐に仕舞い夜闇に繰り出しました。
とはいえこの10歳の少女の身体は非常に便利で小回りがよく利きます。厳重な警備態勢を敷かれた屋敷にも難なく忍び込み暗闇に乗じて対象を殺すことは朝飯前なのです。


今回のターゲットは王太子殿下の暗殺を目論む小貴族の一人でした。
彼は場内の警備の穴を知りそこに暗殺者を送り込もうとしていたのです。だがなんと間抜けかその依頼を受けたのは我がエルミッテ家でした。
その情報を掴んだ我が兄は王太子殿下へ早速報告、排除やむなしの一言を受けたと言います。

ベッタリとナイフに付着する血液を拭き取り懐に仕舞います。任務はこれで終了なのです。


「さて、部屋を荒らして金品を少々頂いてから屋敷に火を付けましょうか」


野盗が小貴族の家を襲った風に見せかけるのも暗殺を隠すテの一つなのです。
ワタシはその様に指示を受けていたので一家惨殺時も野盗の荒い剣筋を真似てみました。中々に非効率な殺し方をしております。

ガシャガシャと引き出しを抜き出したり、本棚の本を散らしたり、日頃のストレスも込めて思う存分荒らしました。
キラキラといい汗をかいている気がします。

ふと本棚の奥から小さな金作りのはこが転がりました。手に取ってみると開かなかったことに苛立ったのか何かにぶつけた様な沢山の傷が目立ちます。何が入っているのやらと左右に振ってみると中からはコロコロと何か小さいものが転がる音が聞こえました。

例えつまらぬ物でも中身が気になったので今夜はこれと宝石でも頂いていきましょう。ちなみにこの宝石はアシュリーお嬢様の婚約式のドレス代で消えます。いいんですけどね。

屋敷中に油をまいて、松明を投げ込みました。
撒かれた油によって炎は一気に屋敷を包み込み、夜中の空にオレンジ色の光を差し込ませます。
これにて後始末もすみましたので漸く宿へ帰る事が出来ます。

最後にもう一度屋敷を見渡し生存者の確認をしてタン、と地を蹴りだし灯りの少ない街へと飛び降りたのでした。



さてかくかくしかじかで王城でございます。
圧巻、荘厳、なんと言い表せばよいのでしょう。灰色の石を積み上げて造られた立派な城はこの国創立時より折々で手入れされながらも長い歴史を持っています。
城門を潜りすぐには立派なバラ園が見え、王宮専属庭師が丁寧に手入れをされているのだろう一輪一輪見事に咲き誇り王城を飾り立てます。

少し進んだ先で王太子殿下の従者様に案内され、まるで迷路のような王宮を渡り歩くこといくばく。
漸く殿下のお部屋の前に立っております。お部屋の扉には二人の騎士が門番として立ち並び、全身黒づくめのワタシ達に訝し気な視線を向けます。
どちらの騎士様も精悍な肉体を持ち、ご容姿も整っていらっしゃいます。
美形の目を細めた姿は眼福でございますねえ。

それもこれもワタシは“影”の衣装として黒いローブのフードを被り、のっぺらぼうの様なつるりとした面をかぶっているのですから。仕方のない事なのです。怪しさに関しては100点満点です。

隣に立つ我が兄アウルは全身黒づくめではあるものの少し身綺麗にしておりますがおおむねいつも通りの姿。当主お呼び当主代理以外は公にその顔を外へ出すのは基本禁則です故。

騎士様が殿下のお部屋の扉を二回叩き「エルミッテ家のご子息がお越しです」と外から投げかけると、中から「入れ」という言葉が聞こえ扉が少しずつ開かれました。
…兄顔パス?

先頭立って兄が一礼と共に入室しワタシもそれに倣って一礼しお部屋へ入ります。
ペコリと頭を下げたワタシにこの部屋の主である王太子殿下ー…アルノルト殿下はゆったりとこちらへ視線を向けました。

シャンデリアの光が当たってキラキラと輝く金糸の様なブロンド、宝石をそのまま押し込めた様なペリドットの瞳。世の令嬢が騒ぎ立てるのも無理はないな、と仮面の奥で小さく頷きました。


「この子なのか、お前の代役の影は」


年の割には低く、甘い声で殿下は問いかけました。その言葉に兄はニコリと笑みを浮かべ頷くと、自身も口を開きます。


「ええまあ。コレは我が一族でも相応な実力を持つのですが、奉公先より今回だけ特別に王都へ戻してきたのです」

挨拶を、と促されワタシも頷き臣下の礼をとりました。


「ご紹介に与かりました。一時ではございますが“影”の護衛としてお勤めいたします。ローズマリー・エルミッテと申します。御用がございましたら何なりとお申し付けくださいませ」

「ほお。妹かな?アウル」


ワタシの名乗りを聞いて反応を示した王太子殿下に、我が兄は頷きます。


「ええ、以前お話しした婚約者の影を務めている我が妹でございます。ああローゼ、仮面は外してもいい。」

「畏まりました。」


我が兄の指示のもとワタシは面を外し、真似るように笑みを浮かべました。


「改めましてアルノルト殿下。ローズマリー・エルミッテでございます。以後お見知りおきを」


ドレスを着用していない為そのまま臣下の礼を再度とり、顔を上げると
少々身を固めたご様子の王太子殿下はジ、とこちらを見るばかりでございました。
どうされたのでしょうね。インターネット小説ですと美しいご令嬢を前にこういった反応を見せるパターンが多いのですが、ワタシでは有り得ません。

となるともしや仮面に何か仕掛けがあり顔に落書きでもされているのでは?と面を確認するも絵具も何もありません。

兄をちらりと横目で見ますが兄は顔を背け肩を震わせておりました。いやこれ落書きではないのか!?
確認できない今、見苦しい物は隠すに限ると再度面を装着しました。

王太子殿下は何かを落としたような複雑な表情をされました。

見世物はこれまででございますよ、殿下。そして我が兄よいつまで笑っているのです。挨拶は終えたのですから帰りますよ。



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アルノルトの口調統一の為少し修正加えました!
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