隠密は恋をしない

粉砂糖

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8.式典終了後

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その後式典はつつがなく閉会を迎えた。
いやあ何事も無くてよかったですよねえ。

ワタシは王太子の婚約者候補として社交界を騒がせてしまったんですが
噂では名の知れない深窓の美しい令嬢らしいですよ。一言もかすってねーな!

どうやら振る舞い方にも問題無かったらしく任務は遂行させたので、
兄からのお咎めナシで良かったのですが、弊害、大きすぎやしませんか。

人の噂も七十五日と言いますけどもね、社交界を賑わせるだけ賑わせてその後なんの進展も無く消えるとか外聞悪すぎないか。
その内捨て置かれる事を祈るしかない。

切実に忘れてほしい。殿下の将来に関わりますんでホント、可愛いご令嬢が殿下の心かすめ取ってくれないかな~マジで。
責任なんてうちの家柄じゃ取れませんし困るんですってほんと。

ちなみに渦中の人物である殿下は数日公務をこなしたあと王立学園へと戻り、当初の目的であった側近候補探しに勤しむんだとか。おい婚約者候補も探せよ!!
何で知ってるかって?フフフそれはですね、聞いてないのに向こうが話してくださったんだよ!!
聞いてないって!って心の中で突っ込みながら真顔で「へえそうなんですね」というてきとうな相槌を打っていましたよ。

どう考えても不敬だろうこれ。しかしワタシは五体満足で身体も精神も異常は無い。

学園に戻る事に伴い一時的に引き受けていた護衛任務は兄に返上する事となった。
まだ学園入学規定年齢達してないですし、なにより兄がいる以上継続する理由もありませんしねえ

懸念されていた殿下狙いの残党はあらかた牢の中にぶちこみました。
ついでにちょっと情報提供に協力して貰ってます。
彼らもその内然るべきところへ行くのでしょう。上に昇るだけですよ。ははは。

式典中ではなく後を狙うだろうというあのドレスコードも無意味なワタシの推測は当たっていたみたいで、
子ども心満載の策でばれっばれな囮作戦を練ってみたのだが彼らは容易にボロを出す事になった。

式典終了後翌日、色々と溜まるものがあったであろう殿下の息抜きの為の、数人の護衛と友人を集めた城の森での狩り。
陛下が殿下の式典での振る舞いを褒め、褒美にその一時だけ自由な時間を与えるという王というよりも父親らしいプレゼントという名目だった。

実際に彼は狩りも嗜むようで囮作戦だとしても狩ができる事は純粋に喜んでいたと思う。

そこで、その場でしかけられた襲撃者が『知り合い』の同業者だったのだ。
ワタシも兄も狩りに参加していたが顔を見合わせてから小さく溜息をつきあった。
彼らのずさんな計画の全容を聞き、お前ら死にたい?と聞いたところ皆一斉に掌をひっくり返した。

まあ王家の影に目を着けられたくはないだろうなあとちょっと同情………はさすがにしなかった。

そういうことで任務も無事終えた私はお嬢様の待つカントレール領に戻れる。
時間にしておよそ2週間でしたけどなかなかに長かったなあ。

捕まえた徒党の情報を兄に引き継ぎ、学園へと戻るお二人と共に城を出発することにした。

これからの学園生活に厭わしげにする様を隠さない兄には思わずため息を漏らしました。
お嬢様にもチクってやろうかな………と思ったけどその考えは読まれたらしく笑顔で睨まれたので辞めにしました。

もし告げ口した際、お嬢様は何も考えないままにかわいいなどと発言しワタシが言っていたとリークされるだろう。
そんなことをしたらまた今回のような案件に巻き込まれる気がしてならない。というかされる。
邪魔な芽は先に摘むに限りますよねえ。なんだか悪役っぽい台詞になっちゃったな

何も考えてませんよの意思を込めて肩をあげると兄はにこりと微笑んだ。
お嬢様がそこにいればきっときゃあと黄色い声をあげていたろうなあなどとぼんやり思った。
ああでもこんなとこで油を売っているわけにはいかんな。

「ローゼ!ちょっと、」
「殿下?」

ではまたと颯爽と消えようと思った去り際に殿下に呼び止められて、どうかしたのかと振り返った。
私の眼前の麗しの王子様は宝石の様に美しい金色の髪を風になびかせながら、とろりと蕩けそうな笑みを見せた。
そしてその手にもっていた綺麗なベルベットの小箱をワタシに差し出す。

「君には今後必要になるからこれを着けててね」
「は?」
「じゃあ、アウルの想い人さんにもよろしく。」


箱を受けとるや否や、彼は満足そうにして簡単な挨拶を残しさっさと馬車に乗り込んでしまった。

詳しい説明は無しか。一目みればわかるものなんだろうか。
罠かとも思ったけどそんな気配はないので馬車で腰を落ち着かせたすぐに遠慮無く開けた。

「これを付けていれば王家公認としてどこでもいけるから」というメモと共に
ペリドットに王家の紋章が刻まれたの銀細工のブローチが太陽の光に反射してきらりと煌めいた。

顔パスならぬ王家パス……!王族直属の臣下でもなかなか得られないという魔法石パスじゃないか。
そういえば兄もこれをつけていたっけかあ、と唸る。
もしかしたら王家からエルミッテ家に与えて下さるものなのかもしれないなあ。
特別な意図も感じられないし、有り難く頂戴しよう。

しかしどこにでも行けると言われてもワタシはそもそもそんなに他所へ出入りすることも無い
うーん。宝の持ち腐れとは言うが他人の手に渡らせるわけにもいかないとも思った。
勿論悪用させることを懸念して、だ。けしてラブコメ的発想でもない。

なぜこんなものを与えたのだろうか?と疑問に思ったが、褒美なんだろうなあと思い至るとなんだか納得できた。
ワタシ好みの華美を控えたデザインのそれは普段着用する護衛用の黒の服に大変映えるので、身嗜みの一環で着けることに。

しかし何かを忘れてる気がするなあと思っていたのだが、渡されたブローチに込められていた意味を理解したのはカントレール領まであと2日の夜だった。

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