異世界をホントは救いたい(希望)

ガランドウ

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序章 異世界を救わない

エピソード1 トンネル

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 1988年、7月。

 三和台さんわだい小学校に通う5年生、朱鷺 将馬とき しょうまは終業式を終えた日の夜、加入している地元の学童野球チームの連絡当番の為、父親の作った夕食をき込み家を飛び出した。

 7月の空は午後7時を回ってもまだ夕闇は明るく、通りに出れば多くの人々が大通りを行き交っている。

 「え~と、ずはヨシんトコだね」
 手に持ったクリップボードには、この夏休みの間に行うスケジュール表が人数分と、一番下に5万図のコピーが挟み込まれ、その地図には各メンバーが住む位置が、名前と共に記載されていた。

 道路を挟んだ向かいの路地を進むと、「ヨシ」こと、中村 義和なかむら よしかずが住む長屋があり、将馬は呼び鈴を押すと、間髪開けずにガラリと引き戸が開けられ、ヨシの母親が顔を出す。

 「わぁショウちゃん!よく来たわねぇ、ほら上がって!今日はショウちゃんが大好きな肉じゃがよ!」
 将馬の来訪に華やぐヨシの母親は、将馬の手を引き家に引っ張り込む。

 「母ちゃん何してんだよ!将馬困ってんだろ!」
 玄関から将馬の手を引っ張り、挙句にかまちで将馬を抱き締めている母親の頭を、ヨシは「ぺんっ」とはたき上げる。

 「いいじゃない別に、ショウちゃんはウチの子も同然よ?いえいっその事、もうねウチの子になんなさい、ね?」
 性懲りも無く、再度将馬を抱き締めようとするのをヨシは引き剥がし、将馬の手を掴んで表に飛び出す。

 「こんなとこで油売ってる場合じゃないんだよ!俺も将馬と一緒に連絡回し行ってくっからな!」
 「あ、オバさんゴハンちゃんと食べたよ!それじゃ行ってきます、またー!」
 将馬はヨシと連れ立って、路地を駆けだした。

 「はぁ、ウチの母ちゃんどんだけ将馬の事が好きなんだよまったく、それに将馬がそぼろ煮好きだからって・・あぁじゃない、肉じゃがだ」
 ヨシの家の方から「ショウちゃーん、帰りに肉じゃが持っていきなさいよー!」と叫び声が聞こえる。

 「ヨシいいって、僕が間違ってじゃがいものそぼろ煮を肉じゃがって思い込んでたのが悪いんだから」
 将馬は申し訳無さ気に、上目遣いでヨシを見る。

 「いや、もう俺ん家でも肉じゃがになってんだよ、それに俺もあの肉じゃが好きなんだよな!」
 気にすんなとばかりに将馬の背を叩き、我先にとヨシは駆け出した。


 将馬とヨシは幼稚園時代からの幼馴染であり、家族ぐるみで付き合いをするほど仲が良かった。
 だが小学校に上がる頃、将馬は母親を交通事故で亡くし、父親は仕事柄出張が多く家にいる事は少なかった為、家に一人いる将馬を不憫ふびんがったヨシの両親が、何かと将馬の面倒を見るようになったのだった。


 「お~いマサ!夏休みの予定持ってきたぞ~い!」
 一軒家に住むチームメイトの元にたどり着き、門の前からヨシは大声を張り上げる。

 「うるさいヨシ!近所迷惑なんだよ!」
 家の中からドタドタと音を立てて、玄関から飛び出してくる小畑 正彦おばた まさひこ、通称マサは部屋着では無く、外行きの恰好だ。

 「んじゃ、いくか」
 マサの忠告を無視し、ヨシを先頭に次の連絡先へと向かう。

 「ところで、やっぱり今日は止めないか?」
 道中3人並んで次の場所へ向かっている時、マサがポツリと言い、立ち止まる。

 「今日は、じゃなくて何時いつも、だろ?」
 ヨシはマサを振り返り、呆れた物言いで返す。

 「いや確かにさ、あそこ通れば近道って分かってるけど・・あそこはホントやばいって・・」
 眉が下がり、情けない顔を晒すマサは、その場から動こうとしない。

 「大丈夫だよ、それに学校でみんなに言ってあるんだよ?今更後には引けない」
 将馬は同じ学校にいるチームメイトに、今日の連絡廻りを皆で一緒に廻ろうと、声を掛けていたのだった。

 毎週土日だけ活動する将馬所属の学童野球チームは、5、6年生だけ予定をその週の木曜日に、順番を決めた当番が、電話などを使わず直に家まで行き、回覧板方式で連絡を行っていた。

 現在5年生チームは10人所属し、当初は一人で全員に連絡を回していたが、今年の春過ぎから隣の校区に住む「佐川純也さがわじゅんや」という男の子がチームに加入してから、問題が発生した。

 純也に連絡をしに行くにあたり、校区境になっている大きな国道を渡り、堤防沿いにあるアパートを目指さなければならない。
 これだけならば交通量の多い国道を渡るリスクと、距離があることぐらいだ。

 しかし、その国道は一級河川を渡る橋を通るのだが、高架橋にはなっておらず、川の堤防へと土手によるスロープ状になっており、堤防と国道が交差する真下には、普通乗用車1台がやっと通れるような長さ30m程のトンネルが存在した。

 問題とは、連絡をする巡回ルートに、このトンネルを通る必要があった。

 「これから三好のとこに行って、それから同じマンションに住んでる外野4人衆とこ行って・・そしてテルんとこだ」
 地図に書かれたルートを、指でなぞりながら説明をするヨシの話に、将馬が割り込む。

 「うん、そうするとテルの家がこの堤防の近くで、そこから純也のトコに行くには、あのトンネルを通らないといけない」
 将馬は顎を押さえ、悩む素振りをする。

 「だから言ってるじゃん!なにもあのトンネル通らなくても、いつも通り坂手前の交差点まで戻ってから行けばさ!」
 心底あのトンネルを通るのが嫌なのか、マサは必死に訴えた。

 「あのさ、小幡正彦君。今は夏だよ?しかも明日から夏休みというこのシュチュエーション!絶好の肝試し日和だと思わないかね?」

 「・・嫌だ」
 ヨシはマサの両肩を掴み、したり顔で説得し出すが、それでもマサは何度も首を横に振り、承知をしない。

 「じゃあさ、みんな集まってから多数決で決めるっていうのはどう?なんならジャンケンでもいいし、ね?」
 このままでは前に進まないと、将馬は妥協案を提示し、マサは渋々提案に乗ることにしたのだった。

 テルの家からトンネルを通れば、同じ堤防沿いにある純也の家は、徒歩10分程の距離だ。

 だがこのトンネルは、昼はともかく夜は行く先、トンネル内、そして行く手前に一切街灯はなく、30m程のトンネルにもかかわらず、先が全く見えない。
 その為、気持ち悪がられ、大人から子供まで好んでこのトンネルを通ろうとする者はいなく、いつしかお化けトンネルと呼ばれ、恐れられるようになっていた。

 将馬達はマサの言う通り、今まではトンネルを通らず迂回をしていたが、お化けトンネルを制覇したという優越感、いやただ勇敢さを見せつけて、女の子にモテたいという下心が働き、この夏休みに決行するとしていたのだった。 


 三好や外野4人衆とも合流し、堤防近くに住むテルを呼び出した将馬達は、問題のトンネルからさほど離れていない、小さな児童公園中央にある街灯下で、円陣を組んでいた。

 「じゃあ行くのは、負けの一人でいいね?」

 「「オ、オー!」」

 「よっしゃ!んじゃ恨みっこ無しで!」

 いざ行くとなれば急に辞退する者も現れ、散々揉めた挙句、みんなで決めた条件を将馬が確認をし、ヨシがジャンケンの準備をそくす。

 「「最初はグー!ジャンケン、ホイ!!」」

 「・・・マジでぇ」
 たった1回振り出したジャンケンに、将馬のチョキに対し全員がグーを出していた。
 将馬は両膝を地面に付き、頭を抱えてこの世の終わりを体現して見せる。

 「やた、やった!助かったぁ~はぐぅっ!」
 歓喜の舞を見せるマサを、ヨシは後ろから首を締めた。

 「黙れマサ。なぁ、やっぱ俺も将馬に付いてっていいか?」

 「いや、ダメだろう。これはみんなで決めたことだ、それを破るのはチームワークに関わる」
 チームのキャプテンでもあるテルが、さも野球の連帯感と引き合いに出し、ホントは行きたいモテたいヨシを否定する。

 「「イケイケ将馬!カッセイカッセイ将馬ぁ~!」」

 「あ~もう、行くよ!行けばいいんだろ!」
 野球の掛け声を使い、煽る三好と外野4人衆に後押しをされ、将馬は自棄気味やけぎみにトンネルに向かって走り出した。


 将馬は勢いに任せてトンネルを駆け抜けようと思っていたが、さすがの不気味さに手前で立ち止まってしまう。

 辺りは真っ暗で、トンネル入り口の影がうっすらと見えるが、トンネルの出口までは見通せない。

 「これは怖すぎるよ・・さすがに無理!」
 怖気づいてしまった将馬は、踵を返しみんながいた公園へ戻ろうとした時、トンネル内を響かせる声が聞こえてきた。

 「お~い、将馬ぁ~!」
 自分を呼ぶ声がトンネル内で反響をし、エコーが掛かっているせいか、やけに近くから呼ばれているように聞こえる。

 将馬はトンネル内に目を凝らして見るが、暗闇に目が慣れてきているにもかかわらず、やはりトンネルの内部は見通せない。

 「だ、誰かいるのー?」
 将馬はトンネルに向かって、声を張り上げる。

 「あーやっぱり将馬だ!俺だよ、さが~・~・~~~」
 暗くて人影は見えず、尚且なおかつ声が反響してよく聞こえないが、将馬の問い掛けに応える声が、隣の校区にいるチームメイトの純也だと分かる。

 「純也ー!なんか声が響いてよく聞こえないんだけど、今からそっちに行くよ!」
 トンネルの向こう側にチームメイトがいる安心感からか、将馬の恐怖心は払拭され、トンネル内部へと走り出したのだった。


 「オーイ、みんな!」
 児童公園で将馬の帰りを待つチームメイトらは、公園入口の方から呼ぶ声に一斉に振り向く。

 「なんだよ、早かったじゃん」

 「なんにしても、無事で良かったよ~心配してたんだぞ」

 「嘘つけ、マンガの話で盛り上がってただけじゃん!」

 チームメイトらは口々に冗談を言い合い、公園入口へ向かう。

 「あれ、純也?どうしてここに?」
 将馬じゃないと先に気付いたヨシが、純也の後ろを見渡す。

 「いや、トンネルの向こうで待ってたんだけど、将馬が来なくてさ」
 純也はトンネルを挟んだ将馬との遣り取りを、事細かに説明をした。

 「それで、将馬と会ってないと・・いや、有り得ないだろ!」
 ヨシは公園を飛び出し、トンネルへと走り出す。

 純也も後に続き、他のチームメイトも顔を見合わせた後、意を決し走り出した。

 真っ先にトンネルに飛び込んだヨシは、トンネル内を見渡しながらゆっくりと歩く。
 怖いと思っていたトンネルへの恐怖心など吹っ飛び将馬を探すが、程無くしてトンネルを抜けてしまう。

 「将馬いたか?」
 後を追ってきた純也が、トンネルを振り返りながらヨシに問いかける。

 「いない・・」
 ヨシの顔に焦りの色が浮かぶ。

 「あれだろ?怖くなってトンネル行かずに帰っちゃったとか」
 遅れてトンネルから出て来たグループの一人、三好が一つの推測を口にする。

 「ふざけんな!将馬がそんな無責任なことするかよ!」
 怒りを露わにするヨシだったが、将馬がいない現実に不安がヨシを襲う。

 「将馬ーーー!どこいんだよーーー!!」
 ヨシの叫びが、深まる夜の空と、暗闇のトンネルに響き渡るのだった。



          §



 31年後・・2019年 春

 今年、博栄はくえい高校の2年生に上がるの「済美 劾世さいび がいせ」は、休日の土曜日だというのに教室に唯一人一番前の席で、何をするワケでもなく天井を見上げ、ふんぞり返っていた。

 「キャー!ガイ君だぁ」
 廊下からジャージを着た女子2人組が該世を見つけ、黄色い声を発しながら教室になだれ込んできた。

 「ね、ね!どうしたの、こんなとこで?」
 両サイドから天井を見上げる該世の視線を塞ぐように、2人は上から顔を寄せる。

 該世は大きくため息をいてから、2人の顔を押し退ける。
 「顔がちけぇよ、まったく。それにだ、俺が何してようと関係ないだろ」

 「あー、これってテレてる?テレてるよね?」

 「うん、テレてる。ホント、可愛いんだからぁ」
 2人して該世をからかい出すが、どこか嬉しそうでもある。

 「勝手に言ってろ!もうお前らどっか行けよ、俺は忙しいんだよ!」

 「そうよ、済美君はこれから補習&追試が待ってるのよね」
 からかわれて憤慨する該世のセリフに、付け足す言葉が掛けられる。

 本校の生徒会副会長を務める中村 翔子なかむら しょうこがプリントの束を抱え、教室の戸口に立っていた。

 「済美君はこれからお勉強ガンバらないといけないみたいだから、お話があるなら後にしてあげて」
 翔子はずかずかと教室に入り、バンッと該世の座る机の上にプリントの束を叩きつける。

 「ありゃ、ガイ君大変そ。じゃあ邪魔しちゃ悪いから私達行くね、またね~ガイ君」
 2人の女子が該世にウインクを寄越し、手を振りながら教室を後にした。

 「はぁ、こんなにあんの?ってか担任はどうした?」
 プリントの束にウンザリする該世は、ふと翔子に疑問を投げる。

 「しんないわよ、こっちは生徒会役員会議で忙しいっていうのに、なんで私がアンタの面倒見ないといけないのよ、まったく!」
 仁王立ちし、腕を胸の前で組んだ翔子は、フンッと該世にそっぽを向く。

 「な、なんか怒ってない?ってか、よそ行きの口調じゃあ無くなって・・」

 「失礼ね!私の言葉遣いは元からこうです!それに怒ってなんかいないわよ!」
 
 「はい、なんかスンマセン」
 矢継ぎ早に怒鳴られおののく該世は、つい謝ってしまう。

 「はいはい、そんなことより早く課題終わらせてよね。該世ならすぐ終わっちゃうでしょ?」
 気が晴れたのか、翔子は該世の隣の席に座り、机に頬杖をついて該世を眺める。


 該世の成績は悪くない、何なら上から数えた方がいい程だ。

 だが、学校をよく休む。

 今回の補習も出席日数を補填する為と、追試は学期末テストを休んだ為だった。


 該世はため息を一つ吐き、課題のプリントに向き合い出した。

 (真面目な顔しちゃって・・そんな顔、該世がモテちゃうのはしょうが無いのかな)
 翔子はどこか悲観した思いを巡らし、該世を見詰め続けるのだった。


 
 高校から最寄りの駅まで続く、夕日に照らされた道を、該世と翔子は連れ立って歩く。

 「待っててくれなくても、良かったのに」
 翔子は後ろ手に手さげカバンを持ち、翔子より少し背の高い該世の顔を、屈むようにして覗き込む。

 「いや、そ、そんなに待ってたわけじゃないって。担任が追試の答え合わせに時間かけやがったからさ」
 該世は少し照れたように目を逸らす。

 「ふぅん、そうなんだぁ。へぇ~」
 該世の態度に嬉しさを覚え、翔子はいたずらな笑みを浮かべた。

 3月上旬だというのに夕暮れ時はまだ寒く、吐く息も白い。

 同じ道を歩く人々は、寒さからか足早に駅へと向かうが、2人は駅までの道程を惜しむかのように、途中で立ち止まっては会話を弾ませ、時間を掛けて駅へと向かうのだった。


 
 該世と翔子とは同じマンションの住人であり、約1年程前に該世がこのマンションに引っ越してきていた。

 翔子は博栄高校に進学が決まり、入学式当日の朝、マンションのエレベーターで該世と鉢合わせたのが、最初の出会いであった。

 同じ学校の制服を着た同学年同士、声を掛け合うのは自然の成り行きであり、それ以来2人は登下校を共にする。

 だが、該世は学校を休むことが多く、休日も同じマンションに居ながら目にする事はあまりなかった。


 「ただいま~」
 翔子は靴からスリッパに履き替え、リビングへと向かう。

 「おう翔子、お帰り。あれ?ガイはどうした?」
 キッチンでフライパンを振るう翔子の父親が、翔子を見ることなく話す。

 「え、え?な、なんでお父さん知ってるのよ?」
 一緒に帰って来ていたのをどこかで見られたかと、動揺してしまう翔子。

 「いやな、朝久々に制服着たガイを見かけたんだよ。だから今日学校行ってるだろうから、な?」
 皆まで言わせるなよと、バチリとウインクをかます父親。

 「そ、そういうことね、なるほど・・ん?それより、なんでお父さんが料理作ってるの?お母さんとおばあちゃんは?」

 「母ちゃんとばぁちゃんとで、演劇見に行ってるよ。という事で、今日の晩飯は俺特製ナポリタンだ!」
 大皿に山の様に盛られたナポリタンを、リビングのテーブルにドカりと置く。

 「はぁ?こんなに食べれるの?私は無理よ!」
 翔子は盛られたナポリタンの量にうんざりする。

 「何言ってんだ?俺でも無理だよ。だからほら、早くガイを呼んで来い!」
 父親は玄関を指差し翔子に指示するが、フン!と鼻を鳴らした翔子は、ドカドカと足を踏み鳴らし自分の部屋へと向かう。

 「なんか用事があるんだって・・」
 部屋の扉を開け、立ち止まった翔子は、一言残した後、バタン!と勢いよく扉を閉めた。

 「あちゃ~、フラれた後だったか」
 翔子の部屋の方から、ドン!と壁に向かって何かを投げ付けた音が鳴る。

 「おー、こわ!・・う~ん、ばぁちゃんいたら無理にでもガイの奴、引っ張ってくるんだが・・」
 父親である中村義和は、どうしたものかと、しかめっ面で自分の作ったナポリタンを眺めるのだった。



          §



 該世は無事2年生に上がり、今年度からはほぼ休む事無く登校するようになっていた。
 
 そして今はもう、1学期の期末テストが始まる季節になる。


 「なぁガイ~、頼むから数学の点取れるポイントだけでも教えてくれよ~」

 「いや待て待て!それより明日の現国の方が大事だろ!ガイ頼む!」

 昼休みの休憩時間、該世の机の周りに、崖っぷち集団が群がっていた。

 「よ~し、それじゃあテストに出る問題をって、知るわけないだろ、ばーか!」
 該世は群がる男共を足げにする。

 それでもへこ垂れない男子達は、ゾンビの様に該世に纏わり付いてくるが、いつの間にかゾンビの群れが3人程から5人6人と膨れ上がる。

 「ガイ~・・俺らを地獄の底から救ってくれ~・・」

 「だぁー!いい加減にしやがれ、暑苦しいんだよ!」

 映画さながらに、ゾンビの群れから抜け出した該世は、もう教室には居られないと廊下へ駆け込む。

 「キャッ!」
 廊下に飛び出した途端、目の前に人影が現れ、ぶつかる寸前で該世はかわすが、驚いた相手は後ろに倒れそうになり、思わず該世は抱き留める。

 「すまん、大丈夫か?・・ん?なんだ、翔子かよ」
 肩の後ろに腕を回し、抱き上げる様な格好で相手の顔を見た該世は、安堵の表情を浮かべる。

 「おお!ガイが副会長をかどわかしてるぞ!」

 「なになにぃ~?二人はデキちゃってるの?」

 「ガイてめぇー、俺達の女神に何してんだ!」

 抱き合う二人の周りに野次馬ができ、煽る物や茶化す者、中にはやっかみも含まれている。

 「・・・もう、大丈夫だから」

 「ん?」

 「だから、いつまで抱き付いてるのよ!!」

 該世と間近で見つめ合っていた翔子は、耳を真っ赤にして俯くが、この状況にはたと気付き、離れようと該世を突き飛ばすが、該世は体を半身にスルリと避け、バランスを崩す翔子を倒れないように、くるりと回してから立たせて離れる。

 「オオ~~」
 曲芸バリの立ち回りを見せる該世に、野次馬から感嘆の声が漏れた。

 「どうもどうも。じゃない!これはアクシデントだろ!好きで抱き付いたわけじゃねぇっての!」
 該世は一礼をした後、翔子に言う訳でなく、野次馬に対して指差し、言い訳をバラ撒く。

 「何よそれ・・」
 男子達とワチャワチャしだす該世を、座った目で見据える翔子だった。


 下校時間を迎え、一人ズンズンと校門を抜ける翔子の後ろを、該世は両手をズボンのポケットに突っ込み、不貞腐れて付いて行く。

 「いい加減、機嫌直せよ翔子」

 「・・・」

 昼休みの出来事以来、何度も詫びる該世を無視し続ける翔子は、一緒に帰ろうという該世をほったらかし、足早に駅に向かう。
 
 「分かった翔子!んじゃ何でも言ってみろよ、俺に出来る事なら何でもするからさ!」

 「・・・」
 該世の言葉に、無言のままピタリと立ち止まった翔子は、前を向いたままニマリと口角を上げる。

 「何でも?」

 「あ、いや出来る範囲の事ならですよ・・」
 振り向く訳でもなく、背を見せたまま念押しをしてくる翔子に、たじろぐ該世。

 「では命じます!」
 バッと振り返り、該世を指差す翔子の顔は、満面の笑みを湛えている。

 「該世は、お父さんの手伝いをしなさい!」


 該世は、翔子の言う命令の意図が理解できず、帰る道すがら事の経緯を聞く。

 「要は、神社の神主様が近くの工事現場をお祓いするらしくてね、それと近々夏祭りがあるから人手が欲しいって、お父さん頼まれてるみたいで」
 
 「ふーん、それで俺にその手伝いをしろって事か・・」
 前を歩く翔子の後ろで、顎に手をやり考え込む該世。

 「まぁ、お父さんから該世に頼めないかって、言われてたんだけどね」

 「・・・ちょっと待て。もしや翔子さん、今日のこれは計算ずくじゃあないですよね?」

 「ハ、ハ、ハ。まさかそんな・・ね?」
 から笑いの後、茶目っ気たっぷりに舌を出す翔子。

 「ホントの事、言え!」
 握り拳を突き上げ、小突こうと近づく該世から、翔子はひらりと逃げ出す。

 「何でも言う事きくっていうからでしょ!タイミングが良かっただけだってば」
 追い縋る該世から走って逃げ、自宅マンションまで辿り着く。

 「はぁ、まぁいいや。それで、俺はどっちの手伝いをすればいいんだ?」
 降りてきたエレベーターに乗り込み、「閉」のボタンを押しながら、背後の翔子に引き受ける意思を伝えた。

 「それは多分、お祓いの方かな?お祭りは町内会も総出だから」
 父親の話を思い出しているのか、翔子はトントンと人差し指で顎に触れながら語る。

 「なんかその工事には、お父さん最初から関わってるみたいで、しかもお祓いをする神主様は、お父さんの友達らしくて」

 「分かった。取り敢えずお祓いの手伝いだな?それで、その工事現場ってどこ?」
 ポーンと到着を知らせる音が鳴り、エレベーターの扉が開かれる。
 
 「えーと、ほらあれ!あの川に架かる橋があるでしょ?あの橋の手前の下にあるトンネルを塞ぐ工事だって」
 翔子は廊下の手摺りから身を乗り出し、離れた所に見える河川橋を指差す。

 「該世、該世ってば!話聞いてる?」
 翔子が指差す方向を見ようともせず、俯いたまま固まっている該世に近づく翔子。

 「翔子、その工事いつからだって、聞いてるか?」
 俯いたまま問い掛けてくる、該世の今まで接した事のない低く怒気の籠もった声色に、翔子は唾を飲み込み言葉を失う。

 「はぁぁ・・なぁ翔子、おじさんは今日居るのか?」
 大きくため息を吐き、翔子に問う該世は、普段通りの声色に戻っている。

 「お、お父さん?お父さんは週末まで帰ってこないはず。工事の事は分からないけど、その時じゃないかな、お祓いの予定」
 


 該世は国道下の、かつてお化けトンネルと呼ばれていたトンネルの前に、一人たたずむ。

 おもむろにポケットからスマホを取り出し、AM3:00と表示された画面を何度かタップする。

 暫く画面を見詰めていたが、電話をする相手が取らなかったのか、もう一度画面をタップし、ポケットに仕舞う。

 「聞いてないぞ・・どうなってんだよ所長!」
 該世は言葉を吐き捨て、トンネルに背を向けた。

 トンネルの入口は、バリケードによって塞がれ、そのバリケードには立入禁止の立て札と、KEEP OUTと書かれた警察用封鎖テープが巻き付いていた。

 ・・つづく・・
 
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桜桃-サクランボ-
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金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

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