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第1章 真木 陸斗
第3話 天使
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益美と瑞希は、家の正門の前で立ち尽くしていた。
酒蔵と住処とが併合したその家は、代々続く家柄が持つ屋敷に似つかわしく、有形文化財としても登録される豪奢なものだ。
「瑞希ちゃん私は大丈夫、もう大丈夫よ」
益美は娘の瑞希と手を繋ぎ、その大きな門を見上げる。
「お母さん、瑞希は絶対お母さんを守るから、あんな奴に二度とお母さんを傷つけさせたりしない!」
母の益美の握る手を強く握り返し、瑞希は益美を真っ直ぐに見つめた。
「お父さんのことをそんな風に言ってはダメ、ここに来るまでにお母さんとお話した通り、ホントにお母さんは大丈夫だから。それよりも瑞希ちゃんがちゃんと生活できるようにするのが大事なのよ」
益美は逃げ出した、娘の瑞希をその場に置いて逃げ出したのだ。
我を失い、身の危険から無意識に逃げ出したのならば言い訳も付くが、我に返っても尚、家に背を向け離れていったのだ。
後悔の念はある。だが、瑞希ならば私がいない方がうまく行くのではないか。
暴力の矛先は私に向けられれば、私は受け入れるだけ。
だけど瑞希なら、立ち向かうだろうと。
しかし瑞希はそんな益美を探し、誰よりも益美と寄り添う事を決断したのだ。
益美は親子としての感情より、瑞希に昔の恋人に寄せていた感情に似た思いに満たされた。そう、何物にも代えがたい存在に。
不意に門が開かれ、中から現れたのは義兄の俊一だった。
「益美さん、それに瑞希ちゃん、よく帰って来てくれた。本当に心配したんだ」
俊一は益美の手を取り、身体を労わりながら今の状況を説明し出す。
「将臣は今いたく反省しているが、取り敢えずウチの人間を傍に置いて監視している」
「だから心配いらないよ。さぁ入って、2人ともお腹減ってるだろう?ごはん用意してるから」
そう言って俊一は、本家へ2人を迎え入れた。
そこには義母が待っており、益美の虚言ではないかと言い募ろうとしたのを、瑞希が益美を庇うため義母の前に立つ。
「おばあちゃん、いい加減にして!瑞希の事、信じてくれないっていうの?」
「そうだよ母さん、瑞希ちゃんが残した手紙を読んでなかったのかい?俺はこのことを事前に知っていたんだ。それで将臣を正そうとしたのが裏目に出てしまった」
瑞希の逆鱗に触れ、泡を食っていた義母に、俊一はため息交じりに話した。
「それでだ、当面は本家で私たち家族と一緒に暮らしてくれないか?ほとぼりが冷めるまで、将臣とは合わないように万全を尽くすから」
§
離の居間にあるソファに、将臣は煙草をふかしながら身体を投げ出すように座っている。
ローテーブルを挟んだ向かいに、同じ職場の従業員2人がくつろぐように座る。
「マサさん、煙草やめません?体にも悪いし、だいたいマサさんが酒造る奴は煙草やっちゃダメって言ってたのに・・あ、すいません」
若手であろう従業員の四郎が将臣をたしなめるが、将臣の一睨みで身を縮めた。
「将臣よ、おらぁ先代の頃から一緒に酒作ってきてるからよ、おめぇのちいせぇ頃の事も、一緒に酒やってる今もよ、おめぇの事よーく分かってる」
「ケッ、分かってたまるかよ」
先代と肩を並べて大野の酒蔵を支えてきた、佐野の伯父の言葉も耳に入っていないのか、将臣は斜の方を見やり大仰に煙草をふかす。
「おらぁ将臣がこれまでやってきたこと、認めてるんだ。それが証拠に杜氏として据えたの俺だぜ?そんじょそこらの連中にやらせれるもんじゃね、それこそ俊一にだって無理ってもんだ」
佐野は腕を組み、言い聞かせる。
「だったらさ!なんでオジキはあいつが帰ってくるのを、俺と一緒に反対しなかったんだよ!」
将臣は灰皿に煙草を乱暴にもみ消し、佐野に食って掛かる。
「そりゃおめぇのオヤジが決めたことに、おらぁ口出しせん。だけどだ、職人としての価値は将臣、おめぇだ。なにも俺と同じ道を歩めと言いたいわけじゃね、めんどくせぇ事は俊一に任して、おめぇはやりたいようにやりゃいいんじゃねぇかって話だ」
佐野の話に釈然としない将臣は、ソファの後ろをウロウロと歩き回るが、なにか思い立ったのか、佐野に詰め寄る。
「オジキの言いたいことは分かった。けど、アニキが俺の家庭の事まで首を突っ込んでくるのは許しがたい。今アニキはどこにいるよ?もっかい話付けようじゃないか」
将臣の言い様に大きく溜息を吐いた佐野は、もうあきらめように首を横に振った。
「オイ、四郎!アニキは今どこにいるよ、蔵か?」
「え、社長?いやぁ・・ちょっとわかんないっす・・」
将臣の矛先が変わり、キョドった四郎は嘘バレバレに目が泳ぐ。
「あ?なにも隠すことないだろうに。喧嘩しにいくわけじゃない、俺が悪けりゃ詫びも入れるし、かといってプライベートなことに難癖付けてくるのはどうかってな」
「ま、まぁ待ってよマサさん。お互い落ち着いてから話しようってさ、社長もちゃんと分かった上でマサさんと話したいと、益美さんとも・・」
佐野は「オイ」とドスの利いた声で四郎の言を制止させようとしたが、それを聞いた将臣の表情がみるみる険しくなっていく。
「じゃあなにか?今益美はアニキんとこにいるってことか?」
険しい表情から、眉間にいくつものしわが寄り、次第に口角が吊り上がっていく。
「今頃アニキのナニを銜え込んでるってんだな、あの売女は!!」
般若を思わす鬼の形相で叫ぶ将臣に、佐野は息をのみ、四郎は金縛りにあったかのように身じろぎ一つ出来ずに立ち尽くした。
§
食事を終え、一心地ついた益美に、俊一の嫁であるキャロラインが食後のお茶を入れる。
瑞希は五つ程年上の俊一の娘アリアと、囲炉裏のある部屋で肩を寄せ合い話に花を咲かせていた。
「マスミ、もう安心、私たちいるからダイジョブよ」
キャロラインは片言な日本語ではあるが、親身になって益美に寄り添おうとしているのが分かる。
「キャリー、ありがとう。でもね私、ちゃんと将臣さんと話をしたい。ちゃんと向き合って話をしたいの」
この言葉以外にもたくさんの夫への思いを横で聞いていた俊一は、その益美の言葉に目頭を熱くし項垂れた。
「ありがとう、益美さん本当にありがとう。我が弟ながら、益美さんへの仕打ちは許されるものじゃない。だが益美さんは、そう言ってくれる・・」
俊一は滂沱の涙を隠すことなく、益美の手を取り感謝の意を込め強く握った。
その時だった、突然屋敷に異変が起こる。
夜9時を回り仕事場も終業していた為、静けさが増した屋敷に、男の絶叫とも取れる叫び声が響き渡ったのだ。
「今の声って・・」
慌てて俊一は部屋を飛び出していく。
益美は両の手をテーブルの上で強く握りしめ、ガタガタと震え出していた。
「アリア、ミズキチャン!」
キャロラインが子供たちに声を掛けるも、瑞希が手で制しアリアに語り掛ける。
「アリア姉ちゃん、私と一緒に来て!」
状況が飲み込めず唖然としているアリアの手を引いて、瑞希は部屋を出ていった。
「マスミ、あの声ってマサオミ、よね?」
未だ震えたままでいる益美は、キャロラインの問いかけに、手で顔を覆い首肯する。
部屋を飛び出した俊一は、声がした方へと庭に面した廊下を走る。
突然横の障子が開かれ、人が飛び出して来たので「うわっ!」と驚き、後ろへ飛び退いた。
そこには同じように驚愕の表情をした母が突っ立っていた。
「なんだ母さんか、びっくりするじゃないか」
「それは私のセリフですよ、ホントに。それより将臣に何かあったのでしょうか?」
俊一を見て胸を撫で下ろした母は、叫び声の正体が将臣だと察していた。
「ああ、そうだな。伯父貴と四郎とが将臣と一緒にいるはずなんだが・・」
広い庭の先、離がある方向に目をやると、暗闇の中で一瞬キラリと何かが光った。
それにつられて光が見えた暗闇を凝視していると、ゆらりと人影らしきものがこちらに進んで来ている。
庭の真ん中に池があり、その池を渡るための石橋に付けられた足元を照らす常夜燈が、その人影を照らし出した。
「まさ・・おみ・・か?」
足元を照らす常夜燈のため、全体像は映し出してもその人物の顔までは光が届いていない。
だが、何よりも視線を引き付けるのは、その人物がだらりと手に持ち、鈍い光を放つ刃物だ。
「ま、将臣だよな?どうしたんだおまえ・・それに手に持ってるのなんだ・・」
人影に語り掛ける俊一を盾にしその様子を見守る母が、人影の歩みが進むにつれ屋敷側の光源によりはっきりと映し出された人物の顔を見て、「ひぃっ!」と悲鳴を漏らしその場で腰を抜かす。
ペンキを頭から浴びたように、全身を赤黒く濡れそぼった姿は、人ではない禍々しい何かに見える。
「なんだ・・母さんがいるじゃないか・・丁度いい俺の話を聞いてくれよ」
その声で将臣であると確信できたが、母は腰を抜かしたまま後退る。
「将臣、何があったんだ・・と、兎に角お前その刀を置け・・落ち着け将臣」
全身に血を浴びた姿で目と口とが吊り上がり、鬼の形相で母に問いかけている将臣に、俊一は恐怖に駆られる心を抑え冷静に言葉を次ぐのは、自分の後ろにいる家族を守る一心なのだろう。
「あ?・・・アニキ?・・アニキーーーーーーーー!!!」
声が裏返り、嬌声のような絶叫を発した将臣は、俊一に跳びかかった。
振り上げられた刀を、反射的に両腕をクロスするようにし避けようとするが、その刀はなんの抵抗もなく振り抜かれる。
「あ・・?」と間の抜けた声を出した俊一の足元に、ぼとりと手首から先の両手が落ちる。
俊一は切り落とされた両腕を見、尚も状況を把握できていないまま膝から崩れ落ちた途端、胸から下腹部まで縦に裂け、内臓をぶちまけて絶命する。
その様を目の当たりにした母は、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げて気絶した。
益美は、居間でキャロラインと共にテーブルを挟んで向かい合い、なにも出来ず動静を見守っていた。
そこへ庭の方から奇怪な叫び声が響き渡るが、すぐに静寂が訪れる。
「マスミ・・今のはナニ?」
キャロラインの問いかけに益美は俯き震えたまま、微動だにしない。
夫である俊一の事が気が気ではないキャロラインは、益美をその場に置き、居間から俊一が向かったであろう廊下へ、震えながらも顔を出した。
「キャー!」
その瞬間、キャロラインは髪を鷲掴みにされ悲鳴を上げるが、ゴトリと音をたて戸口で倒れ込む。
その異変にも震えたまま動かない益美の背後に、ゆらりと将臣が立つ。
「益美ぃ~ここでナニしてるぅ?」
かけられた言葉にゆっくりと伏せていた頭をもたげ、震えながら立ち上がった益美は、将臣に向き直る。
目の前には益美にとって既視感のある鬼。
もし、もう一度将臣に言葉をかけるならと、何度も反芻した思いを口にしようとするが、喉が発声を拒む。
「なんだぁ・・金魚みたいに口をパクパクしやがって・・ああ、あれか?やっぱりアニキのじゃあ物足りんってか?」
将臣は一層口角を吊り上げ、天井を仰ぎ見て悦に入る。
「なら味合わせてやるよ・・お仕置きってやつだ、この売女が」
§
瑞希はアリアと酒蔵にある事務所に身を寄せていた。
就業時間が過ぎていた為、誰も事務所には残っていない。
「アリア姉ちゃんはここにいて。私はお母さんの様子見に行ってくる」
「ダメ、待って!置いていかないで!」
アリアは全く状況が飲み込めず、一人残されるのは嫌と瑞希に縋りつく。
「部屋の電気は付けず、私が出たら扉の鍵を閉めて。大丈夫、ちょっと見てくるだけだから」
瑞希は縋りつくアリアに言い聞かせ事務所から出ると、不意に屋敷の方から益美のくぐもった悲鳴が聞こえてきた。
「お母さん!」
屋敷に向かって駆け出し、土足のまま土間を駆け上がり居間に辿り着くと、そこには昼に見た同じ母の姿があり、傍で仁王立つ父の姿は異様だった。
「ん?瑞希か・・そうかそうか、お前も母さんにお仕置きしにきたか?いやそれはダメだ、これはお父さんのお仕事だ、お前は見ていなさい」
居間に躍り出てきた瑞希に、意味不明な父親全とした物言いを将臣はする。
「なんで・・なんでお母さんに、そんな酷いことするのよ!」
瑞希は激昂し、サイドボードに置かれていた木彫りの熊を手に取り、思い切り将臣に投げつけると、見事に将臣の後頭部に直撃した。
「いてぇな・・瑞希・・お前反抗期か?ヒッヒッヒ、ならお前には折檻しないといかんな!」
将臣は怒りではなく、新たな楽しみを見つけたかのように顔を歪めて笑う。
瑞希は将臣に向かって拳を振り上げ、居丈高に挑発する。
「やれるものならやってみなさいよ!この化け物!!」
「がぁぁぁ!」と雄たけびを上げ、瑞希の方に向かう将臣の手には刀が握られている。
挑発に乗ったのを見て、瑞希は玄関へ走った。
(事務所にいけば電話がある・・いやダメ!アリアも巻き込んじゃう。なら戦うしかない!)
頭の中で行動を組み立てた瑞希は、事務所の前を通り抜け屋外に出ると、納屋として使われている蔵へと向かった。
歴史を感じさせるその蔵は、土蔵と呼ばれる壁面が漆喰で塗り固められた蔵で、現在では、仕事道具などの荷物置き場になっていた。
(おじいちゃんが使っていた木刀があったはず)
蔵に辿り着いた瑞希は、戦う術を思い描きながら戸に手を掛けるが、思った以上に戸が重い。
全身の力を使って戸を開こうとしていた時、事務所がある方角から盛大にガラスが割れる音が響いた。
「アリア姉ちゃん!」
アリアの危機を悟った瑞希は、少し開きかけていた戸を諦め事務所へ走る。
「キャーーー!」
アリアの悲鳴が響き渡り、その事務所の側面にある窓を執拗にこじ開けようと試みる将臣の姿が見えた。
「このクソ鬼!アンタ何してんのよ!相手はこの私でしょ!!」
アリアに危害を加えようとしているその姿に、瑞希は理性を失い怒りを爆発させる。
「まぁ待てよ。このパツキンにも俺の凄さ知ってもらおうって思ってさ」
瑞希の汚い言葉も意に返さず舌なめずりをし、将臣は事務所へ侵入をしようとする。
瑞希は駆け出していた。
対抗しうる武器はない。
だがその身を失ってでもこの父を、いや、クソ鬼を打ち倒してやると。
その動きを察知してか、将臣は窓枠に掛けた足を下ろし、瑞希の接近に合せて右手に持った刀を横薙ぎに振る。
滑り込むように横薙ぎを躱し、将臣の踵の裏と膝の表に手を当て力を込める。
バランスを崩し後ろに転倒をした将臣は、それでも刀を瑞希めがけて突き出す。
深く右ふくらはぎに刃が刺さるが、瑞希は声を上げる事無く後退る。
激しい痛みに耐えながら、それでいて相手を射殺す程の眼光を将臣に向けた。
「当たったか?当たったなぁ~・・けど、その表情はどうかと思うぞぅ瑞希ぃ」
納得がいかないと言い放ち、瑞希との距離を縮める。
瑞希は足を引き摺り将臣に背を向け、再度蔵に向かってケンケン立ちで進む。
「そう、それでいい。痛みってのはそんなもんじゃない、本当の苦痛を表現してくれよ!」
将臣は距離を詰めるわけでもなく、ゆっくりとした歩みで瑞希の後を追いだした。
屋外に出たところで体勢を崩し、瑞希は前に転ぶ。
痛みは激しさを増し、やっとの思いでなんとか立ち上がった瑞希の目の前に、突然白い雪が降り注いだ。
「雪・・」
金沢で雪は珍しいものではないが、その降り注ぐ量が前方の視界を塞ぐほど舞い落ちている。
何気に手を差し出し、その雪を手に取ろうとするが、驚いたことにその雪は手をすり抜けていく。
「これって雪じゃない?」
不可思議な光景に痛みも忘れ、目を奪われていた瑞希だったが、後方から金属が擦られているような音が聞こえ我に返ると、降りしきる雪の先、蔵に向かって急いだ。
蔵に辿り着いた瑞希は、もう一度戸を開ける為に力を込めるが、足のケガのせいで力が入ららない。
それでも必死に戸を開けようとする瑞希の背後から声がかかる。
「お父さんが開けてやろうか?」
ゾッとし、夢中で少し空いた戸の隙間に身をねじ込み、強引に中へ滑り込んだ。
倒れ込みながらも後ろを振り返り戸を見るが、その隙間から将臣の姿は見えない。
「なぁ瑞希、お前はこの光景を見たことあるか?お父さんはな、これで2回目だ」
外は不思議な雪が降っている、将臣はその事を言ってるのだろうか。
「でも初めて見た時はこうじゃなかった。不思議だったなぁ、この白いのが地面から上に向かって飛んでいくんだよ」
一人思いに耽るように語っている将臣をよそに、瑞希は這いながら蔵の奥へと向かうが、その先で見た光景に目を奪われ、息をのむ。
外で降っている雪が、蔵の中でも降り注いでいる。
天井を見上げるが、蔵の屋根が抜けているわけでもない。
その雪を何気に手に取ろうとした時、そこで初めて気づく。
それは雪ではなく、小さな記号のような文字が白く発光し、雪のように見えていただけだった。
その記号は手をすり抜け、見上げた瑞希の瞳を見たこともない記号がいくつも透過していく。
その光景の美しさにまたも今ある危機を忘れ欠けていた時、降り注ぐだけであった記号が渦を巻き、帯状に整列しだす。
そしてその帯が一塊の卵状に巻き上がると強烈な光を帯び、突如破裂したかのように砕け散る。
瑞希は強烈な光に手で目を覆い、光の収束がわかると、恐る恐る上を見上げた。
するとそこには、大理石で出来た彫刻のような男性の姿が目に映った。
光の記号が辺りを包み、ゆっくりと瑞希の目の前に舞い降りたその男性は、立ち姿のまま動かない。
「天使・・様・・」
それは目の当たりにした瑞希の口から洩れた言葉。
全身純白に染められた肌が、徐々に薄皮が捲れるように剥がれていき、その薄皮は男性の背後へと舞い、白い光の羽を紡ぎ出す。
まさに天使に見えた姿だった。
・・つづく・・
酒蔵と住処とが併合したその家は、代々続く家柄が持つ屋敷に似つかわしく、有形文化財としても登録される豪奢なものだ。
「瑞希ちゃん私は大丈夫、もう大丈夫よ」
益美は娘の瑞希と手を繋ぎ、その大きな門を見上げる。
「お母さん、瑞希は絶対お母さんを守るから、あんな奴に二度とお母さんを傷つけさせたりしない!」
母の益美の握る手を強く握り返し、瑞希は益美を真っ直ぐに見つめた。
「お父さんのことをそんな風に言ってはダメ、ここに来るまでにお母さんとお話した通り、ホントにお母さんは大丈夫だから。それよりも瑞希ちゃんがちゃんと生活できるようにするのが大事なのよ」
益美は逃げ出した、娘の瑞希をその場に置いて逃げ出したのだ。
我を失い、身の危険から無意識に逃げ出したのならば言い訳も付くが、我に返っても尚、家に背を向け離れていったのだ。
後悔の念はある。だが、瑞希ならば私がいない方がうまく行くのではないか。
暴力の矛先は私に向けられれば、私は受け入れるだけ。
だけど瑞希なら、立ち向かうだろうと。
しかし瑞希はそんな益美を探し、誰よりも益美と寄り添う事を決断したのだ。
益美は親子としての感情より、瑞希に昔の恋人に寄せていた感情に似た思いに満たされた。そう、何物にも代えがたい存在に。
不意に門が開かれ、中から現れたのは義兄の俊一だった。
「益美さん、それに瑞希ちゃん、よく帰って来てくれた。本当に心配したんだ」
俊一は益美の手を取り、身体を労わりながら今の状況を説明し出す。
「将臣は今いたく反省しているが、取り敢えずウチの人間を傍に置いて監視している」
「だから心配いらないよ。さぁ入って、2人ともお腹減ってるだろう?ごはん用意してるから」
そう言って俊一は、本家へ2人を迎え入れた。
そこには義母が待っており、益美の虚言ではないかと言い募ろうとしたのを、瑞希が益美を庇うため義母の前に立つ。
「おばあちゃん、いい加減にして!瑞希の事、信じてくれないっていうの?」
「そうだよ母さん、瑞希ちゃんが残した手紙を読んでなかったのかい?俺はこのことを事前に知っていたんだ。それで将臣を正そうとしたのが裏目に出てしまった」
瑞希の逆鱗に触れ、泡を食っていた義母に、俊一はため息交じりに話した。
「それでだ、当面は本家で私たち家族と一緒に暮らしてくれないか?ほとぼりが冷めるまで、将臣とは合わないように万全を尽くすから」
§
離の居間にあるソファに、将臣は煙草をふかしながら身体を投げ出すように座っている。
ローテーブルを挟んだ向かいに、同じ職場の従業員2人がくつろぐように座る。
「マサさん、煙草やめません?体にも悪いし、だいたいマサさんが酒造る奴は煙草やっちゃダメって言ってたのに・・あ、すいません」
若手であろう従業員の四郎が将臣をたしなめるが、将臣の一睨みで身を縮めた。
「将臣よ、おらぁ先代の頃から一緒に酒作ってきてるからよ、おめぇのちいせぇ頃の事も、一緒に酒やってる今もよ、おめぇの事よーく分かってる」
「ケッ、分かってたまるかよ」
先代と肩を並べて大野の酒蔵を支えてきた、佐野の伯父の言葉も耳に入っていないのか、将臣は斜の方を見やり大仰に煙草をふかす。
「おらぁ将臣がこれまでやってきたこと、認めてるんだ。それが証拠に杜氏として据えたの俺だぜ?そんじょそこらの連中にやらせれるもんじゃね、それこそ俊一にだって無理ってもんだ」
佐野は腕を組み、言い聞かせる。
「だったらさ!なんでオジキはあいつが帰ってくるのを、俺と一緒に反対しなかったんだよ!」
将臣は灰皿に煙草を乱暴にもみ消し、佐野に食って掛かる。
「そりゃおめぇのオヤジが決めたことに、おらぁ口出しせん。だけどだ、職人としての価値は将臣、おめぇだ。なにも俺と同じ道を歩めと言いたいわけじゃね、めんどくせぇ事は俊一に任して、おめぇはやりたいようにやりゃいいんじゃねぇかって話だ」
佐野の話に釈然としない将臣は、ソファの後ろをウロウロと歩き回るが、なにか思い立ったのか、佐野に詰め寄る。
「オジキの言いたいことは分かった。けど、アニキが俺の家庭の事まで首を突っ込んでくるのは許しがたい。今アニキはどこにいるよ?もっかい話付けようじゃないか」
将臣の言い様に大きく溜息を吐いた佐野は、もうあきらめように首を横に振った。
「オイ、四郎!アニキは今どこにいるよ、蔵か?」
「え、社長?いやぁ・・ちょっとわかんないっす・・」
将臣の矛先が変わり、キョドった四郎は嘘バレバレに目が泳ぐ。
「あ?なにも隠すことないだろうに。喧嘩しにいくわけじゃない、俺が悪けりゃ詫びも入れるし、かといってプライベートなことに難癖付けてくるのはどうかってな」
「ま、まぁ待ってよマサさん。お互い落ち着いてから話しようってさ、社長もちゃんと分かった上でマサさんと話したいと、益美さんとも・・」
佐野は「オイ」とドスの利いた声で四郎の言を制止させようとしたが、それを聞いた将臣の表情がみるみる険しくなっていく。
「じゃあなにか?今益美はアニキんとこにいるってことか?」
険しい表情から、眉間にいくつものしわが寄り、次第に口角が吊り上がっていく。
「今頃アニキのナニを銜え込んでるってんだな、あの売女は!!」
般若を思わす鬼の形相で叫ぶ将臣に、佐野は息をのみ、四郎は金縛りにあったかのように身じろぎ一つ出来ずに立ち尽くした。
§
食事を終え、一心地ついた益美に、俊一の嫁であるキャロラインが食後のお茶を入れる。
瑞希は五つ程年上の俊一の娘アリアと、囲炉裏のある部屋で肩を寄せ合い話に花を咲かせていた。
「マスミ、もう安心、私たちいるからダイジョブよ」
キャロラインは片言な日本語ではあるが、親身になって益美に寄り添おうとしているのが分かる。
「キャリー、ありがとう。でもね私、ちゃんと将臣さんと話をしたい。ちゃんと向き合って話をしたいの」
この言葉以外にもたくさんの夫への思いを横で聞いていた俊一は、その益美の言葉に目頭を熱くし項垂れた。
「ありがとう、益美さん本当にありがとう。我が弟ながら、益美さんへの仕打ちは許されるものじゃない。だが益美さんは、そう言ってくれる・・」
俊一は滂沱の涙を隠すことなく、益美の手を取り感謝の意を込め強く握った。
その時だった、突然屋敷に異変が起こる。
夜9時を回り仕事場も終業していた為、静けさが増した屋敷に、男の絶叫とも取れる叫び声が響き渡ったのだ。
「今の声って・・」
慌てて俊一は部屋を飛び出していく。
益美は両の手をテーブルの上で強く握りしめ、ガタガタと震え出していた。
「アリア、ミズキチャン!」
キャロラインが子供たちに声を掛けるも、瑞希が手で制しアリアに語り掛ける。
「アリア姉ちゃん、私と一緒に来て!」
状況が飲み込めず唖然としているアリアの手を引いて、瑞希は部屋を出ていった。
「マスミ、あの声ってマサオミ、よね?」
未だ震えたままでいる益美は、キャロラインの問いかけに、手で顔を覆い首肯する。
部屋を飛び出した俊一は、声がした方へと庭に面した廊下を走る。
突然横の障子が開かれ、人が飛び出して来たので「うわっ!」と驚き、後ろへ飛び退いた。
そこには同じように驚愕の表情をした母が突っ立っていた。
「なんだ母さんか、びっくりするじゃないか」
「それは私のセリフですよ、ホントに。それより将臣に何かあったのでしょうか?」
俊一を見て胸を撫で下ろした母は、叫び声の正体が将臣だと察していた。
「ああ、そうだな。伯父貴と四郎とが将臣と一緒にいるはずなんだが・・」
広い庭の先、離がある方向に目をやると、暗闇の中で一瞬キラリと何かが光った。
それにつられて光が見えた暗闇を凝視していると、ゆらりと人影らしきものがこちらに進んで来ている。
庭の真ん中に池があり、その池を渡るための石橋に付けられた足元を照らす常夜燈が、その人影を照らし出した。
「まさ・・おみ・・か?」
足元を照らす常夜燈のため、全体像は映し出してもその人物の顔までは光が届いていない。
だが、何よりも視線を引き付けるのは、その人物がだらりと手に持ち、鈍い光を放つ刃物だ。
「ま、将臣だよな?どうしたんだおまえ・・それに手に持ってるのなんだ・・」
人影に語り掛ける俊一を盾にしその様子を見守る母が、人影の歩みが進むにつれ屋敷側の光源によりはっきりと映し出された人物の顔を見て、「ひぃっ!」と悲鳴を漏らしその場で腰を抜かす。
ペンキを頭から浴びたように、全身を赤黒く濡れそぼった姿は、人ではない禍々しい何かに見える。
「なんだ・・母さんがいるじゃないか・・丁度いい俺の話を聞いてくれよ」
その声で将臣であると確信できたが、母は腰を抜かしたまま後退る。
「将臣、何があったんだ・・と、兎に角お前その刀を置け・・落ち着け将臣」
全身に血を浴びた姿で目と口とが吊り上がり、鬼の形相で母に問いかけている将臣に、俊一は恐怖に駆られる心を抑え冷静に言葉を次ぐのは、自分の後ろにいる家族を守る一心なのだろう。
「あ?・・・アニキ?・・アニキーーーーーーーー!!!」
声が裏返り、嬌声のような絶叫を発した将臣は、俊一に跳びかかった。
振り上げられた刀を、反射的に両腕をクロスするようにし避けようとするが、その刀はなんの抵抗もなく振り抜かれる。
「あ・・?」と間の抜けた声を出した俊一の足元に、ぼとりと手首から先の両手が落ちる。
俊一は切り落とされた両腕を見、尚も状況を把握できていないまま膝から崩れ落ちた途端、胸から下腹部まで縦に裂け、内臓をぶちまけて絶命する。
その様を目の当たりにした母は、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げて気絶した。
益美は、居間でキャロラインと共にテーブルを挟んで向かい合い、なにも出来ず動静を見守っていた。
そこへ庭の方から奇怪な叫び声が響き渡るが、すぐに静寂が訪れる。
「マスミ・・今のはナニ?」
キャロラインの問いかけに益美は俯き震えたまま、微動だにしない。
夫である俊一の事が気が気ではないキャロラインは、益美をその場に置き、居間から俊一が向かったであろう廊下へ、震えながらも顔を出した。
「キャー!」
その瞬間、キャロラインは髪を鷲掴みにされ悲鳴を上げるが、ゴトリと音をたて戸口で倒れ込む。
その異変にも震えたまま動かない益美の背後に、ゆらりと将臣が立つ。
「益美ぃ~ここでナニしてるぅ?」
かけられた言葉にゆっくりと伏せていた頭をもたげ、震えながら立ち上がった益美は、将臣に向き直る。
目の前には益美にとって既視感のある鬼。
もし、もう一度将臣に言葉をかけるならと、何度も反芻した思いを口にしようとするが、喉が発声を拒む。
「なんだぁ・・金魚みたいに口をパクパクしやがって・・ああ、あれか?やっぱりアニキのじゃあ物足りんってか?」
将臣は一層口角を吊り上げ、天井を仰ぎ見て悦に入る。
「なら味合わせてやるよ・・お仕置きってやつだ、この売女が」
§
瑞希はアリアと酒蔵にある事務所に身を寄せていた。
就業時間が過ぎていた為、誰も事務所には残っていない。
「アリア姉ちゃんはここにいて。私はお母さんの様子見に行ってくる」
「ダメ、待って!置いていかないで!」
アリアは全く状況が飲み込めず、一人残されるのは嫌と瑞希に縋りつく。
「部屋の電気は付けず、私が出たら扉の鍵を閉めて。大丈夫、ちょっと見てくるだけだから」
瑞希は縋りつくアリアに言い聞かせ事務所から出ると、不意に屋敷の方から益美のくぐもった悲鳴が聞こえてきた。
「お母さん!」
屋敷に向かって駆け出し、土足のまま土間を駆け上がり居間に辿り着くと、そこには昼に見た同じ母の姿があり、傍で仁王立つ父の姿は異様だった。
「ん?瑞希か・・そうかそうか、お前も母さんにお仕置きしにきたか?いやそれはダメだ、これはお父さんのお仕事だ、お前は見ていなさい」
居間に躍り出てきた瑞希に、意味不明な父親全とした物言いを将臣はする。
「なんで・・なんでお母さんに、そんな酷いことするのよ!」
瑞希は激昂し、サイドボードに置かれていた木彫りの熊を手に取り、思い切り将臣に投げつけると、見事に将臣の後頭部に直撃した。
「いてぇな・・瑞希・・お前反抗期か?ヒッヒッヒ、ならお前には折檻しないといかんな!」
将臣は怒りではなく、新たな楽しみを見つけたかのように顔を歪めて笑う。
瑞希は将臣に向かって拳を振り上げ、居丈高に挑発する。
「やれるものならやってみなさいよ!この化け物!!」
「がぁぁぁ!」と雄たけびを上げ、瑞希の方に向かう将臣の手には刀が握られている。
挑発に乗ったのを見て、瑞希は玄関へ走った。
(事務所にいけば電話がある・・いやダメ!アリアも巻き込んじゃう。なら戦うしかない!)
頭の中で行動を組み立てた瑞希は、事務所の前を通り抜け屋外に出ると、納屋として使われている蔵へと向かった。
歴史を感じさせるその蔵は、土蔵と呼ばれる壁面が漆喰で塗り固められた蔵で、現在では、仕事道具などの荷物置き場になっていた。
(おじいちゃんが使っていた木刀があったはず)
蔵に辿り着いた瑞希は、戦う術を思い描きながら戸に手を掛けるが、思った以上に戸が重い。
全身の力を使って戸を開こうとしていた時、事務所がある方角から盛大にガラスが割れる音が響いた。
「アリア姉ちゃん!」
アリアの危機を悟った瑞希は、少し開きかけていた戸を諦め事務所へ走る。
「キャーーー!」
アリアの悲鳴が響き渡り、その事務所の側面にある窓を執拗にこじ開けようと試みる将臣の姿が見えた。
「このクソ鬼!アンタ何してんのよ!相手はこの私でしょ!!」
アリアに危害を加えようとしているその姿に、瑞希は理性を失い怒りを爆発させる。
「まぁ待てよ。このパツキンにも俺の凄さ知ってもらおうって思ってさ」
瑞希の汚い言葉も意に返さず舌なめずりをし、将臣は事務所へ侵入をしようとする。
瑞希は駆け出していた。
対抗しうる武器はない。
だがその身を失ってでもこの父を、いや、クソ鬼を打ち倒してやると。
その動きを察知してか、将臣は窓枠に掛けた足を下ろし、瑞希の接近に合せて右手に持った刀を横薙ぎに振る。
滑り込むように横薙ぎを躱し、将臣の踵の裏と膝の表に手を当て力を込める。
バランスを崩し後ろに転倒をした将臣は、それでも刀を瑞希めがけて突き出す。
深く右ふくらはぎに刃が刺さるが、瑞希は声を上げる事無く後退る。
激しい痛みに耐えながら、それでいて相手を射殺す程の眼光を将臣に向けた。
「当たったか?当たったなぁ~・・けど、その表情はどうかと思うぞぅ瑞希ぃ」
納得がいかないと言い放ち、瑞希との距離を縮める。
瑞希は足を引き摺り将臣に背を向け、再度蔵に向かってケンケン立ちで進む。
「そう、それでいい。痛みってのはそんなもんじゃない、本当の苦痛を表現してくれよ!」
将臣は距離を詰めるわけでもなく、ゆっくりとした歩みで瑞希の後を追いだした。
屋外に出たところで体勢を崩し、瑞希は前に転ぶ。
痛みは激しさを増し、やっとの思いでなんとか立ち上がった瑞希の目の前に、突然白い雪が降り注いだ。
「雪・・」
金沢で雪は珍しいものではないが、その降り注ぐ量が前方の視界を塞ぐほど舞い落ちている。
何気に手を差し出し、その雪を手に取ろうとするが、驚いたことにその雪は手をすり抜けていく。
「これって雪じゃない?」
不可思議な光景に痛みも忘れ、目を奪われていた瑞希だったが、後方から金属が擦られているような音が聞こえ我に返ると、降りしきる雪の先、蔵に向かって急いだ。
蔵に辿り着いた瑞希は、もう一度戸を開ける為に力を込めるが、足のケガのせいで力が入ららない。
それでも必死に戸を開けようとする瑞希の背後から声がかかる。
「お父さんが開けてやろうか?」
ゾッとし、夢中で少し空いた戸の隙間に身をねじ込み、強引に中へ滑り込んだ。
倒れ込みながらも後ろを振り返り戸を見るが、その隙間から将臣の姿は見えない。
「なぁ瑞希、お前はこの光景を見たことあるか?お父さんはな、これで2回目だ」
外は不思議な雪が降っている、将臣はその事を言ってるのだろうか。
「でも初めて見た時はこうじゃなかった。不思議だったなぁ、この白いのが地面から上に向かって飛んでいくんだよ」
一人思いに耽るように語っている将臣をよそに、瑞希は這いながら蔵の奥へと向かうが、その先で見た光景に目を奪われ、息をのむ。
外で降っている雪が、蔵の中でも降り注いでいる。
天井を見上げるが、蔵の屋根が抜けているわけでもない。
その雪を何気に手に取ろうとした時、そこで初めて気づく。
それは雪ではなく、小さな記号のような文字が白く発光し、雪のように見えていただけだった。
その記号は手をすり抜け、見上げた瑞希の瞳を見たこともない記号がいくつも透過していく。
その光景の美しさにまたも今ある危機を忘れ欠けていた時、降り注ぐだけであった記号が渦を巻き、帯状に整列しだす。
そしてその帯が一塊の卵状に巻き上がると強烈な光を帯び、突如破裂したかのように砕け散る。
瑞希は強烈な光に手で目を覆い、光の収束がわかると、恐る恐る上を見上げた。
するとそこには、大理石で出来た彫刻のような男性の姿が目に映った。
光の記号が辺りを包み、ゆっくりと瑞希の目の前に舞い降りたその男性は、立ち姿のまま動かない。
「天使・・様・・」
それは目の当たりにした瑞希の口から洩れた言葉。
全身純白に染められた肌が、徐々に薄皮が捲れるように剥がれていき、その薄皮は男性の背後へと舞い、白い光の羽を紡ぎ出す。
まさに天使に見えた姿だった。
・・つづく・・
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