17 ジュウナナ

ガランドウ

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第1章 真木 陸斗

第4話 恋の予感

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 瑞希は天より舞い降りた天使から、目が離せないでいた。

 真っ白な肌をしたまさにダビデ像のような体躯から、生気を取り戻し生身の人間に変貌したその立ち姿は、まだ幼さが残る顔立ちから少年のような雰囲気があり、それでいて完成された肉体美を持つ。

 生まれてから一度も恋心を宿したことの無い瑞希にとって、この胸に広がる暖かな感情が何なのか分からない。

 目が離せない、声も出せない、足の痛みすらも蚊帳の外。

 ただ見上げ、胸の前で両手を組み、祈るような姿で見つめた。

 不意に天使の瞼が痙攣するように振動し、ゆっくりとその瞳が開かれた。

 まだまどろみの中にいるようで、どこか焦点の合っていない瞳で辺りを見渡す。

 ゆっくりと両手を顔の前に上げ、その両の手を交互に見る。

 それに飽き足らず、今度は自分の身体を確かめる為か、腕廻りを擦るように触り、改めてその手に視線を落とした。

 その時、落した視線と瑞希の視線とが重なる。

 「・・・女の子?」
 囁かれたその言葉に、瑞希の鼓動が一気に跳ね上がる。

 「て、天使様・・」
 2人見つめ合ったまま時が流れ・・なかった。

 「へ、なにが?・・って、ちょっちょっと待った!」
 天使は生まれたままの姿である。

 「あ・・ちょ・・なんか隠すのを・・」
 大事な所を両手で隠して前屈みになり、瑞希から距離を取るように後退る。

 「え?天使様・・なにその恰好・・ウフフ」
 その姿が滑稽に見え、瑞希は思わず噴き出してしまう。

 
 瑞希は上気していた感情と緊張とが、ゆっくりと弛緩していくにつれ、足の痛みが舞い戻り、不意に顔をしかめた。
 「い、つぅ・・・」

 「ん?・・オイどうしたその足!?」
 全裸な事を恥じらっていた天使と呼ばれた少年は、瑞希の右足からとめどなく流れる血を見咎め、羞恥心を捨て瑞希に駆け寄る。

 「あ・・天使様ごめんなさい笑ったりして・・」
 詫びの言葉と共に力を失い倒れ込む瑞希を、少年は抱くようにし支える。

 「大丈夫か?ってか俺は天使なんかじゃないんだけど」

 「あの・・お願いがあります。お母さん・・お姉ちゃんを助けてください」
 失血のせいか意識が混濁しつつ、縋れるものならばとの思いを少年に打ち明ける。

 少年は「すまん」と一言詫び、瑞希のブラウスの袖を肩口から引き千切り2つに分けると、一つは傷口に巻きもう一つは紐状にして、スカートを捲り上げ右足の付け根を縛る。

 「天使様のエッチ・・」

 「言ってろ、それに俺は天使じゃないっての」

 恥じらうのは言葉だけであって、瑞希は抵抗する余力もなく少年の治療を受け入れる。

  少年は血が流れるふくらはぎに、鋭利な刃物で突き刺され貫通した傷を見受け、ただならぬ状況に陥っている事が容易に推測できた。

 「状況が全く把握できていないが、とにかく助けないといけない人がいるんだな?」

 少年の問い掛けに「うん・・」と瑞希は呟き、戸とは反対側の蔵の奥を指差すと、瑞希は意識を失った。

 「うん?あれは・・」
 瑞希が指差す方向に目をやり、少年は唸った。



 将臣は、自分の力でも蔵の扉が開かない事に苛立つが、他に出入り口がない事に思い至り、ならばと瑞希の事は諦め、アリアの元に引き返そうとしたとき、蔵の中から知らぬ男の声が聞こえ、思い留まる。

 「瑞希ぃ・・中に誰かいるのかぁ?」
 扉の隙間から覗き込むが、中は暗くよく見えない。

 「お前も母さんの子だなぁ、もう男を咥えこんでんのか?ああん!?」
 隙間に顔を差し込み、蔵の中に声が響き渡るように喚く。

 「おまえ、うるせぇんだよ」
 将臣の顔の近くで囁かれた言葉の後、「ボンッ!」という衝突音と共に、分厚い蔵の扉が吹き飛ぶ。

 扉に身体を密着していた将臣は、扉と一緒に吹き飛ばされる。

 「い、いでぇ・・な、何が起こった・・」
 蔵の前、5~6m先にある駐車場まで吹き飛ばされた将臣は、左腕が変な方向に曲がり、扉に打ち付けられた身体は、左胸から下に向かって縦に窪んだ痣が出来上がっている。

 上半身を起こし、蔵の方向を見ると、暗がりから人影現れた。

 「ガシャ、ガシャ」と音を立て将臣に人影が迫り、駐車場の中心を照らす外灯によって、その人影が姿を浮かび上がらせた。

 兜を被り、上半身は裸ではあるが、袖と小手だけは身につけ、下半身には袴と足袋を履き、なぜか佩盾はいだて(腰回りに着ける鎧の一部)だけは身につけている。

  不格好な鎧武者は木刀を担ぎ持ち、悠然と近づいてくるが、「ガシャリ」と腰につけていた佩盾がずり落ちた。

 「ありゃ・・やっぱ無理やな。甲冑ってのは、ぜってぇ一人で身につけれるもんじゃねぇのな」
 鎧武者は「うんうん」と一人ごちて、落ちた佩盾を蹴っ飛ばす。

 「オイィ!その甲冑はうちの家宝じゃないのか!?」
 ひと目で大野家の家宝大鎧だと気づいた将臣は、血相を変える。

 「あん?だからなんだよ、そんなもん知るかボケ!」
 今度は被っていた兜を、凡打の腹癒せをする野球打者のように地面に叩きつけた。

 「うわぁぁ!許さん!許さんぞー!」
 将臣は絶叫し、ふらつきながらも怒りに任せて立ち上がる。

 もう鎧武者の体をなしていない少年はニヤリとほくそ笑み、2人の間に落ちていた将臣の日本刀に近づき、器用に足先に載せ蹴り上げると、空いた左手で刀を掴む。

 「ふむ、なかなかに良いバランスの日本刀だ。ってかだいぶ刃こぼれが酷いやんけ、もったいねぇな」
 持った刀を軽く振りながら、その刀をしげしげと眺める。

 「お、俺のだ!か、返せ!」
 将臣は武器を取られ、焦りの色が隠せない。

 「あっそ、刀は武士の命だ、大事に扱えよ」
     男はあっさりと刀を投げ返した。

 投げ返された刀を中空で掴めるわけもなく、「うわ!」と不格好に避けた後、慌てて地面に落ちた刀を拾い上げる。

 「お、おまえはなんだ・・何なんだよ!」

  その問に少年は応えず、担いでいた木刀をボッと凄まじい風切り音をたて、片手で振り下ろす。

 「おまえ蔵の中にいた女の子に、その刀を使ったな?」

 将臣は「はぁ?」と首を傾げるが、どこか腑に落ちたのか、半笑いで答える。
 「ははぁん、なんだおまえ、瑞希に気があるのか?マセやがってガキ共が」

 少年は呆れたように溜息を吐いた後、顎を上げ将臣を見下すように見つめる。
 「何言ってんだおまえ・・大体俺はガキじゃねぇし・・まぁいいや、お互い剣をお持つ者同士、ちゃんと剣士として相手してやるよ」

 少年は下げていた木刀を正眼に構え直す。

 将臣は対峙する少年の構えから来る気迫にたじろぎながら、不格好に片手で刀を振り上げた。

 「俺はマキ、リクト。参る!」
 リクトと名乗った少年は正眼の位置から若干切っ先を持ち上げた瞬間、一歩踏み出す。

 だがそれは、踏み出すというよりも跳躍だった。

 将臣との間合いが4~5mはあった。しかし、ひと呼吸の踏み出しでリクトは将臣の眼前に迫る。

 「ひ、ひぃぃ!」
 将臣は突然目の前に迫るリクトに反応できるわけもなく、目を瞑り刀で防ごうとする。

 リクトは踏み出した足が地面に接するのと同時に「シィッ!」息を漏らして気迫を乗せ、振り上げた上段から振り下ろした木刀が刀を中程から2つに折り、そのまま正臣の脳天に直撃する。

 「コーン」と小気味の良い音が鳴り、声を上げることもなく、白目を剥いて将臣は仰向けに倒れた。

 「フン、トーシローが。本気で打つ理由わけ無いやろ」
 リクトは倒れる将臣を見下ろし、「ブン」と木刀をひと振りして腰に収める素振りの後、一礼をする。

 「それにしても、身体が軽い・・・俺の身体どうなってんだ?」
 軽く肩を回しては自分の引き締まった腹を擦り、リクトは悩むのだった。


      
 リクトは自身の疑問をさて置き、蔵に残していた瑞希を抱き抱え、取り敢えず屋敷の方へと向かうが、自身の事も踏まえどう説明すればいいか戸惑い、屋敷の前で立ち尽くしていた。

 「迷ってる場合じゃないんだが、はやくこの子を手当しないとまずいよな・・」
      瑞希の顔色は悪く、失血によって意識を取り戻していない。

 「ミズキ?ミズキー!」
 屋敷前の事務所からアリアが駆け出してくるが、瑞希を抱えるリクトと距離を置き、瑞希とリクトとを交互に見てはどうしたものかと立ちすくむ。

 「えっと、ここの人かな?この子怪我していて、なんとかしてあげたいんだが」
 疑心暗鬼な表情を浮かべていたアリアは、その言葉にハッとして恐る恐る近づいて来る。

 「あの、ダレか知りませんが、瑞希は大丈夫なんですか・・?」

 「ああ、すいません俺はマ・・いやリクトっていいます。怪しい者・・に見えるかもしれませんが事情は後で説明します、兎に角この子を」
 リクトの真剣な眼差しに、アリアは時が止まったかのように呆けて動かなくなる。

 「あの、早くこの子を治療しないと」
 リクトはアリアに顔を近づけ再度声を掛けると、「あっ」と声を上げ赤面しつつ我に返るアリア。

 「は、ハイ、早く救急車呼ばないと!」

 「いや、その前にこの子を安静に寝かせられるところに連れていきたいのですが?」
 出てきた事務所へ取って返そうとするアリアを、リクトは呼び止める。
      
 リクトはこの瑞希という女の子をすぐにでも助けたいのは山々だったが、思惑として時間を少しでも稼ぎたかった。

 あまりにもこの惨劇に出現した自分の立ち位置を説明するには、自身の事を含め困難すぎる。

 ならば余り人目に触れ無い内に、一旦退散するにこしたことはない。

 「わ、わかりました。じゃあ、こっちに来て下さい」
 「私はアリア」と名乗った後、先頭に立ち、屋敷へリクトを案内した。

 「ここにお布団敷くので、待って下さい」
 アリアはそういい、囲炉裏のある部屋に布団を敷き出す。

 すると奥にある居間から、呻く声が聞こえてきた。

 その声に反応したアリアは、居間に駆け寄ると悲鳴を上げた。
 「マァム!マスミ!」

 リクトはそっと布団に瑞希を寝かせると、アリアの元に向かった。

 「これは・・」
 リクトは絶句した。

 そこには、裸の女性が全身うっ血した痣にまみれ、顔面は腫れ上がり、見るも無惨な姿で横たわっていた。

 また、戸口にもアリアと同じ金髪の女性が倒れており、アリアがその女性を抱き締め、必死に呼びかけている。

 リクトはアリアが引っ張り出していた布団の中からシーツを取り出し、裸の女性の身体をそのシーツで覆うようにしながら呼びかけた。

 「おい!生きてるか!」

 口元に耳を当てると、呼吸をしていることを確認する。

 「しっかりしろ!おい!」

 リクトは必死に何度も呼びかけるのだった。



        §
      

      
 益美マスミは夢を見ていた。

 中学生の自分。

 夏休みの学校。

 校舎の中庭。

 夏の強い日差しが、バケツ一杯に張った水面を反射し、きらめいている。

 隣で親友の朱莉アカリが手洗い場に背を預け、スケッチブックをうちわ替わりにし、暑さをしのいでいる。

 「益美ぃ~もう今日はヤメにして、いつものとこで、かき氷でも食べて帰らない?」
 美術部の制作発表を前に、夏休みを返上して追い込み制作をしているにも関わらず、朱莉はダレる。

 「もう、ダメだよ!そんなこと言って、今月中に仕上げるんでしょ!8月に入ればいろんなイベントが・・あるからって・・」
 語気を強めて朱莉を叱るけど、言葉の後ろに差し掛かると言葉が弱くなり、尻つぼむ。

 「フッフッフ、そっちはこの朱莉様にまかしときなさいって!」
 ダレていた朱莉は、勢いよく立ち上がると胸を張り、照りつける太陽を指差す。

 「うう、眩しっ・・」
 太陽の光をまともに食らい、避けるように体を縮める素振りを見せる。

 「もう、ホントに任せて大丈夫かなぁ・・プッ・・アハハハ」

 明るく、可愛いクラスの人気者で、お調子者の朱莉。

    小学校の頃からの親友。

 引っ込み思案だった私は、引っ張られるように朱莉の性格に感化され、いつの間にか人前に出ることも臆さない、明るい性格になっていた。
      
 校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下を、一人の男の子が歩いていく。

 私はその姿にくぎ付けになる。

 紺色の道着に袴姿、背は私よりちょっと低い。

 髪は短髪で刈り込んではいるけど、その髪型が彼の精悍な顔つきを際立たせてもいる。

 普段は友達と冗談を言い合うとき以外、その目つきの悪さから、怖がられちゃうけど、私は知っている。

 6月の雨の日、自転車に乗って下校していた帰り道、濡れた路面に滑り転倒した。

 その時に通りがかった彼は、私を強引に背負い、雨に濡れながらも近くの病院に運んでくれた。

 診察室から出てきた私に「大丈夫?」と、心配そうに声をかけてきたその彼の顔は、印象とは異なり、優しさに溢れていた。
      
 私は、恋をした。

 そして彼のことを知れば知るほどに、恋い焦がれていく。


 「益美?益美ってば!」
 私の目の前で手を振り、ニヤニヤと私の顔を見つめる朱莉。

   「ホント好きねぇ、あんなチンチクリンのどこがいいんだか」

   「もう!べ、別にいいでしょ!好きになっちゃったんだから・・」

   「はい!好きをいただきました~!ヒューヒュー!」

 2人してじゃれ合った。


 朱莉は宣言通り、夏祭りに花火大会などのイベントに、私達を引き合わす段取りをしくれた。

 でも私は告白どころか目も合わすこともできず、朱莉の作戦を全て台無しにしてしまった。

 気がつけば彼を遠くから思うことしかできず、中学校も卒業。

 私は彼の後を追うように同じ高校を受験し、進学を決めていた。

 卒業をする頃の彼は、ぐんと背が伸びていて、すごく格好良くなってた。

 いつの間にかライバルも多くなって嫌になっちゃうけど、私の恋心は育つばかり。


 彼と同じ高校に入学をし、私は春から剣道部にマネージャーとして入部していた。

 ついつい彼を見惚れて手が止まる私に、先輩マネージャーからきついお叱りを受けることもたまに、いやよくあるけど彼と同じ時間を共有できている事が幸せだった。

 程なくして運命の日が訪れる。


 夏の大会を前に、ゴールデンウィーク中を利用した合宿を行う前日。

 私は道具整理のため、部室へと向かう途中の校舎の中庭で、彼と女生徒が2人して佇む姿を目にし、思わず校舎の影に身を隠した。

 2人の会話が少し聞こえるぐらいの距離、頭の中はパニック、胸がドキドキして、でもその女生徒の語る言葉一つ一つが自分の思いと重なり、次第に胸が苦しくなって、涙が出てくる。

 彼はその女生徒の告白を断り、「ごめん」と一言あやまった。

 女生徒はなぜか彼の頬をビンタし、泣いて走り去っていく。

 私は泣いていた。

 それは彼が彼女を選ばなかった安心感なのか、その女生徒に感情移入をしてしまい、悲しみが募ったのか分からない。

 気づいたときには、私の後ろに彼が困った顔をし、立っていた。

 「竹内、どうした?どっか痛いんか?」

 自転車で怪我をしたとき、あの夏祭り、花火、受験で一人思い悩んでい私。

 全ての時に私へ向けてくれた、あのやさしい顔がそこにあった。

 いつもそう。

 その眼差しを受けるたび、私は身体が熱くなり、真っ赤に火照る顔に恥ずかしくなり、顔を伏せる。

 でも、そのときは違った。

 彼が伏せようとする私の顔を、手に持っていた面タオルで覆い、その上から手でくしゃくしゃと乱暴に擦る。

 「い、痛い!やめてよもう!」
 面タオルを手で払いのけたとき、彼はニィっと笑みを浮かべた顔を、私に近づけた。

   「へっへ~い!うん、調子戻ってきたやん。どっか痛いわけじゃない・・よな?」

 私は恥ずかしくって。

 「あのさぁ竹内、俺なんであの子にビンタされたんだろう?」

 こんな風に彼と会話したことなくって。

 「なぁ聞いてる?」

 彼の顔が間近にあって、びっくりする。

 「竹内は今の見てたんだろ?」
 彼は走っていった女生徒の方を見る。

 「俺今まで、告白を受けるたびに、恋愛に興味がないっていつも断ってた」
 「でも」と言って私に振り向く。

 「今の子には・・好きな人がいるって・・俺、言ったんだ」
 彼は悲しげな表情をし、俯く。

 「中学の頃から好きな人がいて・・」

    え・・

 「俺、そんな自分の気持がさ、最初は自分でも気づかなくてさ」

  誰?

 「その人と会いたくて、話したくて・・でもその人は俺の事を避けるし、嫌いなんだろうなって・・」

 一体誰のこと言ってるの?また涙が出てくる、でも流しちゃダメ・・

    「いや、違うな。俺は自分に自信がなかったんだ」
    うなだれる彼。

   「この学校に来て、同じ学校にいると知って・・竹内、俺嬉しかった、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」
 彼は少し潤んだ瞳で私を見つめる。

   「お前に見られたくなかったな・・俺ってやな奴だろ?」
 なに言ってるの?そんなこと無いよ・・

   「今の子、竹内の友達なんだろ?だから泣いて・・」

 その時、多分初めてだと思う。

 彼の顔を間近で、真っ直ぐに見つめることが出来たのは。

 「違う!そうじゃない!そうじゃない・・の」
 涙が止めどなく溢れてくる。

 泣きじゃくる私。

 それを見て、本当に困った顔をして慌てる彼。

 日がゆっくりと校舎に影を落としだす。

 私達は座り込み、お互いに背を預け、どれだけの時間そこにいたのかわからない。

 その間、彼はポツポツと中学の頃の思い出話を語っていた。

 私の知ってる話、知らない話、どちらの話にも出てくる私。

 恥ずかしくって、楽しくって・・そして切なくて。

 私が落ち着くのを待っていたのだろう彼は、肩越しに振り向き、ポツリと呟くように言った。

   「俺、竹内のことが好きだ・・」

 なんの話・・?

   「ずっと昔から好きだったんだ。俺ガキで、ちびっこくて、そんな俺が竹内のことを好きになることなんて、迷惑なんだろうなって思ってた」

 嘘、なんで?なんで?

 「なんとか竹内に相応しい男になろうって・・がんばって・・」

 私はずっと見てたよ、あなたが頑張る姿。

 試合に負けて悔し涙を流す彼を見て、私も泣いた。

 「よし!嫌いなら、嫌いって言ってくれていい!」
 そう言い勢いよく立ち上がると、私に手を差し伸べる。

 「竹内益美さん、俺はお前が好きだ、付き合ってくれ!」
 私はその手に導かれるように手を重ね、溢れる涙を拭うことなく立ち上がった。

 「何言ってるの?私のほうが・・もっと好きなんだから・・」
  少しの恥ずかしさと、身体いっぱいに満ちる嬉しさで、思わず彼の胸に顔を埋める。
      
    「真木 陸斗マキリクトくん」

 ・・つづく・・ 
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