17 ジュウナナ

ガランドウ

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第1章 真木 陸斗

第5話 議事場

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 「しっかりしろ!死ぬな!・・・」

 何度も掛けられる声。

 ずっと遠い昔の夢の世界に居たかった益美マスミ

 だがその声に夢から引き戻されるが瞼が開かず、まだまどろみの中にいた。

 (ああ、陸斗リクト、陸斗どこにいるの?)
 夢と現実との境がつかず、何も見えないまま手探りで想い人を探そうとするが、シーツに包まれているため動けない。

 「おい、大丈夫か?無理に動かないほうがいい」
 シーツの中で身動ぎをする益美を不憫に思い、リクトはシーツの中から益美の手をゆっくりと引き出し手を握る。

 すると薄っすらと益美は瞼を開けた。

 「ああ陸斗・・」
 覗き込む眼の前の顔に焦点が合わずともぼやけてはいるが、その面影と語りかけてくる声に、益美はうわ言のように陸斗の名を口にする。

 「・・・どうして俺の名を?」
 疑問を口にするが、益美は意識が混濁しているのか何度もリクトの名をうわ言のように繰り返すだけで、その疑問が解けない。

 「リクトさん、マームが!」
 廊下へと繋がる戸口から、アリアの声が響く。

 益美への疑問をさて置き、リクトはアリアの声がする方へ向かう。

 「い、行かないで・・行かないで陸斗・・」
 不意に握られていたリクトの手が離れ、益美は慌てて声を上げるがその声は小さく、握られていた手は虚しく彷徨った。
     
 リクトはアリアの母親キャロラインが、意識を失っていただけで無事だと分かり、救急車の手配をするようアリアに頼んだ。

 さてどうしたものかと、リクトは瑞希ミズキの方を見やる。

 「益美って人はこの子の母親・・それがなんで俺のこと知ってるんだろうな」


 リクトは気づいていない。

 それも当然のことかもしれない。

 リクトが降り立った地が何処なのか分からず、ましてやアラフィフであった自分の姿が若返っている。

 その上、知らない瀕死の女性が自分の名を呼ぶ事まで謎が付け加えられると、読み解こうとする思考を答えへと導くことも容易では無くなってしまう。

 益美という名に引っかかるものがあるが、それが誰で何なのかを想起するには至らなかった。


 遠くでサイレンの音が聞こえ出す。

 「ん、もう来たか」
 リクトはその間アリアにお願いをした服に着替え、出入り口の門とは反対の塀に向かう。

 後ろ髪を引かれる思いだが、ここにいては面倒過ぎる。

 一飛びで塀を乗り越え、裏路地に降り立つ。

 余熱ホトボリが冷めるまでと心に決め、リクトは闇に紛れていく。



 リクトは人目を避け、道路標識を頼りに高速道がある金沢西インターチェンジを目指す。

 考えがあっての行動だが、この世に舞い戻るにあたり、自分なりに予想、いや思い込みが外れての行動だ。

 一度死に、新たな生を受けた。

 そして新たな人生を歩むことを導いてくれた人物によって、この地に舞い降りた。

 だがいた戻るであろう家族の元ではなく、見知らぬ地であった。

 あの時、あいつはこう言っていたはずだ。

 「俺を導く灯台の光」と。



        §



 2023年1月27日

 真木陸斗は濁流の底、目を見開いたまま、命の終わりを迎えようとしていた。

 上空を照らす太陽の光は、茶色く濁った海水に同調した色の帯を底まで伸ばす。

 今わの際に見る光景にしては、薄ら汚い。

 (こんなもんか・・)

 死に際など、誰も見たこと無いし聞いたこともないのだから、自分の死に方を自嘲気味に言葉にし、そう評した。

 暗い帳が降りる。
   
 薄ら汚い光景すら切なくなるほどに、暗闇に包まれる。
   
 完全な闇に包まれながらも、闇の中にいると感じる意識があることに不思議さを感じたその時、闇の中に一点白い光が生じるのを認識した。
   
 その白い光は、陸斗に向かって照射するように光を伸ばし、陸斗の身体の至るところを射抜いていく。
 
 痛みはない。
 
 だが射抜かれた腕や脚をバタつかせても、その光線は陸斗の身体を射抜いたまま外れない。

 「何なんだこの光は?」
   
 腕を貫いている光線を反対の手で掴んでみようとしても、光の性質そのままに、掴むことが出来ない。

 「これは光・・じゃない、小さな文字、いや記号が列をなしている」
   
 何十本もの白く光る記号の列が、陸斗の身体を貫き、食い込んでいた。

   「何が起こっている・・」
   
 次第に陸斗の身体に食い込む光線が収束し、光が照射される始点へと引っ張られる。

 得体が知れない陸斗にとって、光の中心点へと引きずり込まれる感覚は、恐怖でしかない。

「なんや、なんなんやー!」
   
 闇からまばゆい光の中に飲み込まれ、あまりの眩しさにギュッと瞼を閉じていた陸斗は、今まで闇に浮遊していた感覚から、急に重力を感じる。

 途端に身体が落下し始め、「ビタン!」と地面に衝突した。

 「うう・・痛・・くない」
   
 真正面から地面に衝突したわりには痛みがない。
   
 不思議に思い、起こした身体をペタペタと触ってみるが、痛覚がないわけではない。

 「真っ暗闇から今度は真っ白い・・部屋?」
   
 真っ暗でも真っ白でも、そこに何もなければ空間認識が全く出来ない。

 だが陸斗の目の前には、馬鹿でかい両開きの扉がそびえ立っている。

 壁があるわけではない、ただ石造りの何も装飾が施されていない扉だけが、目の前にあるのだ。

 陸斗は立ち上がり、膝下までずり降ろしていたズボンに気づき引き上げ、ベルトを締めながら何気に扉の後ろ側に回り込むが、なにも無い表も裏も同じ作りの扉。
 
 ただ馬鹿でかい。
   
 こうなってくると扉ではなく、高さ10mほど幅3mほどの衝立ツイタテだ。

 「まぁあれだ、ここがあの世であるなら、なんでも有りやな」
 自分に言い聞かせ、意味があるのかわからないが、取り敢えずと扉を押し開けてみる。

 「ぐぐ・・開かない」
 両手で押し開けようとしたが、びくともしない。

 「そうかそうか・・これは試しの門であって俺を試すと。良かろう!」
 今度は、扉から距離を取り、扉にタックルするように肩からぶち当たる。
    
 やはりビクともしない。

    だが錠が開くようなカチリという音が鳴り、扉が手前に向かって勝手に開き出すと同時に、開いた隙間から強風が吹き込んできた。

 「鍵が掛かってたんかい・・」と自嘲しつつ、この扉は他の空間との入り口だと、どこかのファンタジーを思い描きながら、強風に抗い扉の中に入っていく。

 足を踏み入れ、目に飛び込んできた光景に絶句した。
    
 円形の巨大な石で出来た造形物が、中心に向かってすり鉢状に段差を作りながら落ち窪んでいる。
    
 それはさながら円形劇場のようでいて、屋外。

    陸斗が立ち尽くす場所はその円形劇場最上段、自分が入り込んだ扉と同じ扉が四方にあるが壁はない。

    扉の向こう側に見えるのは、きらめく星々が彩る夜空。

 恐る恐る背にある扉の横を覗き見ると、果てしなく続く星々の光景。

 「ここは宇宙なのか?」
 訝しみながら、辺りを見渡していると、どこからか声が聞こえる。

 「おーい」
   
 「・・・おーい!いい加減気付けや!」
    
 声の出どころを探し、一番下の円の中心になにやら人がこちらに向かって手をブンブンと振っているのが見えた。

 よく見ると、その場所にはいわゆる円卓と呼ばれるテーブルが置かれ、その上に行儀悪く立つ、素っ裸の子供が手を振っている。

 「おー、やっと気づいたか。こっちじゃ、降りてこーい」

 周りを再度見渡すが他に人の気配はなく、不安さを抱えながらしょうがなく降りていこうとしたが、はいそうですかとそう簡単に降りていけるような高さじゃない。

    段々にはなっているが、一段が約2m以上はあるため、そっと縁にぶら下がりながら降りていく。

    「ホント、ドン臭いのう。ちっとは痩せたらどうじゃ?」
 やっとの思いで、円卓のある最下段に降り立った陸斗に向かって悪態を付く、素っ裸で幼稚園児にしか見えない子供。

 「テーブルの上に乗って行儀悪い、ちょっと降りてきなさい」
 陸斗は一発どついてやろうと思いつつ、説教臭く子供に声をかける。

 「ん?なんじゃ、わしのことが分からん?・・まぁ分からんか、そりゃそうじゃ!」
 「かっかっかっ」と高笑いをする子供、なんかジジイくさい。

 「オイ、ガキんちょ。あんま大人をからかうなよ?」
 陸斗は大人気なく、子供に凄んで見せる。

 「なんじゃい怒ったんかい、気が短いのう・・まぁそう怒るでない」
 陸斗を宥める素振りを見せながら、子供はテーブルから飛び降りると、周りを囲む石造りの椅子の 一つに座り、陸斗にも座るように即す。

    陸斗は憮然としながらも、子供とは少し離れた、斜めに位置する椅子に座る。

 「はぁ~・・でだ、わしはまずお主に感謝せなばならんのじゃが、と言っても事の成り行きから話さねば、今みたいにわし怒られちゃうから」
 「テヘッ」と子供らしい素振りをする仕草は愛らしい。

 「なんか腹立つがまぁいい。それよりもまず、ここが何なのか説明してくれないか?」
 不満げな陸斗をよそに、子供はポンと手を打ち「そりゃそうじゃ!」と言ってまたジジ臭く笑う。

 「バ○殿かよ・・」と陸斗は一人言を言ったつもりが、子供の耳にも届いていたようで「お、わかった?」と嬉しそうにし、他のレパートリーも披露しそうになるのを「いい加減にしなさい」とツッコミ、止める。

   「あ~コホン、そうじゃのう、何から説明するか・・・」
 
 ジジ臭い子供の口から咄々と出る話は、理解が追いつかなく、何度も話を 堰留め、その都度説明を求めた。

    全てを聞き、理解出来る出来ないは置いておいたとして、要約すればこうだった。


    〇「この場所は議事場ギジジョウと呼ばれ、一つの人生が終わる者がこの場に立ち、今までの人生とこれからの人生を議題にし、討論する神聖な場所」

 〇「だが、この議事場に訪れることが出来るのは、人ではない」
    
 〇「我々のような、お前たちの言う魂と呼ばれるもの自体が生命体である人々だけ」


 「突拍子も無い話だけど、今の俺がいるこの場所だけでも不自然極まりないだけに、信じざる得ないが・・それで一つ聞く。俺はアンタとは違うが、なんでここにいるの?」

 「いいトコ気付きました!」と陸斗をビシッと指差す子供。

 「それはわしがしたんじゃよ。感謝の意味を込めて失われていく魂を、わしの力で変換したんじゃ」
 子供は偉そうにエヘンと胸を張る。

「まぁわしの今の姿では気づかないのも無理はないが、アンタはわしを助けようとしてくれたじゃろ、あの時助けたじいさんを覚えとらんか?」

    陸斗は「アッ」と声を上げ、あの時の事を思い出すも、今の子供の姿では想像もつかないまま、思い悩む。

 「わしはあの時、もう既に人生を終えていたんじゃ。しかし、その終焉を迎える寸出でアンタはわしを助け起こし、あの不格好な舟に乗せてくれた」
    そこで一旦話を区切り、子供は「ふむ」と考える素振りを見せて話を続ける。

 「アンタはそれと引き換えに命を落とした・・まぁあの女のしでかしたのもあるが」
 「フフっ」と含み笑いをして「いや、すまん」と嘲笑したことに詫びを入れる。

 「いや、いいよ。あの場には俺達しかいなかったから、今の話であの時のじいさんだと分かるよ。それにしても助かったんだなじいさん・・って助かってない、よな?」
    陸斗はあの危機的な状況で救われた命が有ったことに少し感慨深くなるが、今の状況とは噛み合わないと気づく。

 「命が有る無いの話ではないのじゃ、人生の最後に一つの経験が得られた」
    深々と頭を垂れる子供いやじいさんに、礼には及ばないと思ったが、じいさんの言葉に疑問が生じる。

 「経験?」

 「うむ、そこが話の肝になるかのう。わしらは遥か昔からこの星に住み着いた、言わばエイリアンいや異邦人っていうのかの」

    エイリアン=異邦人。そこを敢えて異邦人としたのには訳があるのだろか。

 「わしら生命体の話をしだしたら、それこそ時間がいくらあっても足らないし、ここの時間は有限じゃ」

  「ら?」他にもいるのかと思い、口を開きかけるが、じいさんは手で押し留める。

  「いずれ話す機会もあるじゃろう、取り敢えずはワシの言う話を聞け」
 じいさんはニヤリと子供の顔には似つかわしくない笑顔を陸斗へ向けた。

 「わしらはある意味で不滅でありながら、ただこの星を漂うのみの存在じゃった。じゃが悠久の時を過ごすことが出来るが故に、暇なんじゃな。結果、好奇心というのは止めれず、中には気候や自然現象に干渉する者も現れた。そこでわしらは極力、この星の生命には干渉せずに過ごす事を規律として定めながらも、この星で営む人間の存在に興味が湧いてのう」
 じいさんは感慨深げに頷きながら、話を続ける。

 「そのうち規律を犯すものが現れだすが、罰するよりも緩和を選んだんじゃな、そして生まれたのが、人間と同じ人生を歩むスベじゃ」
 じいさんは、恍惚とした表情を見せ、天を仰ぎ見る。

 「わしらは、何度でも人生を歩んで見せる、そう何度もじゃ。そして沢山の知識や経験を得る」
 そこでじいさんは小さな体ながら椅子の上に立ち、自分の身体を見せびらかすようにくるりと回る。

 「見てみぃ、ヨボヨボだった身体がご覧の通り、子供からやり直しじゃわい」
 言葉使いも直せよというツッコミを阻むように、じんさんは一つ溜息を吐き、陸斗を見やる。

 「わしはアンタをわしらと同じにしたんじゃ、それは勝手なことだったかもしれん。じゃがわしはアンタの生きる為に足掻く姿が、頼もしくも有り、惜しく思った」

 陸斗はじいさんが話す内容の半分も理解できていない。

 だがあの津波に飲まれ、終わる人生には未練が在々アリアリだ。

 「じいさん、はっきりいってよく分からんが、でもありがとう」
 今度は陸斗がじいさんに頭を垂れた。

 「まぁなんだ、要するに俺は、もう一度人生を歩み直せる訳だ」
 陸斗は新たな人生に思いを馳せる。

 「そこなんじゃが、わしらは人の人生を歩む際、必ずここ議事場で討論を交わし、羅針盤が新たな人生の方向性を定めるのじゃが・・・」

 「ほれ見ての通り、今はこの議事場に討論する相手がおらんから、羅針盤が機能せんのじゃ」
    辺りを見渡すようにし手を広げ、陸斗にも見よと指し示す。

 人がいないのは分かるが、羅針盤というのが何処に有るのかが分からない。

 「じゃが、心配無用じゃ、羅針盤が無くともおぬしが戻りたい地上に、導きの灯台がある。それはおぬしを思う強い思念じゃ」

 陸斗は頭を捻る。
 「う~んよくわからんが、誰かが俺のことを思ってくれて、それに応えれば 戻ることが出来るってことかな?」

 「うむ、飲み込みが早くて助かるのう。では早速探してみようかの、灯台の光を」
 じいさんはその小さな手で、円卓を叩いた。
    
 その行為に応じるように円卓が光を帯び、光の記号列が円卓から天に向っていくつもの線になって伸びる。

 「あ、これって俺を引っ張り込んだ光線か?」

 「ああ、そうじゃな、これもわし等が持つ技術じゃが・・おお、見つけたぞい、アンタを導く灯台の光が」

 天に伸びていた何本もの記号列の光線が、組紐のように編み込まれ、細い鎖になり、鎖の先が陸斗に向かって伸び、陸斗の身体を縛っていく。

 「お、おいなんやこれ?どうなってんだ?」
    身体の自由を奪われ、陸斗は不安さを覚える。

 「心配なさんな、ただ言っておく」
 足元から蚕の繭のように変貌していく陸斗に向かって、ビシリと指差す。
 
 「その導かれた先は、おぬしの人生じゃ、その事だけは胆に銘じておけ」
 
 伝えるべきことを言ったじいさんは、無邪気な笑顔で「いってらっしゃーい!」と陸斗に手を振った。

    陸斗の身体が見えなくなるほどの白く光る鎖で覆われると、白い光が一層輝き出し、分解するように光の粒が発散し、陸斗の姿も消えてなくなる。

 はこうして、導かれる灯台の光の先に転移、いや転生したのだった。



 リクトが灯台の光に導かれ地上に戻り、一人議事場に立ち尽くすじいさんならぬ小さな子供。

 「行きおったのう・・」
 暖かな微笑みを浮かべ、ポツリと呟く。

 「そうだな、オマエの口車に乗って」
 唐突に議事場内に声が響くが、じいさんはその言葉に動じることもなく、声の主に向かって嘆息を漏らした。
 「なんじゃ、来おったのか?」

 じいさんから一番遠い円卓席に、突然現れた頭から足先まで黒で統一されたライダースジャケットにレザーパンツ姿の男が座る。

 「当たり前だ、オマエに邪魔されて俺が黙ってると思うか?」
 横柄に円卓へレザーブーツを履いた足を投げ出しては、ジャケットからタバコを取り出し1本咥えると、馴れた手付きでジッポーを使い、火を付ける。

 「ほう、じゃあ何かい?このわしから取り返しにでも来たかいの?」
    不敵な笑みを讃え、小さな身体で円卓に身を乗り出す。

 「フン、それが出来れば、とっくにしてるがな」
    黒尽くめの男はつまらなそうに上を向いて、盛大に紫煙を吐き出す。

 「だがな、これだけは言っておく無識者ムシキシャよ」
    タバコを円卓でもみ消し立ち上がると、じいさんを無識者と呼び指差す。

 「お前がどれだけ邪魔をしようと、俺は手に入れるぞ、必ずだ」
    指を突き付けられた無識者は、呆れた素振りを見せる。

 「何度も言っておろう、もうこれ以上同胞を取り込んでも意味は無いと」
    無識者は辺りを見渡し、言葉を続ける。

   「本来いた300もの同胞を殺め、その生命エネルギーを喰らい、得たものはなんじゃ?飽和しこぼれ出た生命エネルギーが、この星にどれほどの影響を及ぼしたことか、おぬし分かっておるのか?」

    この議事場は、元々下から上に向かってある段全てに議席があった。

    だがその全ては不在のまま、最下層の円卓、この男を含め17席のみとなったのは、この男の所業だった。

 「ああ、確かに無駄だったな・・それもこれも無識者、お前の持つ力、魂の従事者タマシイノジュウジシャが邪魔をするからだ!」
    黒尽くめの男は怒りを露わにし立ち上がると、掲げた右腕に力を顕現しようとする。

 「まぁ待て、ボレアスよ。今ここでり合っても利がないのは、知っての事じゃろう?それにじゃ、わしの力の名は魂の従事者ソウルトレイン、そこんとこスマ ートに言ってくれんとかっこ悪いじゃん?」
    おどけて見せる子供の姿に、毒気を抜かれたボレアスと呼ばれた黒尽くめの男は、無識者に一瞥をくれて、ドカリと席に座る。

 「どこまでもふざけた奴だ・・あの2体をホフれた僥倖ギョウコウが、無に帰してしまったが、まぁいい。残り16席、いずれ全て貰うぞ」
 ボレアスは無表情に宣言をし、無識者の言葉を待つ。

 「ボレアス、幾ら待っても新たな担い手の情報は、得れんぞい?」
 無識者はその姿に似つかわしく、キョトンと首を傾げる。

 「チッ」と舌打ちをし、ボレアスは煙を纏い、席から姿を消した。

    「はぁ~・・ホントやつとのやり取りは疲れる・・」
    無識者は円卓に突っ伏し愚痴るが、思い直したように立ち上がると、満点の星空を
    見上げる。

 「あの御方に申し渡された、議席をこれ以上失わずに纏める議・・もうわしの手には負えないのう・・四柱であるボレアスの暴走は、わしでは止めれんよ」
 自嘲気味に笑みを溢す。

 「ならば、期待してみようかの・・」
 吹っ切るように星を仰ぎ見る。

 「17席の新たな担い手、リクトよ。お前はどのような人生を見せてくれる?」
    
 遠くを見る目で思いを馳せていた無識者であったが、「あ!」と突然大きな声を出しあたふたし出す。

 「もう一人新たな担い手いたわ・・急いで準備せねば!」

 ・・つづく・・
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