17 ジュウナナ

ガランドウ

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第1章 真木 陸斗

第6話 フューチャーアンドパスト

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 リクトは金沢西IC料金所で、まんまとヒッチハイクに成功し、北陸道を南下していた。

 「あんちゃんが大学生?ふ~んまぁ詮索しないでいてやるが、親を心配さしてるんじゃないだろうな?」
 髭面に四角張った厳つい顔をしているが、言葉の端々に面倒見のいいオヤジの雰囲気があるトラックドライバー。

 些細な嘘でも良心が痛むが、中身がオヤジなリクトは、この手の相手とは気が合い話が弾む。

 そんなトラックドライバーとも進む方向の違いから米原ICで別れを告げ、新たなヒッチハイクを開始するがもう夜中の3時を周り方向の違う長距離トラックばかりが横行し、なかなか捕まらない。

 リクトは大阪を目指していた。

    目指すべき場所はある、だがそこに行き着くには無一文のリクトにとっては少し遠い。

    致し方なく8号線を米原駅方面に徒歩で向かい、駅についた頃には始発電車が動き始めていた。

 「はぁ・・やっぱお金も無心すべきだったよなぁ」
 バスのロータリーに備え付けられたベンチに身体を投げ出し、寝転がる。

 「いや、ダメや!可愛かったんだもの・・・アリアちゃん!男として、かわい子ちゃんに金貸してなど言えんし!」
 変わらずオヤジ臭い物言いをし、転がりたおして一人悶絶する。

 「まぁそんな事言ってる場合じゃないな」
 我に返り、リクトは覚悟を決めた。

 時間が朝の7時を回り、通勤通学の人混みが出来るのを待ち、自動ではない改札を、駅員の目を盗んで通り抜ける。

    首尾よく到着した、姫路行新快速に乗り込んだ。

    女の子には恰好を付けるが、平気でキセルが出来る男がここにいた・・。

 大阪駅で環状線に乗り継ぎ、新今宮駅に降り立ったリクトは、天王寺方面に向かって歩き出す。

 新今宮駅を下車駅に選んだ理由は、今のリクトの身体能力ならば・・言わないでおこう。

 阿倍野筋を挟んで西側は再開発が進み、町並みがガラリと変わっているが、東側はまだ昔の町並み、下町の雰囲気が残る。

 裏路地を通り、リクトは我が嫁、雅子の実家を目指していた。


 2013年1月28日、この日の事をリクトは鮮明に覚えていた。

 途中電車に揺られながら、向かいに座るサラリーマンが読む新聞の日付に、驚きと同時に、その思い出が呼び起こされたのだ。



        §



 この時陸斗は34歳で、大阪府警機動隊駐屯地の剣道師範として、日々隊員の稽古に汗を流していた。

 そんなある日、事件が起きる。

 陸斗の教える隊員達と、年末の忘年会に繰り出した時のことだ。

 2次会へと河岸カシを変える為に移動していた時、数人の隊員が通行人と喧嘩を始めてしまう。

 仲裁に入った時には、もう既に隊員が数人を怪我をさせてしまっていた。

 酒が入っての不祥事だけに事を起こした隊員は処断され、陸斗は自ら監督不行届きを申し出るが剣道師範の退職を伺うが認められず、責任を負うこともなかった。

 だが思いもしない方向から、陸斗に災難が降りかかる。

 当時の飲み会での一幕の写真が流出したのだ。

 盛り上がりを見せる隊員たちと陸斗、まではよかったが陸斗の首に手を回し、より掛かる女性隊員がバッチリ写っている。

 また悪いことに、満面の笑みを浮かべる陸斗。

 そして、なぜかその写真が嫁である雅子の手元に。

 結婚してから初めての夫婦喧嘩を経験し、雅子は子供らを連れて大晦日だというのに、実家へ帰ったのだった。
 
 酒に呑まれたことのない陸斗は、なにもやましい事などしていない自覚があり、最初のうちは身の潔白の言葉を並べていたが、悶々と一人の正月を過ごす内に、満面の笑みを浮かべるアホ面の自身の写真に悪態をつき、自己厭悪感に苛まれる。

 だがあまりの寂しさと自分の愚かさに覚悟を決め、詫びの品として買った指輪を手に、雅子の実家に向かったのが、1月も末、28日の今日だった。



        §



 裏路地から民家が並ぶ私道に出ようとした時、聞き覚えのある声に呼び止められる。
 「リクト、やめておけ」

 通ってきた裏路地を振り返ると、オーバーオールにモスグリーンのMA1を羽織った子供、いやじいさんがそこにいた。

 「ええ!?じいさん・・なのか?ってかアンタもこっちに来たのかよ」

 「よ!」と片手を上げ、リクトの前まで来ると、じいさんはくるりと回る。

 「ほら、ちゃんと見るのじゃ。もうわしはじいさんじゃないし、名前がちゃんとある!聞きたいか?」
 目を輝かせて、上目遣いでリクトを見る可愛らしい子供・・ではある。

 「見るも何も、その姿知ってるし、名前?そういや聞いてなかったな」

 「では耳をかっぽじってよく聞くがいい!」
 胸を張って居丈高な物言いは、じいさんのままだ。

 「その名もリョウ!クロキリョウじゃ!」

 「ハイハイ、リョウ君ね、ヨロシク。じゃまた後で」
 そそくさと、通りに出るリクト。

 「まてー!人の話をきくのじゃ!」
 リクトの前に回り込み、プンスカと怒るリョウ。

 「なんだよ、俺は今いそがしいの!話なら後で聞くから、おこちゃまは向こうの公園にでも行って遊んでなさい」
     しっしっと追い払う仕草をし、目的地に向かう。

 「リクト、ホント行かないほうがいいぞい。大体そこにはリクトが求める答えなんて無いんじゃぞ?」
 聞く耳を持たず、歩みを止めないリクトに纏わり付くようにし、リョウは言葉を続ける。

 「リクト、本当は分かってるんじゃろ?なぁ?」
 角を曲がり、あと数十メートルも行けば雅子の実家があるが、そこでリクトは歩みを止める。

 「なぁじいさん、いやリョウ。説明してくれるか?」
 先の方に見える光景に、リクトは顔をしかめ、見つめている。

 そこにはインターホンを押すのを躊躇チュウチョする、当時の自分の姿があった。

 34歳の真木 陸斗が何度も躊躇タメラいながらも、意を決してボタンを押す。

 インターホンからは返事の言葉は無く、長い沈黙の後、ガラリと玄関が開け放たれ雅子が姿を現す。


 そう、そしてお互い何の言葉も交わさず、見つめ合い、そのうち雅子が目いっぱいに涙を湛え、それを見た俺は即座に土下座を敢行し・・。

 「ゴメン、ゴメンな・・許してくれ」と詫びた。

 雅子はゆっくりと俺の手を取り、笑い泣きの顔で俺の胸に飛び込む雅子。

 その時にはもうリクトは背を向け、来た道へ歩きだしていた。

     
 天王寺公園の芝生の上に寝転がり、空を見つめるリクトとリョウ。

 「のうリクト、これからどうするんじゃ?」
 空を見つめたまま何も言わないリクト。

 「まぁリクトがこれからどうするかなんて、わしが決めることでも無いから、どうでもいいんじゃが」
 「よいしょ」と掛け声をし起き上がったリョウは、リクトを見つめる。

 ここに来るまで、一心不乱に歩み続けるリクトを追いかけながら、リョウは説明をしていた。

 今いる世界はリクトにとっての過去であり、その姿からすれば、未来でもある。

 正常にこの世界の時間を生きる自分もいる。

 言うなれば、この若き姿のリクトはこの世界の異物。

 だがこの世界に新たな生命として、必要とされたのも事実。

 それは世界がではなく、一個人の願いであったとしても。

 リクトを求める強い思念の先、それは一概にお互いが求め合うものとは限らない。

 かと言ってその強い思念は、偶然見つけ得るものでもないのだ。

 時間の流れを無視しようとも、必ずそこにあって、それに惹かれる。
 
 ならば、なぜココではなく、あの地だったのか。

 答えは出ている。

 だがリクトは最愛の家族が自分を強く求めてくれていると、そう思いたかったし、そうあって欲しかった。


 「なぁリョウ、お前って動物園行ったことあるか?」
 不意にリクトはリョウに声をかけた。

 「ん?あることはあるが、そんな記憶に残るほど行ってないのう」
 昔を思い起こしているが、あまり思い入れは無いようだ。

 「そっか。俺は大好きでさ、特にサル山が好きで、見てて飽きないんだ」

 「サル山はボスザルを頂点として、一つの社会が築かれてんだ。俺はその中で、ちょこまかと駆け回ってる、多分下っ端なんだろうそんなオスザルを見ているのが好きなんだ」
 リクトも体を起こし、リョウを見る。

 「そいつは色んな所にちょっかいをかけ、駆け回る。それは一見お調子者のように見えるけど、実はそいつ、その社会の調和というか、管理者のように思うんだ」
 その様子を思い出しているんだろうリクトは、少し笑顔を取り戻していた。

 「なぁ奥さん、お子さんはちゃんと乳飲んでるか?おっとそこのお嬢ちゃん、今日のボスは上機嫌だからチャンスあるかもよ?とかってさ、言い回ってんの」
 語る猿の様子を身振り手振りで説明するリクトに、リョウもその様子を思い描いては「うん、うん」と頷き共感する。

 「でもそいつは、ボスザルには近づかない、それでいて遠くで見てんのよ、ボスザルのちょっとした動作、機微キビっていうのかな?それを感じて動き回る、サル山の平和のために・・」
 「ハハ、なんてな!」と言って、リクトは豪快に笑いだした。

     一頻り笑ったリクトは、リョウに向き直る。
 「俺の新たな人生は、始まってるんだな?」

 リョウはなにも言わず、微笑む。

 「行ってくるよ。ちゃんと俺を呼んでくれた人と、向き合わないとな」

 「そうじゃの!」と満面の笑みで、その言葉を受け止めるリョウ。

 「ところで、どうやって戻るんじゃ?リクトお金持ってないんじゃ?」
     満面の笑みのまま、リクトに疑問を呈する。

 「ま、歩いてでも行けるし、なぜかこの身体、疲れないからなぁ」

 「はぁ?」
 呆気にとられるリョウ。

 「バカも程々にせい。・・・まったくしょうがないのう、んじゃいくかいの、ほれ!」
 リクトの腕を取り、無理やり立たせて引っ張っていく。

 「ど、どこ行くんだよ?」

 「取り敢えず、その服なんとかしないとのう!どこ行くにもジャージ姿でウロウロしてるのも良くないし」

 「いや、結構気に入ってるんだけど・・」

 「ダサ・・」

 「んだとコラ!ってかリョウ、金持ってんの!?」



        §



 金沢 1月28日 PM11時頃

 一人の少年が犀川河川敷沿い、犀川緑地公園をフラフラと歩いていたが、疲れたように川に面したベンチに横たわる。

 その姿は、白い無地のYシャツの上に、地味なグレーのロングコートを羽織っているが、真っ赤な髪が印象を残す。

 そこへ騒がしく談笑する男女の集団が、こちらに向かってフラフラと進んでくる。

 ベンチの横を騒ぎながら、通り過ぎようとする集団の内の1人の男が、真っ赤な髪の少年気付き足を止めた。

 「オーイ、ここになんかいっぞ!」
 赤髪が目に留まり、その髪が挑発的に見えたのか、因縁を付けるために声を張る。

 「うるさい、いやほっといてくれか・・」
 赤髪の少年は、絡まれたことを自覚したのか、独り言を呟いた。

 「ああん?オイ、なんか言ったか?」
 男はドスの利いた声で、赤髪の少年に食って掛かる。

 「待て待て、何してんだ。ん?なんだガキじゃねぇか。こんなとこで寝てっと風邪引くぞ?」
 ちょっかいを掛けている男を制し、リーダー格っぽい大柄な体格の男が、体を屈ませ少年を注意する。

 「ども、ありがとう、じゃないすいません」
 赤髪の少年は居住まいを正し「すいません」と言い直すと、大柄な男に頭を下げその場を後にしようとする。

 「え?ちょっとナニこの子・・カッコいいんですけど!」
 だが集団の中にいた一人の女子が、少年の整った顔つきに気付き、馴れ馴れしく少年の腕に絡みつく。

 「ああっ、テメェなにミーコに抱きついてんだコラァ!」
 少年に因縁を付けていた男が、女子の行動に言い掛かりも甚だしく食って掛かる。

 「もう何よ!アンタ関係ないでしょ~・・けどホントイケメンだわぁ・・ねね!チューしよチュー!」
 少年に唇を近づけてくるが、その息は酒臭く、相当酔っ払ってると分かる。

 「ちょっと、ヤメて?じゃない、殺すぞ、いやいや離れてください?」
 少年は軽く腕を振り払ったつもりだったが、酔っ払ってるせいもあるのか、その女子は脚を絡ませ倒れ込む。

 赤髪の少年は、倒れた女子を見下ろし、「離れてください」とまた言い直す。

 「テメェ!よくもミーコを!ぜってぇ許さねぇ!!」
 先程から少年に絡んでいた男が頭に血を上らせ、殴りかかろうとする腕を大柄な男が掴む。

 「ヤメとけマサシ!なんかこのガキ変だ・・なんかヤってんのかもしんねぇ」
     絡んでいた男マサシを宥め、少年へと振り向いた大柄の男の後ろで、ドサリと何か倒れる音がした。

     「お、おいマサシ・・何やって・・ひっ!ひぃぃ!」
     他にいた男達が突然倒れたマサシを抱き起こそうとするが、マサシは白目を剥いて陥没した鼻から血を噴き出している。

     「こ、これって・・まさかお前が・・」
     驚愕の顔をし、少年へ向き直った大柄な男は、問いかける。

 「敵意を感じた、正当防衛ってやつだ。いや返り討ち?いやいや正当防衛で合ってる」
 少年は自問自答をした後、徐に手を開いた右腕を掲げる。

 「正当防衛だよ」

 「な、なにいってんだよ・・なんなんだよ!!」
 大柄な男は恐怖でしか無いその少年から、逃げるように後退る。

 「よかった~最初に出会った人達が悪人で、いやちがう」

 「出会った相手が悪かったな?」
 少年は掲げ上げた両手を、勢いよく振り下ろした。

 その瞬間、その場にいた男達が一斉に倒れる。

 「ふう、目立ちたくないんだが、いやこれで目立たない・・か?」
     少年はくるりと踵を返すと、遊歩道を歩いて行く。
     

          
        §



 リクトとリョウは、大阪なんば駅近くのビジネスホテルに滞在していた。

 すぐにでも金沢に取って返したかったリクトではあったが、大野家で起こった事件性と、その場にいた謎の少年について警察が捜査していることや、益美や瑞希の怪我の具合等をに成りすまし、同僚から情報を引き出していた。

 総合的に考え、そう急いで行動を起こすよりも、場が落ち着くまでのんびり行こうと考えが纏まる。

 というのも、益美らが入院している病院に警察が張り付いている事実と、意外にリョウがお金持ちである点が大きい。

 「何いってるのじゃ?これでもわしはリクトと同じ時代に、じいさんになるまで一つの人生を送ってきんじゃよ?そりゃ一財産ぐらい持ってるわい!」
 どっかでチョロ魔化したんじゃないかと、疑ったリクトに対して「心外な!」と怒りを露わにした小さな子供。

 「あの時の身なりからして、そんなに金持ってるようには見えなかったけどなぁ・・せいぜい年金暮らし的な?」

 「うっさい!そんなことばっかり言ってたら、もうお金出してやらんからの!」
 リョウは怒りながらも、着ていた服を脱ぎだし、「先にシャワー浴びるぞい!」と断りを入れて、浴室に入っていった。

 ビジネスホテルに滞在するに当たって、2人は兄妹という設定で兄であるリクトの受験の為に、大阪に来ているとしていた。

 そう、そこで驚愕の事実が判明したのである。

 リョウは妹でいくと言い張ったのだ。

    リクトはリョウ、いやじいさんだという子供と議事場で、初めて逢った時のことを思い浮かべる。

 リョウの顔立ちは、言われてみれば中性的というか、可愛らしい顔をしている。

 確かあの時、子供は素っ裸でいた。

 小さな子供の身体は性別を判断する上で、あれが付いてるか否かが全てと言ってっも過言ではないだろう。

 だが、あの状況下でソコを注視してはいなかったし、元じいさんだと分かってから、男だと思い込んでもいた。

 否定する材料を失い、釈然としないが受け入れるしかなかった。

 「まぁどっちでもいいっちゃいいか、ややこしいけども・・」
 リクトはベッドに寝転がり、天井を見つめながらこれからの事を考える。

 「けど、生まれ変わったとして、別人ではなく俺は若くなったけど、赤ちゃんからやり直してるわけじゃないし、じいさんは女の子としてこの世界に来た」

 「なんか意味あんのかな・・ってか俺何歳だ?」
 リクトは不意に生まれた疑問に答えが出せず、悩む。

 「それが大事なことか分からんが、まぁ最初のところに戻ればその答えもあるんじゃないかの?」
 浴室から、髪の毛をバスタオルで乾かしながら出てきたリョウが、その疑問への解を示した。

 「・・・ふむ、やっぱ女の子だな、付いてないわ」

 「どこみとる!!このスケベ!!」
    
 マジマジとリョウの身体を見るリクトに、リョウはなぜか恥じらいバスルームへ身を隠す。

 リクトはその様に、肩を竦めるのだった。



 2人はゆったりとした時間を過ごした。

 大阪は2人にとって住み慣れた土地であり、何処に行くにしろ勝手知ったる何とかで迷いはない。

 ただ、食べ物に関してはそれぞれに拘りがあり、バチバチに舌戦を繰り広げる。

 それでも最後には行き着くところは一緒のようで、2人仲良く同じ店で舌鼓を打つ。

 美味しい物を食べ、買い物をし、笑い合う。

 そうしているうちにじいさんだったリョウは、言葉遣いは別として仕草が次第に女の子っぽくなっていく。

 そう感じるのはリクトがリョウに抱くじいさんだという固定観念が希薄していったのか、それとも異性を意識したのか。

 「じゃーん!見てみい、どうじゃこのワンピース」
 衣料品店の試着室で、モデルを意識したポーズを取るリョウ。

 「あのなリョウ、それは完全にグラビアの・・」
 リクトは四つん這いになり顔だけでこちらを振り向くリョウの姿に、ツッコミを入れる。

 恥ずかしくなったのか、勢いよく仕切りのカーテンを閉めるリョウ。

 「ああそうか、感覚としては、長女を見ていた時の感情とダブるんだな」
 昔を思い出し、懐かしく思う。

 「ってかリョウ、じいさんだった頃はグラビアアイドル好きだったんだな・・」


 3日程経ち、行動を起こすことで意見が一致した。

 といっても、いい加減飽きていたのだ。

 元はいい歳こいた大人なのだ。

 この見てくれでは夜の繁華街に繰り出すわけにもいかず、ギャンブルも出来ない。

 要は、する事がないのだ。
 

 2月1日、新大阪駅。

 新幹線の改札口で、リクトはリョウの背中を見送っていた。

 リクトの顔は寂しさを張り付かせて・・いない。その実、笑いを堪えるので精一杯だった。

 その理由は、こういうの好きだといって着飾ったゴスロリ、いやロリはままなのでゴシックファッションに有名アウトドアブランドのバックパックを背負って、女性乗務員に手を引かれているリョウの姿は、さも女性乗務員がバックパックの手を引いているように見え、その絵面が可笑しかった。

 前日に遡る。

 着替えだの土産だのと荷物が多いリョウに、ならばとリクトが提案したのが、アウトドア用のバックパックだった。

 アウトドア好きであったリクトは、そのバックパックの機能性や収納の良さを語り、その言葉に感化されたリョウが、是非にと買い求めたのだ。

 「リクト、わしは東京に用事があって一緒に行けないのじゃが、のう寂しい?のうのう!」
 リクトはリョウの頭を引っ掴み、ベッドに投げ倒す。

 「のうのう、うっとーしいわ!」
 邪険に扱ったのに、それが楽しかったのか、キャッキャと喜ぶリョウ。

 「ま、わしはわしで新しい人生が始まっとるから、それなりに準備が必要なのじゃ」
 その準備とやらが、東京にあるのだろう。

 詮索する気はない。聞けば答えるかもしれないが、それも面倒だ。

 「んじゃ俺は金沢に向かうとして、ホントは車が使えればいいんだがそうは行かないし、まぁ普通に電車で行くか」
 「そうかそうか」と肯いたリョウはその場でバッと立ち上がると、スカートの両端を摘まみ上げる。

 「どうじゃ?このファッション、可愛いじゃろう。のうリクト、パンツ見たい?」

 「オムツを見る趣味は無い」
 リョウのドロップキックをもろに受け、ベッドに倒れ込む。

 その際に見えたリョウのパンツに、スンと感情が抜け落ちた事に、リクトは正常なのだと改めて納得するのだった。 




 リクトは京都で湖西線に乗り換え、敦賀から北陸本線で金沢に向かっていた。
 
 湖西線から全て在来線普通車を使い、新大阪から約5時間、電車に揺られていた。

 リクトは金沢駅から2つ手前の野々市で下車する。

 手に持つ地図には、益美がいるであろう病院に印を付けてある。

 「うーむ、西金沢から北陸鉄道使った方が近かったな・・」
 今いるところから病院まで、距離がある。

 「けど、何らかの捜査に引っ掛かるのも宜しくないし、様子見ながらいきますか」

 時刻は午後2時を少し回った昼下がり、直接病院に向かったところで、人の目があり過ぎるし、捜査関係者も詰めてるかもしれない。

 ならば、忍び込むとしても夜遅くのほうがいい。

 腹ごなしに途中にあったラーメン屋で食事をし、それでも時間が余る為、近くにあった大学の隣にある公園で、時間を潰すことにした。


 時刻が進み、夜7時を回る頃には、辺りが夜の闇に包まれ、人気が無くなる。

 「さすがに冷えてきたな」
 黒のダウンジャケットを着こんではいたが、金沢の冬は寒い。

 ベンチに座り身を縮めていたリクトは、ふと外灯の先に人が立つのが見えた。

 その人影がゆっくりとこちらに向かってくる。

 外灯により、その人の姿がアラワになった時、リクトは思った。

 「赤い・・?」

 ・・つづく・・
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