10 / 15
第1章 真木 陸斗
第10話 残穢
しおりを挟む
「なんだ・・これは・・」
鈍く黒光る鉄の筒は、その後方ある握り手に対して短い。
全長が約50cm程のショートバレルの散弾銃。
所謂ソードオフ・ショットガンではあるが、シングルバレルだ。
バレルの直径が太ければ、グレネードランチャーに見た目を近い。
(さぁ、君のアルマだ、使うがいい)
「ドォーン!!」
頭に響く声が言い終わるやいなや、突き出した腕の下、中空に浮いたままの銃が火を噴く。
その勢いは銃の発射ではなく、大砲が放たれた程の火炎と共に反動も凄まじく、腕が真上にまで持って行かれ、体が仰け反る。
前方に居た将臣が吹き飛ばされ、出入口の壁に胴体部分が吹き飛ばされた上半身だけが「バン!」と張り付き、ズルリと地面に落ちた。
腰から下の下半身は、居た場所に留まったまま、立ち尽くしている。
リクトは、困惑する。
いや分かってはいるが、自分の意志ではない力が分からない。
突然頭の中で誰とも知らない声が響き、訳の分からない力を自分の意志とは関係なく行使されたのだ。
リクトは自分の左手を見る。
肩口から先の袖が剥ぎ取られ、腕と手は火傷を負ったように赤黒く焦げている。
「何がどうなってるんだ・・」
「それが君のアルマだよ」
リクトの疑問に答えるように、唐突にリクトの後ろから声がかかる。
「正確には、僕ら同胞が持っていたアルマだけどね」
リクトは振り返る。
「ゼファ・・」
ゼファはコートの両ポケットに手を突っ込み、顔は初めて出会った時と比べ、どこか暗い表情をしているように見える。
「はぁ・・予想外?いや、残念・・そうじゃない、仕方のない事か」
相変わらず、言葉選びを口にする。
「仕方のない事だけど、今にしてリクトは本当の意味で、僕らの仲間になったんだよ」
リクトの顔を見据える。
「仕方のないは語弊があるか・・いやそんなことない合ってる、アイツ嫌いだったもん」
「ゼファ・・」
「まぁこれでハッキリしたし、いっか。いや良くない・・僕はリクトと友達になりたいんだもの」
「ゼファ・・聞いてくれ・・」
「でも仕方ないもんなぁ・・あ、でも今はリクトなんだから、リクトと仲良くなればいい?」
「ゼファ!!」
リクトは縋り付くようにゼファの両肩を掴む。
「ゼファ!益美を、益美の魂を救ってくれ!お前も出来るんだろ?リョウが俺にしたみたいに、頼む!」
涙を流し、ゼファに懇願する。
「リョウ?・・ああ無識者のことか」
ゼファは無表情で肩に置かれたリクトの手を取った。
「僕には出来ないよ・・それに例えここにリョウ?が居ても、出来ない」
ゼファは少し考えを巡らせてから言葉を続ける。
「方法はある・・でももう無駄だよ。生命がほら、散ってしまっている」
益美の方を見るゼファ。
つられてリクトも益美を見た時、横たわる益美の体から、仄かに煌めく微細な粒が、天に向かって登っていくのが見えた。
「ああああ!」
リクトは益美に走り寄る。
「待ってくれ・・益美!行かないでくれ!」
煌めく光を手で集めるように、空を手で攫う。
だが光はリクトの手をすり抜け、何も得られない。
ゼファはリクトの姿を見て居た堪れなく首を振るが、異変を察知し下半身だけになった将臣を見る。
「リクト!」
ゼファは悲しみに暮れるリクトの首根っこを掴み、無理やりに立たせた。
「ほら、得たものはちゃんと自分の物にしないと」
そう言い、リクトの胸を押し突き放す。
リクトは突き放された勢いのまま、力なく将臣の亡骸を背に尻餅をついた。
将臣の下半身部分が白く輝き出す。
出口付近に転がる、上半身部分も同様に白く輝く。
突如時が停止したように降りしきる雨が空中で留まり、辺り一面に静止した雨粒が広がる。
そして地面から滲みだす様に、白く光った記号が浮き上がってくる。
その記号は白く発光し、空に向かって幾万もの蛍の光が飛び立っていくようにも見える。
白く輝いていた将臣の亡骸も、上部から解けていくように白い光の記号になり、発散していく。
辺りが白い光の記号に満たされるが、記号と雨粒とは干渉せず、静止したままの雨粒を白い光は透過していく。
不思議な光景であり、酷く美しい。
上空に向かって浮遊する光る記号が、停止する。
今まで自然に浮き上がっていた記号が、突然意志を持ったかのように大きく回転し出し、一つの渦を形成し出す。
その渦の中心に、蹲ったまま微動だにしないリクトがいた。
次第にその渦はリクトに向かって収縮し出し白い光のベールになり、リクトを包み込むと中空にリクトと共に浮かんで行く。
それは空に浮かんだ白い繭のように見え、その繭は白く輝きを増して行く。
眩い光が臨界に達したかのように辺り一面を真っ白に照らした後、弾けるように光が飛び散りリクトの姿は現れ、リクトはそのまま地面に落下した。
その瞬間「ザン」と停止していた雨粒が時を取り戻し、一気に地面を叩く。
そしてまた、雨音だけの静寂が訪れるのだった。
§
リクトは病院の一室で目覚める。
まだ覚醒し切れていない眼で隣に目をやると、点滴のメモリを確認する看護師がいた。
リクトが目覚めたのに気づき、看護師はリクトに顔を寄せる。
「目が覚めました?大丈夫ですよ、ここは病院です。今から担当医を呼んで来ますから、じっとしててくださいね」
「パチッ」とウィンクを寄越し、看護師は静々と病室を出ていく。
少しの間を経て、現れたのは担当医ではなく、担当捜査官だった。
それからは事件の真相を探るべく、捜査官はリクトに質問を投げかける。
だがリクトは自分の名前すらも答えず、一切喋らなかった。
3日ほどそんな日が続いたが、一人の女性が現れた事によってリクトは解放され、病院を退院する事になった。
その女性は「水沢 絢」と名乗り、リクトの身元引受人として現れたのだった。
「東海洋研究所、主席研究員?」
「はい、水沢 絢と申します」
リクトは病室のベッドに座り、一枚の名刺を睨む。
銀縁眼鏡を掛け、長く伸ばした黒髪を後ろで一括にし、黒のパンツスーツを着こなした、知的な女性が名を名乗った。
「失礼します」と断りを入れ、パイプ椅子に座りリクトと向かい合う。
「此度は黒木 涼、様より、リクト様のお力添えの命を受けた次第で」
背筋がピンと伸び、両手を膝の上に乗せ物言う姿は、畏まっているのか、古めかしい性格なのか・・。
「リョウの手筈・・というわけか」
リクトが病院で目覚めたのは、益美を失った日の翌朝だった。
突入を指揮していた警官隊が、将臣の襲撃に合い、退避した後に屋上で見た光景は、多くの警官の死体と益美の亡骸、そしてその近くで倒れていたリクトの姿だった。
リクトは救急隊によりその場の医療センターではなく、別の総合病院へ搬送されたが、その際にこれといった外傷は無かったという。
警察にとってこの事件は多くの身内の死傷者がいるのと、被疑者と目されていた「大野将臣」の関係者「大野益美」とその姑の2名の死者が出た、大量殺人事件だ。
しかも、この前に「大野将臣」は3人の人間を殺傷し、尚且、警察病院より脱走まで行った後の犯行である。
だが、不可解なことが多すぎた。
まず結論から言えば、警官隊の目撃証言によって被疑者が大野将臣であったこと。
突入した警官の話では、警官隊の発砲により数多く被弾した大野将臣は虫の息だったという。
それでも抵抗を見せる大野将臣を、鎮圧しきれなかった警官隊の内数名が命を落としている。
そのような状態の被疑者が、忽然と消え去るなど考えにくい。
また別の警官がいう。
屋上に達する前に死亡した5名は、大野益美の攻撃により命を落としたのだと。
大野将臣ならば分かる。
自宅にて引き起こした殺人の際の凶器は、日本刀だった。
その5名警官の死因も、刃物による致命傷なのだ。
また病院内で最初に発覚した殺人、将臣の母と警護に当たっていた警官2名の死因も、日本刀による犯行と断定されている。
それぞれの証言が不自然で、どれも物証がなく信憑性が低いのだ。
現在県警は、捜査の打ち切りを検討している。
それには1つの思惑が働いていた。
状況だけを整理すれば、犯人は大野将臣、そして人質に取られていたのが大野益美という構図になる。
それを発砲による要救助者、大野益美の死亡。
しかもその要因、大野将臣の脱走を引き起こしてからのだ。
そんなことを公にできない上から、圧力が掛けられたのだ。
「被疑者死亡にし、嫌疑を大野家内の事件までに留め、送検しろ」
これが上層部からの見解だった。
仲間を殺され、そんなシナリオに納得のいかない捜査員にとって唯一の手がかりが、その場に突然現れたリクトだった。
だがそのリクトも沈黙を続け、嫌疑を掛けることの出来ないまま身元受取人が現れ、手がかりを失ってしまう。
「リクト様、これからどう致します?もしよろしければ、リョウ様がお迎えすると申しておりますが」
「ん?リョウが?・・いや、やめとくよ」
リクトは立ち上がり、病室を出る。
「しかし私はリクト様から離れるわけにはいきません。どこかご希望の所へご一緒いたします」
水沢はロビーの先のロータリーに横付けされた車を手で指し示す。
一瞬考えるが、リクトは水沢に頭を下げる。
「ありがとう、でもいいんだ。ちょっと一人で居たい気分なんだ」
「畏まりました、ではせめてこの携帯電話をお持ちください。言っておきますが、電源を切ったりしないでくださいね」
水沢は念を押すようにリクトへ指先を立てた後、その場を辞去した。
「あ、リョウにありがとうって言っといてくれ!」
リクトは水沢の背中に、リョウへの礼の述べる。
水沢は振り返り、礼を返した後、ロビーを後にしていった。
リクトは、病院のロビーを抜け外に出ると、両側から背広を着た男に挟まれる。
「マキリクト、話を聞かさせてもらうぞ」
2人の男はリクトにとって見知った男達、県警の捜査官だった。
「少しの時間でいいんだ、頼む」
上司であろう中年の捜査官がリクトに頭を会釈程度に下げるが、鋭く睨む目は離さない。
「アンタら、人に対するモノの頼み方を教わってないのか?」
リクトは睨み返す。
「ほう、初めてマトモに話してくれたな。じゃあその調子で話してもらおうか」
もう一人の部下であろう若手の捜査官が、威嚇するような口調でリクトの前に立ちはだかる。
「お前らどういうつもりだ?」
リクトの言葉に怒気が乗る。
「お前らだぁ?あまり俺らを怒らせるなよ?唯でさえ俺達は仲間を失ってるんだ、口を割らせるのに手加減なんぞ出来んぞ」
若手捜査官がリクトの肩を掴む。
「俺に触るな」
肩を掴んだ手を払いのけた。
「お前らのプライドなんぞ知るか!まともに被疑者を捕まえることも出来ず、人質であった益美を・・お前らは殺した・・」
リクトの中の怒りが膨張しだす。
「仲間を失ったのは完全にお前らの落ち度だ!あまつさえ誤射だと!どんな訓練をしたらそうなる!」
リクトは若手捜査官の胸倉を掴み、尚も捲し立てる。
「怒らせるなだと?お前ら勘違いするなよ?俺はお前らのことを腹に据えかねている。相手を見て噛みつくんやな、俺は容赦せんぞ!」
掴んだ捜査官を突き飛ばす。
予想もしない強い力で突き飛ばされた若手捜査官は、出入り口のガラス戸を突き破り、もんどり打ってロビー内に倒れ込んだ。
「な、何なんだおまえは・・・ガ、ガラ押さえるぞ!」
中年捜査官はリクトの力に驚愕しながらも、これ得たりと腰に差していた三段警棒を抜く。
「ほう、やれや、構わんぞ。どうせなら、もっと引っ張り易くしてやるわ」
リクトは中年捜査官が身構えるよりも早く、中年捜査官の両こめかみを片手で鷲掴みにする。
「お前、剣士の握力なんぼか知ってるか?」
リクトは掴んだまま持ち上げていく。
「ひぎぃ!痛い痛い!」
完全に持ち上げ、宙吊りにする。
「リ、リクト様、ハァハァ・・そこまでです!」
遠くから駆けてきたのであろう水沢が、息を切らしながら割って入る。
だがリクトは、水沢を横目で見ながら吊上げた中年捜査官を離そうとしない。
「リクト様、いい加減にしなさい!いじめはダメですよ!」
水沢はリクトの鼻先に指を突き立て、子を叱る母親のように声を上げた。
「チッ、オカンかよ・・」
リクトは頭を捕まれもがく中年捜査官を眺め見た後、興味を失ったかのように若手捜査官が突っ伏すところに投げ捨てた。
水沢は倒れる中年捜査官の元へ歩み寄る。
「この件はどう報告しようが構いませんが、私共も然るべき対応を取りますので、覚悟しておいてください・・ね?」
中年捜査官にだけ聞こえる音量で囁き、ひと睨みした後踵を返しリクトを伴って病院外へと向かった。
「リクト様って、怒ると関西弁なんですね・・」
ポツリと呟く水沢は、リクトに対する印象が変わったのだろう、少し距離を取ように後ろを歩く。
「へ?俺って関西人なんだけど?」
リクトは不服そうに口をへの字に曲げ、水沢の後を追った。
後日、2人の捜査官は上司に呼び出されることになる。
そうさせたのは、一部始終を見ていた水沢の働き、いやリョウが動いての事だが、リクトの知るところではない。
§
リクトは水沢と別れ、一人金沢の街を彷徨う。
益美がこの金沢で歩んだ人生を、リクトは知らない。
瑞希から聞かされていた益美が好きだったという場所を巡り、確かめていく。
行く先々で益美の姿を追い求め、そこに現れる益美は笑顔で振り向きリクトを手招きするが、それは求める幻想にすぎない。
だがそれでも、リクトは益美とのありもしない追想を胸に抱く。
その行為は謂わば、自尊心の崩壊を繋ぎ留める作業であるとの自覚が、尚もリクトの心を荒ませた。
「俺は何の為に生まれ変わり、何の為にここへ来たんだ・・」
石浦神社の連なる鳥居の前に立ち、鳥居を浴衣姿でくぐって行く益美の姿を夢想し、リクトは声にならない叫びを漏らして泣いた。
縁結びの神様で有名な石浦神社に集うカップルが、一人泣き崩れるリクトへ失恋でもしたのかと冷やかしの目を向ける中、どこからか現れた水沢がそっとリクトの背に手を掛ける。
「リクト様、身体が冷えてしまいますわ。さぁ行きましょう」
打って変わって美貌のある水沢が、泣き崩れる男へ甲斐甲斐しく接する姿に好奇の目が向けられるのだった。
気付けば、瑞希たちがいる大野家に辿り着く。
リクトは大きな門構えの前で立ち尽くしてしまう。
瑞希との約束を守ることは・・出来なかった。
「どの面さげて逢うことが出来る・・」
一人呟き、踵を返す。
水沢は俯き、道を戻ろうとするリクトの後を追う。
「リクト!!」
門から飛び出してきた瑞希の大きな声が、リクトの背中に投げ掛けられる。
咄嗟に振り向いたリクトの胸に、瑞希が飛び込む。
「リクト、リクト・・うわぁぁん!」
瑞希はリクトにしがみ付き、大声で泣いた。
正直リクトはビックリしてしまうが、抱きつく瑞希を優しく抱き締める。
「瑞希・・ゴメン・・ゴメンな・・」
謝りながら、リクトも涙に暮れるのだった。
リクトはキャロラインやアリア、そして瑞希と少しずつ多くの話をした。
幾日も共に過ごしながら。
この家族は、多くの悲しみを乗り越えようとしている。
それは強さではないのだろう。
決して何かで打ち消せるような悲しみではない。
だがその悲しみに浸っていても、人の生を止めることは出来ないのだ。
だから、いっそのこと前を向く。
今を生きる者の使命と割り切って。
それを率先して体現しているのが、瑞希だった。
大いに食べ、眠り、時に笑い、そして悲しみがぶり返せば、泣きじゃくる。
剣道の修練もやり始める。
どちらかと言うと、気が進まないリクトを追い立てるようにせがむ瑞希に、根負けした恰好だ。
「リクトのその下段、瑞希にも教えて!」
瑞希はリクトが構える、下段の構えを真似し出す。
「あのなぁ瑞希、まず基本が出来てないとダメだ」
瑞希に正眼の構えを見せる。
「なんだかんだ言っても、この正眼が全てに通じて強いんだ、分かるか?」
「分かんない!」
即答を返す瑞希。
「んーとなぁ瑞希、活人剣って言葉、知ってるか?」
「バカにしないでよ、それぐらい知ってるわよ!」
リクトは「ふむ」と困った顔をし、「ちょっとそこに座りなさい」と瑞希に正座をするよう即す。
「なによもう」と不貞腐れつつも面を外し、素直に正座する瑞希。
「俺は昔、ある人の元、剣の修業をしていた」
「その修業は、先に言った活人剣とは真逆・・殺人の剣だ」
瑞希は息を呑む。
「相手を倒すためなら何だってする・・アイツの教える剣はそんなだった」
リクトは追想する、あの悪鬼のような剣の師の事を。
最低、最悪な剣士。
そしてその悪劣な剣士を打ち倒すために練り上げた下段、地の構え。
だがそこでふと思う。
(今の俺に必要なのは・・そこにあるのかも知れない)
「そ、それでどんな剣なの?」
恐る恐るといった感じで、瑞希は話を即す。
「そうだなぁ、例えば・・」
リクトは瑞希の耳元に顔を寄せ、囁く。
「な!なななな、なんで知ってるのよ!!」
瑞希は顔を真っ赤にし、リクトから距離を置くように腰を浮かす。
「はい、メン!」
動揺する瑞希のおでこに、チョップを食らわせる。
「ま、こんな感じで簡単に相手を倒す剣ですよ?」
まぁ嘘ではあるが、瑞希に本当の殺人剣など語る必要はないのだ。
「ぐぬぬぬ・・・み、瑞希だって・・ランジェリーぐらい買うもん・・」
顔を更に真っ赤にし、上目遣いでチラチラとリクトを見る。
「そうだねぇ、最近の瑞希は女性として魅力的になってきてると、俺は思うよ?」
トドメを刺そうと、追い打ちをかける。
「そ、そう?じゃあ、絢さんと瑞希、どっちが魅力的?」
瑞希は照れながらも上目遣いのままリクトを見る。
「はぁ!?絢って、水沢さんの事か?そりゃまぁ・・なぁ?」
今度はリクトが動揺し、瑞希から目を逸らす。
「おりゃー!」
「バシッ」とリクトの額へ、瑞希が振る竹刀がめり込んだ。
「ぐお!何しやがる!」
リクトは竹刀の跡が残るほどのメンを喰らい、瑞希へ飛びかかろうとするが、瑞希は咄嗟に後ろに飛び退き、リクトに向かって舌を出す。
「べーだ!年増ばっかり好きになるリクトなんか、もう知らない!バーカ!!」
瑞希はリクトを罵倒し、剣道場を走り去っていった。
「年増って・・おまえの母さんに言う言葉かいな。ってか俺にとっては年上も何も無いけどなぁ」
リクトは腑に落ちず、一人ぼやくのだった。
「リクトってさ、バカなの?いや、すっとこどっこい?あれだ、女心と秋の空?」
剣道場に面した庭の奥から、小路を歩いてくる優男。
「お前、それってぜってーわざと言ってるだろ?」
リクトはその男に諦め顔で問いかける。
「お前っていうな、ゼファさんだろ!」
・・つづく・・
次話で第一章の終わりです。
第二章は年明けから公開するつもりです。
よろしければまた第二章もお読み頂ければ幸いです!!
鈍く黒光る鉄の筒は、その後方ある握り手に対して短い。
全長が約50cm程のショートバレルの散弾銃。
所謂ソードオフ・ショットガンではあるが、シングルバレルだ。
バレルの直径が太ければ、グレネードランチャーに見た目を近い。
(さぁ、君のアルマだ、使うがいい)
「ドォーン!!」
頭に響く声が言い終わるやいなや、突き出した腕の下、中空に浮いたままの銃が火を噴く。
その勢いは銃の発射ではなく、大砲が放たれた程の火炎と共に反動も凄まじく、腕が真上にまで持って行かれ、体が仰け反る。
前方に居た将臣が吹き飛ばされ、出入口の壁に胴体部分が吹き飛ばされた上半身だけが「バン!」と張り付き、ズルリと地面に落ちた。
腰から下の下半身は、居た場所に留まったまま、立ち尽くしている。
リクトは、困惑する。
いや分かってはいるが、自分の意志ではない力が分からない。
突然頭の中で誰とも知らない声が響き、訳の分からない力を自分の意志とは関係なく行使されたのだ。
リクトは自分の左手を見る。
肩口から先の袖が剥ぎ取られ、腕と手は火傷を負ったように赤黒く焦げている。
「何がどうなってるんだ・・」
「それが君のアルマだよ」
リクトの疑問に答えるように、唐突にリクトの後ろから声がかかる。
「正確には、僕ら同胞が持っていたアルマだけどね」
リクトは振り返る。
「ゼファ・・」
ゼファはコートの両ポケットに手を突っ込み、顔は初めて出会った時と比べ、どこか暗い表情をしているように見える。
「はぁ・・予想外?いや、残念・・そうじゃない、仕方のない事か」
相変わらず、言葉選びを口にする。
「仕方のない事だけど、今にしてリクトは本当の意味で、僕らの仲間になったんだよ」
リクトの顔を見据える。
「仕方のないは語弊があるか・・いやそんなことない合ってる、アイツ嫌いだったもん」
「ゼファ・・」
「まぁこれでハッキリしたし、いっか。いや良くない・・僕はリクトと友達になりたいんだもの」
「ゼファ・・聞いてくれ・・」
「でも仕方ないもんなぁ・・あ、でも今はリクトなんだから、リクトと仲良くなればいい?」
「ゼファ!!」
リクトは縋り付くようにゼファの両肩を掴む。
「ゼファ!益美を、益美の魂を救ってくれ!お前も出来るんだろ?リョウが俺にしたみたいに、頼む!」
涙を流し、ゼファに懇願する。
「リョウ?・・ああ無識者のことか」
ゼファは無表情で肩に置かれたリクトの手を取った。
「僕には出来ないよ・・それに例えここにリョウ?が居ても、出来ない」
ゼファは少し考えを巡らせてから言葉を続ける。
「方法はある・・でももう無駄だよ。生命がほら、散ってしまっている」
益美の方を見るゼファ。
つられてリクトも益美を見た時、横たわる益美の体から、仄かに煌めく微細な粒が、天に向かって登っていくのが見えた。
「ああああ!」
リクトは益美に走り寄る。
「待ってくれ・・益美!行かないでくれ!」
煌めく光を手で集めるように、空を手で攫う。
だが光はリクトの手をすり抜け、何も得られない。
ゼファはリクトの姿を見て居た堪れなく首を振るが、異変を察知し下半身だけになった将臣を見る。
「リクト!」
ゼファは悲しみに暮れるリクトの首根っこを掴み、無理やりに立たせた。
「ほら、得たものはちゃんと自分の物にしないと」
そう言い、リクトの胸を押し突き放す。
リクトは突き放された勢いのまま、力なく将臣の亡骸を背に尻餅をついた。
将臣の下半身部分が白く輝き出す。
出口付近に転がる、上半身部分も同様に白く輝く。
突如時が停止したように降りしきる雨が空中で留まり、辺り一面に静止した雨粒が広がる。
そして地面から滲みだす様に、白く光った記号が浮き上がってくる。
その記号は白く発光し、空に向かって幾万もの蛍の光が飛び立っていくようにも見える。
白く輝いていた将臣の亡骸も、上部から解けていくように白い光の記号になり、発散していく。
辺りが白い光の記号に満たされるが、記号と雨粒とは干渉せず、静止したままの雨粒を白い光は透過していく。
不思議な光景であり、酷く美しい。
上空に向かって浮遊する光る記号が、停止する。
今まで自然に浮き上がっていた記号が、突然意志を持ったかのように大きく回転し出し、一つの渦を形成し出す。
その渦の中心に、蹲ったまま微動だにしないリクトがいた。
次第にその渦はリクトに向かって収縮し出し白い光のベールになり、リクトを包み込むと中空にリクトと共に浮かんで行く。
それは空に浮かんだ白い繭のように見え、その繭は白く輝きを増して行く。
眩い光が臨界に達したかのように辺り一面を真っ白に照らした後、弾けるように光が飛び散りリクトの姿は現れ、リクトはそのまま地面に落下した。
その瞬間「ザン」と停止していた雨粒が時を取り戻し、一気に地面を叩く。
そしてまた、雨音だけの静寂が訪れるのだった。
§
リクトは病院の一室で目覚める。
まだ覚醒し切れていない眼で隣に目をやると、点滴のメモリを確認する看護師がいた。
リクトが目覚めたのに気づき、看護師はリクトに顔を寄せる。
「目が覚めました?大丈夫ですよ、ここは病院です。今から担当医を呼んで来ますから、じっとしててくださいね」
「パチッ」とウィンクを寄越し、看護師は静々と病室を出ていく。
少しの間を経て、現れたのは担当医ではなく、担当捜査官だった。
それからは事件の真相を探るべく、捜査官はリクトに質問を投げかける。
だがリクトは自分の名前すらも答えず、一切喋らなかった。
3日ほどそんな日が続いたが、一人の女性が現れた事によってリクトは解放され、病院を退院する事になった。
その女性は「水沢 絢」と名乗り、リクトの身元引受人として現れたのだった。
「東海洋研究所、主席研究員?」
「はい、水沢 絢と申します」
リクトは病室のベッドに座り、一枚の名刺を睨む。
銀縁眼鏡を掛け、長く伸ばした黒髪を後ろで一括にし、黒のパンツスーツを着こなした、知的な女性が名を名乗った。
「失礼します」と断りを入れ、パイプ椅子に座りリクトと向かい合う。
「此度は黒木 涼、様より、リクト様のお力添えの命を受けた次第で」
背筋がピンと伸び、両手を膝の上に乗せ物言う姿は、畏まっているのか、古めかしい性格なのか・・。
「リョウの手筈・・というわけか」
リクトが病院で目覚めたのは、益美を失った日の翌朝だった。
突入を指揮していた警官隊が、将臣の襲撃に合い、退避した後に屋上で見た光景は、多くの警官の死体と益美の亡骸、そしてその近くで倒れていたリクトの姿だった。
リクトは救急隊によりその場の医療センターではなく、別の総合病院へ搬送されたが、その際にこれといった外傷は無かったという。
警察にとってこの事件は多くの身内の死傷者がいるのと、被疑者と目されていた「大野将臣」の関係者「大野益美」とその姑の2名の死者が出た、大量殺人事件だ。
しかも、この前に「大野将臣」は3人の人間を殺傷し、尚且、警察病院より脱走まで行った後の犯行である。
だが、不可解なことが多すぎた。
まず結論から言えば、警官隊の目撃証言によって被疑者が大野将臣であったこと。
突入した警官の話では、警官隊の発砲により数多く被弾した大野将臣は虫の息だったという。
それでも抵抗を見せる大野将臣を、鎮圧しきれなかった警官隊の内数名が命を落としている。
そのような状態の被疑者が、忽然と消え去るなど考えにくい。
また別の警官がいう。
屋上に達する前に死亡した5名は、大野益美の攻撃により命を落としたのだと。
大野将臣ならば分かる。
自宅にて引き起こした殺人の際の凶器は、日本刀だった。
その5名警官の死因も、刃物による致命傷なのだ。
また病院内で最初に発覚した殺人、将臣の母と警護に当たっていた警官2名の死因も、日本刀による犯行と断定されている。
それぞれの証言が不自然で、どれも物証がなく信憑性が低いのだ。
現在県警は、捜査の打ち切りを検討している。
それには1つの思惑が働いていた。
状況だけを整理すれば、犯人は大野将臣、そして人質に取られていたのが大野益美という構図になる。
それを発砲による要救助者、大野益美の死亡。
しかもその要因、大野将臣の脱走を引き起こしてからのだ。
そんなことを公にできない上から、圧力が掛けられたのだ。
「被疑者死亡にし、嫌疑を大野家内の事件までに留め、送検しろ」
これが上層部からの見解だった。
仲間を殺され、そんなシナリオに納得のいかない捜査員にとって唯一の手がかりが、その場に突然現れたリクトだった。
だがそのリクトも沈黙を続け、嫌疑を掛けることの出来ないまま身元受取人が現れ、手がかりを失ってしまう。
「リクト様、これからどう致します?もしよろしければ、リョウ様がお迎えすると申しておりますが」
「ん?リョウが?・・いや、やめとくよ」
リクトは立ち上がり、病室を出る。
「しかし私はリクト様から離れるわけにはいきません。どこかご希望の所へご一緒いたします」
水沢はロビーの先のロータリーに横付けされた車を手で指し示す。
一瞬考えるが、リクトは水沢に頭を下げる。
「ありがとう、でもいいんだ。ちょっと一人で居たい気分なんだ」
「畏まりました、ではせめてこの携帯電話をお持ちください。言っておきますが、電源を切ったりしないでくださいね」
水沢は念を押すようにリクトへ指先を立てた後、その場を辞去した。
「あ、リョウにありがとうって言っといてくれ!」
リクトは水沢の背中に、リョウへの礼の述べる。
水沢は振り返り、礼を返した後、ロビーを後にしていった。
リクトは、病院のロビーを抜け外に出ると、両側から背広を着た男に挟まれる。
「マキリクト、話を聞かさせてもらうぞ」
2人の男はリクトにとって見知った男達、県警の捜査官だった。
「少しの時間でいいんだ、頼む」
上司であろう中年の捜査官がリクトに頭を会釈程度に下げるが、鋭く睨む目は離さない。
「アンタら、人に対するモノの頼み方を教わってないのか?」
リクトは睨み返す。
「ほう、初めてマトモに話してくれたな。じゃあその調子で話してもらおうか」
もう一人の部下であろう若手の捜査官が、威嚇するような口調でリクトの前に立ちはだかる。
「お前らどういうつもりだ?」
リクトの言葉に怒気が乗る。
「お前らだぁ?あまり俺らを怒らせるなよ?唯でさえ俺達は仲間を失ってるんだ、口を割らせるのに手加減なんぞ出来んぞ」
若手捜査官がリクトの肩を掴む。
「俺に触るな」
肩を掴んだ手を払いのけた。
「お前らのプライドなんぞ知るか!まともに被疑者を捕まえることも出来ず、人質であった益美を・・お前らは殺した・・」
リクトの中の怒りが膨張しだす。
「仲間を失ったのは完全にお前らの落ち度だ!あまつさえ誤射だと!どんな訓練をしたらそうなる!」
リクトは若手捜査官の胸倉を掴み、尚も捲し立てる。
「怒らせるなだと?お前ら勘違いするなよ?俺はお前らのことを腹に据えかねている。相手を見て噛みつくんやな、俺は容赦せんぞ!」
掴んだ捜査官を突き飛ばす。
予想もしない強い力で突き飛ばされた若手捜査官は、出入り口のガラス戸を突き破り、もんどり打ってロビー内に倒れ込んだ。
「な、何なんだおまえは・・・ガ、ガラ押さえるぞ!」
中年捜査官はリクトの力に驚愕しながらも、これ得たりと腰に差していた三段警棒を抜く。
「ほう、やれや、構わんぞ。どうせなら、もっと引っ張り易くしてやるわ」
リクトは中年捜査官が身構えるよりも早く、中年捜査官の両こめかみを片手で鷲掴みにする。
「お前、剣士の握力なんぼか知ってるか?」
リクトは掴んだまま持ち上げていく。
「ひぎぃ!痛い痛い!」
完全に持ち上げ、宙吊りにする。
「リ、リクト様、ハァハァ・・そこまでです!」
遠くから駆けてきたのであろう水沢が、息を切らしながら割って入る。
だがリクトは、水沢を横目で見ながら吊上げた中年捜査官を離そうとしない。
「リクト様、いい加減にしなさい!いじめはダメですよ!」
水沢はリクトの鼻先に指を突き立て、子を叱る母親のように声を上げた。
「チッ、オカンかよ・・」
リクトは頭を捕まれもがく中年捜査官を眺め見た後、興味を失ったかのように若手捜査官が突っ伏すところに投げ捨てた。
水沢は倒れる中年捜査官の元へ歩み寄る。
「この件はどう報告しようが構いませんが、私共も然るべき対応を取りますので、覚悟しておいてください・・ね?」
中年捜査官にだけ聞こえる音量で囁き、ひと睨みした後踵を返しリクトを伴って病院外へと向かった。
「リクト様って、怒ると関西弁なんですね・・」
ポツリと呟く水沢は、リクトに対する印象が変わったのだろう、少し距離を取ように後ろを歩く。
「へ?俺って関西人なんだけど?」
リクトは不服そうに口をへの字に曲げ、水沢の後を追った。
後日、2人の捜査官は上司に呼び出されることになる。
そうさせたのは、一部始終を見ていた水沢の働き、いやリョウが動いての事だが、リクトの知るところではない。
§
リクトは水沢と別れ、一人金沢の街を彷徨う。
益美がこの金沢で歩んだ人生を、リクトは知らない。
瑞希から聞かされていた益美が好きだったという場所を巡り、確かめていく。
行く先々で益美の姿を追い求め、そこに現れる益美は笑顔で振り向きリクトを手招きするが、それは求める幻想にすぎない。
だがそれでも、リクトは益美とのありもしない追想を胸に抱く。
その行為は謂わば、自尊心の崩壊を繋ぎ留める作業であるとの自覚が、尚もリクトの心を荒ませた。
「俺は何の為に生まれ変わり、何の為にここへ来たんだ・・」
石浦神社の連なる鳥居の前に立ち、鳥居を浴衣姿でくぐって行く益美の姿を夢想し、リクトは声にならない叫びを漏らして泣いた。
縁結びの神様で有名な石浦神社に集うカップルが、一人泣き崩れるリクトへ失恋でもしたのかと冷やかしの目を向ける中、どこからか現れた水沢がそっとリクトの背に手を掛ける。
「リクト様、身体が冷えてしまいますわ。さぁ行きましょう」
打って変わって美貌のある水沢が、泣き崩れる男へ甲斐甲斐しく接する姿に好奇の目が向けられるのだった。
気付けば、瑞希たちがいる大野家に辿り着く。
リクトは大きな門構えの前で立ち尽くしてしまう。
瑞希との約束を守ることは・・出来なかった。
「どの面さげて逢うことが出来る・・」
一人呟き、踵を返す。
水沢は俯き、道を戻ろうとするリクトの後を追う。
「リクト!!」
門から飛び出してきた瑞希の大きな声が、リクトの背中に投げ掛けられる。
咄嗟に振り向いたリクトの胸に、瑞希が飛び込む。
「リクト、リクト・・うわぁぁん!」
瑞希はリクトにしがみ付き、大声で泣いた。
正直リクトはビックリしてしまうが、抱きつく瑞希を優しく抱き締める。
「瑞希・・ゴメン・・ゴメンな・・」
謝りながら、リクトも涙に暮れるのだった。
リクトはキャロラインやアリア、そして瑞希と少しずつ多くの話をした。
幾日も共に過ごしながら。
この家族は、多くの悲しみを乗り越えようとしている。
それは強さではないのだろう。
決して何かで打ち消せるような悲しみではない。
だがその悲しみに浸っていても、人の生を止めることは出来ないのだ。
だから、いっそのこと前を向く。
今を生きる者の使命と割り切って。
それを率先して体現しているのが、瑞希だった。
大いに食べ、眠り、時に笑い、そして悲しみがぶり返せば、泣きじゃくる。
剣道の修練もやり始める。
どちらかと言うと、気が進まないリクトを追い立てるようにせがむ瑞希に、根負けした恰好だ。
「リクトのその下段、瑞希にも教えて!」
瑞希はリクトが構える、下段の構えを真似し出す。
「あのなぁ瑞希、まず基本が出来てないとダメだ」
瑞希に正眼の構えを見せる。
「なんだかんだ言っても、この正眼が全てに通じて強いんだ、分かるか?」
「分かんない!」
即答を返す瑞希。
「んーとなぁ瑞希、活人剣って言葉、知ってるか?」
「バカにしないでよ、それぐらい知ってるわよ!」
リクトは「ふむ」と困った顔をし、「ちょっとそこに座りなさい」と瑞希に正座をするよう即す。
「なによもう」と不貞腐れつつも面を外し、素直に正座する瑞希。
「俺は昔、ある人の元、剣の修業をしていた」
「その修業は、先に言った活人剣とは真逆・・殺人の剣だ」
瑞希は息を呑む。
「相手を倒すためなら何だってする・・アイツの教える剣はそんなだった」
リクトは追想する、あの悪鬼のような剣の師の事を。
最低、最悪な剣士。
そしてその悪劣な剣士を打ち倒すために練り上げた下段、地の構え。
だがそこでふと思う。
(今の俺に必要なのは・・そこにあるのかも知れない)
「そ、それでどんな剣なの?」
恐る恐るといった感じで、瑞希は話を即す。
「そうだなぁ、例えば・・」
リクトは瑞希の耳元に顔を寄せ、囁く。
「な!なななな、なんで知ってるのよ!!」
瑞希は顔を真っ赤にし、リクトから距離を置くように腰を浮かす。
「はい、メン!」
動揺する瑞希のおでこに、チョップを食らわせる。
「ま、こんな感じで簡単に相手を倒す剣ですよ?」
まぁ嘘ではあるが、瑞希に本当の殺人剣など語る必要はないのだ。
「ぐぬぬぬ・・・み、瑞希だって・・ランジェリーぐらい買うもん・・」
顔を更に真っ赤にし、上目遣いでチラチラとリクトを見る。
「そうだねぇ、最近の瑞希は女性として魅力的になってきてると、俺は思うよ?」
トドメを刺そうと、追い打ちをかける。
「そ、そう?じゃあ、絢さんと瑞希、どっちが魅力的?」
瑞希は照れながらも上目遣いのままリクトを見る。
「はぁ!?絢って、水沢さんの事か?そりゃまぁ・・なぁ?」
今度はリクトが動揺し、瑞希から目を逸らす。
「おりゃー!」
「バシッ」とリクトの額へ、瑞希が振る竹刀がめり込んだ。
「ぐお!何しやがる!」
リクトは竹刀の跡が残るほどのメンを喰らい、瑞希へ飛びかかろうとするが、瑞希は咄嗟に後ろに飛び退き、リクトに向かって舌を出す。
「べーだ!年増ばっかり好きになるリクトなんか、もう知らない!バーカ!!」
瑞希はリクトを罵倒し、剣道場を走り去っていった。
「年増って・・おまえの母さんに言う言葉かいな。ってか俺にとっては年上も何も無いけどなぁ」
リクトは腑に落ちず、一人ぼやくのだった。
「リクトってさ、バカなの?いや、すっとこどっこい?あれだ、女心と秋の空?」
剣道場に面した庭の奥から、小路を歩いてくる優男。
「お前、それってぜってーわざと言ってるだろ?」
リクトはその男に諦め顔で問いかける。
「お前っていうな、ゼファさんだろ!」
・・つづく・・
次話で第一章の終わりです。
第二章は年明けから公開するつもりです。
よろしければまた第二章もお読み頂ければ幸いです!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる