17 ジュウナナ

ガランドウ

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第1章 真木 陸斗

第11話 Light house(灯台)

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 「キャリーさんの作るお味噌汁は、サイコーだね!」
 ゼファは、リクト達の食卓の輪に加わり、旺盛な食欲を満たしている。
 
 「あ、あのうゼファさん、私が作った卵焼きもどうぞ・・」
 アリアは恥ずかしそうに卵焼きがのった皿を、ゼファに差し出す。

 「どれどれ・・うん美味しいね!相変わらずアリアちゃんは料理上手だ!」
 ゼファは手放しでアリアの卵焼きを褒める。

 「ありがと・・」
 頬を赤らめ俯くアリア。

 くっ・・アリアはこんな奴が好みなんか。



        §



 リクトが病院での出来事の後、大野家に舞い戻ってから1ヶ月程経った頃、何食わぬ顔でゼファはこの家を訪れたのだった。

 出迎えたリクトの胸中には、ゼファに対して知りたいことが有り、また疑念を抱く事柄もあった。

 「ゼファ、聞きたいことがある」
 リクトは、大野家の敷居を跨がせず、近くにある児童公園へ連れ出し聞いた。
 
 「うん、何でも聞いてよ。だ・け・ど、僕の事はゼファさんと呼びなさい!」
 腕を組み、そこは譲れないとリクトを威嚇する。

 「細かいこと言うなよ・・ゼファ・・さん」
 ゼファに根負けするように「さん」付をした。

 まず一つに、リクトはアルマを顕現した時、頭の中に響いた声の主について聞いた。

 リョウとの議事場での会話から何となくではあるが、ゼファからは想像していた事柄とは別の返答が帰ってきた。

 リョウらと同じへと、リクトの魂を変換した。

 だがその説明だけでは言葉足らずだと、ゼファは指摘する。
 
 簡単な話だ。そんな事ができるなら、どんどん人間を自分たちと同じ生命体にすればいい。

 リョウやゼファ達は不滅であるが故、その個体数を増やす術を失ったらしい。

 然るにリクトが同じ生命体へと変わることが出来たのは、生命体としての力を失った仲間が、リクトの魂を依代にし同化することで叶ったのだと。

 結果リクトの魂と生命体とを同化した、いやリクトの魂が生命体を取り込んだと言うべきか。

 そしてリクトはその生命体の意志を聞いたのだ。
 
 ゼファはリクトと同化した生命体のことをよく知っているようで、しかも険悪な中だったという。

 「アイツの話なんかしたくない!」といい、ゼファはへそを曲げだす。
 
 「いや、めっちゃ気になるんですが・・」
 
 そっぽを向いたゼファにリクトは不満を顕にするが、それ以上聞き出せずに別の話を振る。

 リクトがアルマを顕現した後にあった出来事を、ゼファは語りだす。


 「リクトはあの男を倒した後の記憶がないんだよね?」

 リクトは顕現したアルマ「散弾銃ショットガン」のことは覚えているが、その後の記憶はなく、目覚めた時は議事場いた。そこでリョウと再会していたのだが、その時の事はとある事情で口外できず、肯定の意味で頷くまでにとどまる。

 「あの男には、僕達の体を形作る生命体としてのエネルギーが溶け込んでいたんだ」
 
 リクトは突拍子のない話についていけない。
 
 「まぁ聞いてよ、この世界には、僕達のエネルギーが溢れている、なぜかとは聞かないでね、話すのめんどくさいから」

 どうしてもゼファから聞く話は、重要な部分が抜け落ちる。
 
 「んで、リクトはあの男を仕留めたことで、ソコにあったエネルギーを獲得した」
 ゼファは「ここ重要です!」と釘を差してくる。
 
「僕達は、この世界に溢れたエネルギーを回収することが使命、いや宿命なのです!」
 
 宿命かは知らないが、分かる気はする。
 
 将臣にそのエネルギーが入り込んだことで、この悲劇が引き起こされたのだとすれば、許されることではない。
 
 「まぁ分かった。そこでだ、ゼファに聞く」
 リクトは表情を変え、ゼファを睨む。
 
 「ゼファさん、でしょ!」
 
 「いやゼファ、将臣はお前が使っていたみたいなのを纏い、姿を隠していた」
 
 「それをお前はどう答える?」
 ゼファの返答次第で、リクトはゼファと事を構える覚悟をしていた。

 「う~ん、まだ話すタイミングではないんだけど・・」
 ゼファは考え込むように腕を組みウロウロと歩き出すが、リクトが徐に左腕を前に突き出す動作を見て慌てる。

 「わぁー!ちょっと待った!言うよ、言う!」
 
 「もう、それはズルいよまったく・・」とゼファは渋い顔をし、語りだす。

 リクトはちょっと拍子抜けだった。
 
 リクトが持つアルマが強力な部類なのかもしれないが、まだ自分の意思で顕現させる術が分かっていない。

 ゼファの強さを知るリクトはほとんどブラフでの行動であったが、以外に効果的面で面食らう。

 「えっと、僕じゃない、いやアイツが・・はダメだ、他にも・・そうだよ」
 いつもの言葉選びをしだすゼファ。

 「風が使えるのは僕だけじゃなく、オリジナルはみんな使えるんだよ」
 
 新たな事実だった。

 「だからゼファじゃない、オリジナル?っていうその内の誰かだと?」
 その話を鵜呑みにできはしないが、裏を取るだけの情報がないのも事実。
 
 「そうなるね、でもそれを知るのは僕の口からじゃダメだ」
 今度はゼファの雰囲気が変わる。

 「リクト、自分でそこまで辿り着くんだよ。覚悟はあるかい?」
 ゼファは獰猛な目つきになり、リクトを試すように見つめる。

 「ふん、愚問だな。俺はそういう指標がある方が充実するんだよ」
 
 リクトはゼファを指差す。
 
 「それが人生ってもんだ」



        §



 今では週一ペースで、ゼファはこの家に顔を出すようになってしまっている。
 
 「ゼファ・・さん、ここには飯が目的なんか?」
 毎度のことながら呆れて言うリクト。

 「ん?そうだよ、キャリーさんとアリアちゃんのごはん美味しいもの!」
 無邪気なゼファ。

 「ゼファさん、いつでも来てくれていいんですよ!」
 嬉しそうにアリアはゼファを見つめる。
 
 「いっかーん!そんなの俺は許さん!アリアはやらんぞゼファー!」
 リクトはアリアを抱き締め、いい子いい子する。
 
 「な、リクトさん・・そんな・・」
 頬を染めるアリア。
 
 「ゼファさんだろ、リクト!」
 ブレないゼファ。

 そんな遣り取りをするリクトをジト見する瑞希。

 賑やかな食事は、いいことだ・・。


 食後、リクトとゼファは庭にある池の前に座り、二人並んで夕涼みをしていた。

 「リクト、行くのか?」
 ゼファは、ポツリと池の鯉を見ながら呟く。

 「ああ、そうだな・・」
 リクトは空を見上げる。

 リクトは決めていた。
 
 自身の剣技と新たな力、この2つがこれからのリクトの指標に辿り着くために必要な力とするならば、あの師の持つ能力が役に立つと思い出したのだ。
 
 ならば、行くしか無いと。
 

 月の前を朧雲がゆっくりと横切るが、月は姿を隠せず、その輝きを晒し続けた。

 「今のままじゃ、ダメなんだよ」
 リクトはゼファに向き直る。

 「ゼファに勝てないしな」
 リクトのその言葉に、ゼファは微笑む。

 「なんだよ、その余裕がムカつく・・」
 さん付けに嫌味を込めたが通じず、スッキリしない。

 「で、みんなには言ってるのかい?」
 
 「あー・・言いそびれてる・・」
 ゼファはコツンとリクトの頭を突く。

 「それは絶対にダメだよ、出会いと別れは必ずループするんだ、だから別れは大事にしないといけない」
 ゼファは胸を張って主張する。

 「ちょっと何いってるか分かんないが・・大事なのはわかる気がする」
 リクトは膝を抱え、これからの事を考える。

 「ま、リクトがココを出ていっても、後のことは任せなさい。ちゃんと僕が面倒見てるから!」
 ゼファはウンウンと頷く。

 「バカヤロウ、俺がここを出ていった後、ゼファは出入り禁止だかんな!」
 怒ってはいるが、どこか安心する心もリクトにはあった。

 そこへ突然リクトの背中へ声がかかる。

 「リクト・・出ていくってどういう事?」
 両手にお茶のペットボトルを手に持つ、瑞希の姿があった。


 「ちゃんと話をしなよ」とゼファは言葉を残し、屋敷の方に歩いていく。

 池の畔に残された二人。
 
 月明かりは明るく、外灯の無い中庭でも、お互いの表情はハッキリと正視出来る。
 
 「どういう事、リクト」
 二人に持ってきたのであろうペットボトルを握り締め、真っ直ぐにリクトを見つめる。
 
 「・・いやあのさ、瑞希」
 心の準備が出来ていなかったリクトは、頬を掻きつつ動揺が隠せない。
 
 「どうして・・どうして出ていっちゃうの?」
 訴える真っ直ぐな瑞希の瞳に耐えられなくなり、リクトは目を逸らす。
 
 「ねぇリクト!・・・今日の事なら瑞希、全然怒ってないよ!嫌いって言ったのウソ、全然ウソなの!だから!」
 
 「そうじゃないんだ瑞希、そうじゃない」
 リクトは立ち上がり、瑞希の頭に手を乗せる。

 「瑞希のせいじゃないんだよ、俺の話を聞いてくれるか?」
 瑞希の頭を撫ぜながら優しく問うが、瑞希は頭を振って手を払い除けた。
 
 「イヤ!聞きたくない!リクトはずっと瑞希の傍にいるの!」
 聞き分けなく、瑞希は目に涙を溜める。

 リクトは上から覆うように抱き寄せようとする手から、瑞希は距離を取り俯いた。

 「瑞希、俺に時間をくれないか?俺は今のままじゃダメでさ、もっと自分を見つめ直す時間が欲しいんだ」

 「俺は剣士だ。剣士は練り上げた技を積み重ね、そしてその技を行使する時には、絶対の自信がなければいけない」
 改めて手を伸ばして瑞希の両肩を持ち、真っ直ぐに瑞希の瞳を見据える。

 「今の俺には、その自信がないんだ」
 瑞希の濡れた瞳に少しの未練が生じるが、思い留まる。

 「だから、一から自分の剣を見つめ直し、自信を取り戻す。そのための修行をしに行くんだ」

 瑞希は俯き、身を震わせる。

 「リクトは、自分のことばっかり・・お母さんも・・瑞稀の事も!」
 瑞希はリクトを見上げ、涙を流しながらリクトを睨む。
 
 「どうだっていいんでしょ!!」
 リクトの手を振り払い、走って行こうとする瑞稀の手をリクトは掴む。

 「いいわけないだろ・・俺はもう二度と大切な人を失いたくないんだ」
 リクトは無理やり瑞希を自分の方に振り向かす。

 「瑞希、お前を守るために、俺に時間をくれ、頼む」

 瑞希は、リクトに抱きつく。

 「イヤ、イヤだよリクト!うわぁぁん」
 リクトの腕の中で泣きじゃくる。
 
 「困ったな・・」
 途方に暮れるリクトだったが・・。

 「ぐすっ・・どこいくの?」
 急に聞いてくる瑞希。
 
 「へ?ああ・・前に話した師匠のとこかな」
 
 「じゃあ瑞希も行く、もうすぐ夏休みだし」
 
 「ああ!?ダメだ」
 
 「何でよ!瑞希も行くの!うわぁぁん」
 
 「・・・困ったなぁ」

 振り出しに戻るを何度も繰り返し、瑞希を説得するのに小一時間を要することになったのだった。


 翌日、お世話になった人々にお礼と詫びの言葉を残し、家を出る。

 キャロラインとアリアが別れを惜しんで見送る横で、何故かゼファがリクトに手を振っている。
 
 「ゼファさん、すまんが後を頼む。だがしかし!」
 ぐっとゼファの前に仁王立つリクト。
 
 「アリアちゃんに手を出したら、シバく」
 ゼファの胸を指で突き、言い聞かせる。
 
 ヤレヤレといったゼスチャーをするゼファーの後ろに隠れる瑞希がいる。
 
 「瑞希、ちゃんと見送ってくれないのか?」
 リクトは瑞稀の背にまで屈み、優しく見つめる。

 瑞希は「タン!」と身を屈めるリクトの横に飛び出ると、リクトの頬にキスをした。
 
 「リクト、浮気したら・・シバくぞ!」
 瑞希は頬を赤らめつつリクとの物言いを真似て言い放つと、またゼファの後ろに隠れた。

 呆気にとられるリクトだったが、優しげな微笑みを瑞希に返す。

 「じゃ、行ってくるわ!」

 深々と頭を下げ、顔を上げきる前に踵を返し、行く先に大股で歩んでいく。

 「必ず帰ってきてよ!!約束だよ!!」
 通りに躍り出、リクトの背中に大声で帰郷の約束を取付ける瑞希。

 リクトは振り返らず、背中越しに手を振り、その約束に応えるのだった。

 ・・第1章 完・・
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