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第1章
4
しおりを挟む篝火が揺れる洞窟内は、冷気が漂っている。溶ける事の無い氷が覆い付くし、誰をも拒む。
洞窟の最奥。氷壁の中に男がひとり。
黒衣に身を包む、長く美しい金の髪が扇状に広がっている。手は腹部で組まれ、閉ざされている瞼を隠すのは黒糸のレース布。
―カツン…
ひとりの男がどこからか侵入を果たす。おぼろげな眼差しで氷壁を見上げたその男は、氷の中の男と同一の存在。
冥幻魔界を治める凍土の世界の主、ロイウェン・グロウ・オーサ=リィン。
魔皇の名を持つ唯一の男。
男、ロイウェンは氷壁の前に作られた大きな氷の玉座に腰を下ろすと、深く息を吐き出し、ゆっくりと横たわる。
決して開く事の無い氷付けの扉をぼんやりと見ていたが、子供のように蹲り瞼を閉ざすとその体は漂う冷気に紛れるように消え去った。
部屋には元の静寂だけが訪れる。
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