セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾

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第4章

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「上には狂信的な風天の者、下には狂戦的な炎熱の者、か…考えるだけで疲れるな。お前には苦労を掛ける」
「まあ!そのお言葉だけで今までの此方が報われると言うもの。それに炎熱側はヴィヴィアン様が結界を強化されたり、様々な対策をして下さっておりますので、基本的には上のみを警戒している状況で御座います。…ですが…」
 フォーデンは、ほうと憂いの吐息を漏らした。
「綻びは何処にでもあるものだからな…」
 炎熱地区を長年治めるヴィヴィアンが付加装飾具エンチャント・アイテムを駆使して尚手に余るのが実情だ。
 王妃達が片手間に治めているだとか、おざなりにしているなどその階層に生きる誰もが考えていない。もし、本当に手を抜いて統治しているのならば、あっという間に焼け野原となっているだろう。
「応急の措置ではあるが、お前とヴィヴィアン妃の所に手練を向かわせよう。ミオン=フィニ」
「はっ」
「ヴィヴィアン妃の下へ向かい、魔道具ウティの製作を。装飾具アイテムよりも強力なものを製作する事となる。少しばかりの暴発ならば構わんが、周りを巻き込むなよ」
 装飾具は一定以上の魔力を有し、ある程度の技術があれば優劣はあるものの製作をする事は可能だ。だが、魔道具は一流を冠する装飾師アイテム・メイカーでも造り出すのが難しい。技術はもちろん、膨大な魔力が必要だ。しかも、偏った魔力では綻びが生まれて術者自身の崩壊を招き、運が悪ければ辺り一面が塵芥と化してしまう。
「畏まりました。後ほど我が配下に引継ぎを行い、完了後、炎熱地区へ向かいます」
 ミオンはゆるりと頭を垂れた。
「シュノア」
「はっ」
「近衛隊を連れてフォーデン妃の補佐に就け。魔道具が届くまで、樹陸のもりを」
 しかし、とシュノアの表情が歪む。いくら皇命とて、近衛体の者が警護対象である魔皇の傍を離れる事は承諾出来なかった。
 その心中を察した皇は、問題無いと片眉を跳ね上げる。
「目覚めたばかりとて寝惚けているつもりはない。それに、このような僻地に攻め入るなど、酔狂な輩天界の愚図しかおらん」
「…皇の命なれば…」
 仕方が無いと言わんばかりの態度を隠しもせず、シュノアは深く腰を折る。それを眺めるフォーデンも咎める事は無く、楽しそうに微笑んでいる。
「それに、たまの里帰りをすればいい。お前、私が皇となってから一度も戻っていないだろう?なあ、フォーデン」
「殿の申される通り。既に親は亡くとも姉は顕在であると言うのに、文のひとつも寄越さないのです。酷いとは思いませんの?シュノア=ラディシュ」
「申し訳ないとは思っておりますが、立場上、親兄弟と距離をとる必要が御座います。ご理解頂きたいのですが?フォーデン=ジュエラ」
 美姫が送る恨みがましい眼差しをさらりと受け流し、シュノアは淡々と言葉を紡ぐ。揺らがない態度にフォーデンはつんと唇を尖らせた。
「理解はしておるが、妾も殿の妃。下賎の者が手出し出来る訳もなかろうが」
「だとしても、私の立場上仕方が無いのですと言っているでしょう。近衛隊隊長の座に就く際、手紙をお送りしましたでしょう?弟は死んだものとしてくれ、と」
「それで納得が出来るほど、薄情なつもりは無いと返したであろう?」
 軽妙なテンポで繰り広げられる会話に、皇はため息を吐き出し、宰相は苦笑を滲ませる。
「お二方、姉弟仲が宜しいのは結構ですが、今は皇の御前です。落ち着いて下さい」
 ミオンの進言に、ぐっと口を噤み「ご無礼を…」と声を揃えた二人にロイウェンは「よい、気にするな」と首をゆるりと横に振る。
 千に近い、数百年も前の話。幼い頃に魔狼族族長の継承権を放棄した弟は、姉にそれを譲り、次代の魔皇と共に生きる道を歩み始めた。それが、姉のフォーデンと弟のシュノアの肉親としての最後の時間だった。
「魔道具が完成するまでは樹陸を離れるな。無理に帰郷しろとは言わん。ならず者を叩き潰せばそれで良い」
「御意に。隊員の準備を整え、向かいます。フォーデン=ジュエラ、そちらに訪う際は改めてご連絡致しますゆえ」
「承知いたしました。こちらも居館パラスを整えておきましょう」
 それ以降は恙無く面会は終了し、フォーデンは謁見の間を去って行くのを見送り、扉が閉じたと同時にほうと息を吐き出したのは、魔皇、宰相、近衛隊隊長の三人だった。
「相変わらずお前の姉上は妙は威圧感があるな…」
「樹陸で唯一の狩猟一族の長ですからね。生半可な者では勤まりませんよ。それで、私はあなたの近衛隊隊長ですが、コータ様の護衛でもあるんですが…?」
 ちらりと見上げて来るロイウェンの眼差しは、何とも苦々しい。しばしの間、交錯していた視線はため息と共に外された。
「…まあ、アレに関しては問題ない。手は打つ」
「左様で」
 幼馴染の揺らぎの無い態度に舌打ちをしたくなるが、して見せれば愉しませるだけだと思い直し、深く息を吐き出して玉座から立ち上がりミオンとシュノアを振り返る。
「部屋に下がる。今日はもう誰の謁見も受けん」
 僅かに疲労を滲ませた声で告げれば、侍る二人は「御意に」と声を揃えて消え行く背を低頭して見送った。
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