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旦那様は魔王様≪最終話≫

星降る夜に 13

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「今夜流星群が近づくことをよく知っていたな」

 沙良は、塔の上でシヴァと二人、ブランケットにくるまりながら流星群を待っていた。

 誕生日パーティーも終わり、星を見るために塔の上に上ったのだ。

「ミリアムが教えてくれたんですよ」

「ああ、あれは星だの花だのが好きだったな」

「きれいだって言っていました」

 シヴァに引き寄せられて、沙良はシヴァの肩口に頭を預ける。

 ミリアムには手をつなげと言われたが、シヴァの手は沙良の肩の上にあるので、残念ながら手はつなげそうになかった。

 ミリアムは夫婦なんだからもっとラブラブするべきだと言うが、沙良は居間の距離でも充分嬉しい。シヴァのそばは安心で、心がほっこりするからだ。

 最初のころはシヴァのことが怖かったのに、今こうしてそばにいることが不思議で仕方がない。でも最近ではこの距離が当たり前になっていて、むしろ離れていると少し落ち着かないと思うときもあるくらいだった。

「寒くはないか?」

 こうして気遣ってくれるシヴァの声が嬉しい。

「寒くないですよ」

 ブランケットとシヴァの体温に包まれて、沙良はちっとも寒くなかった。

「流れ星のお願いすると、願いが叶うらしいですよ」

「そうか。それなら、今日はたくさん降るから、願い放題だな。何を願うんだ? 明日の朝食はイチゴがいいとかなら、願わなくても叶えてやるぞ」

 シヴァが茶化すので、沙良は頬を膨らませる。

「もうっ、そんな子供みたいなことはお願いしません!」

 言いならが、ほんの少しだけついでに願おうとしていたことは内緒にしようと思った。明日の朝ご飯ではなく、明日のおやつだったけど。

「じゃあ何を願う?」

 シヴァは沙良の願いに興味を持ったようだった。

「秘密です」

「なに?」

「だって、口に出したら叶わないって言われました」

「またミリアムか……」

 シヴァが小さく舌打ちしたのが聞こえた。おそらく、沙良の願いを聞きだしてこっそり叶えようとしてくれていたのだろう。

「えへへ、内緒なんですよ」

「俺が叶えた方が、星に願うよりも確実だと思うが」

「だめなんですぅ」

 それに、シヴァに言えば叶えようとしてくれるだろうが、この願いは無理をして叶えてもらっても意味がないからだ。

 沙良はシヴァの肩口に頭を預けたまま空を見上げた。

 そのとき、すっと目の前を星が一筋横切って、沙良は思わず立ち上がった。

「流れ星!」

 沙良が立ち上がったのでシヴァも立ち上がり、沙良の肩にブランケットをかけてくれる。

「そろそろか」

 シヴァがつぶやく間にも、一つ、二つと星が流れていく。

 沙良は胸の前で両手を組んだ。

(みんなと、ずっと一緒にいられますように……!)

 沙良が願う間にも、どんどん星が流れていく。

 次々と星が降る。

 まるで雨のように目の前を星が横切っていく様は、圧巻だった。

(それから、シヴァ様の―――)

 最後の願いを願おうとした沙良は、空を見上げたまま目を丸くした。

「え?」

「どうした?」

「あの、星が……」

 沙良が指さす方向にある一つの星。今までそこになかった大きな星は、赤く燃えるように輝いている。

 シヴァが眉をひそめた。

「なんだあれは……」

 その赤い星の周りを星が流れて――


「沙良ッ!」
 

 シヴァが焦った声を出したが、沙良の耳には届かなかった。

 耳鳴りがする。

 キーンなんて可愛いものじゃない。耳の中で直接ダイナマイトでも爆発させているのではないかと思うくらいの、頭が割れそうな音だった。

「あ……」

 目の前は真っ白で、足元がふわふわする。

「沙良ッ!」

 誰かに抱きかかえられているような気がするが、それすらもわからなくて――


「沙良ッ!!」


(最後のお願い……)


 シヴァ様のそばに、ずっとずっといられますように――


 沙良は消えゆく意識の中でそれだけ願うと、そのまま意識を手放した。
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