102 / 137
旦那様は魔王様≪最終話≫
消えた記憶 1
しおりを挟む
落ちる――
落ちていく――
足元はぽっかりと開いた闇で、沙良の体はそれに飲まれるように下へ下へと吸い込まれていく。
嫌だと、頭上に向けて手を伸ばすも、そこには何もなく、誰もその手を掴んではくれなかった――
ハッと目を覚ますと、沙良はベッドの上だった。
枕元には愛用のテディベア。
上体を起こすと、薄暗い部屋。
窓には板が打ち付けられて薄暗く、シンと静まり返った部屋の中は、広いけれど誰もいなくてひどく冷たい雰囲気を落とす。
今日は――
沙良は部屋の電気をつけると、壁にかかっているカレンダーを見て、ああ、と合点した。
(そっか……、誕生日)
今日で沙良は十七歳になる。誰も祝ってくれないバースデーだ。
長い夢を見ていた気がする。幸せな夢だったと思う。けれど、どんな夢だったのか、何一つ覚えていないのが残念だった。
沙良はベッドから起き上がると、ぼーっとする頭をすっきりさせるためにお風呂に入ることにした。お気に入りの薔薇の香りのバスボムを手に取り、浴室へ向かう。
今年も、お手伝いさんが部屋の外においたケーキだけを食べて、一人淋しく誕生日を終えるのだろう。
今更、誰かに優しくされたい、愛されたいなどという大それた願望を抱くわけではない。けれどもたった一人きりの誕生日は虚しかった。
(いったいいつまで、こうなのかな……)
ただ生かされている。閉じ込められて、一人きりで。これでは息をしているだけで箱に閉じ込められたお人形と大差ないだろう。もし死ぬまでこうなのであれば、早いうちに死んでしまいたいとさえ思うけれど、いつか出られるのかもしれないという希望が捨てきれない。
沙良はゆっくりとしたバスタイムを楽しむと、服を着て部屋を出た。着替えたパジャマは部屋の外に出しておけばお手伝いさんが回収して行ってくれる。
誰とも話すことのない毎日。声を出さないから、たまに声の出し方を忘れてしまう。
だが――
バスルームから出た沙良は、目を見張って立ち尽くした。
誰もいないはずの部屋に、一人の男が立っていたからだ。黒い髪に黒い服、黒い瞳。氷のように冷たい雰囲気の、とてもきれいな男の人だった。
男は乱暴に沙良の手を掴むと、そのまま有無を言わさず、沙良をどこかに連行した――
落ちていく――
足元はぽっかりと開いた闇で、沙良の体はそれに飲まれるように下へ下へと吸い込まれていく。
嫌だと、頭上に向けて手を伸ばすも、そこには何もなく、誰もその手を掴んではくれなかった――
ハッと目を覚ますと、沙良はベッドの上だった。
枕元には愛用のテディベア。
上体を起こすと、薄暗い部屋。
窓には板が打ち付けられて薄暗く、シンと静まり返った部屋の中は、広いけれど誰もいなくてひどく冷たい雰囲気を落とす。
今日は――
沙良は部屋の電気をつけると、壁にかかっているカレンダーを見て、ああ、と合点した。
(そっか……、誕生日)
今日で沙良は十七歳になる。誰も祝ってくれないバースデーだ。
長い夢を見ていた気がする。幸せな夢だったと思う。けれど、どんな夢だったのか、何一つ覚えていないのが残念だった。
沙良はベッドから起き上がると、ぼーっとする頭をすっきりさせるためにお風呂に入ることにした。お気に入りの薔薇の香りのバスボムを手に取り、浴室へ向かう。
今年も、お手伝いさんが部屋の外においたケーキだけを食べて、一人淋しく誕生日を終えるのだろう。
今更、誰かに優しくされたい、愛されたいなどという大それた願望を抱くわけではない。けれどもたった一人きりの誕生日は虚しかった。
(いったいいつまで、こうなのかな……)
ただ生かされている。閉じ込められて、一人きりで。これでは息をしているだけで箱に閉じ込められたお人形と大差ないだろう。もし死ぬまでこうなのであれば、早いうちに死んでしまいたいとさえ思うけれど、いつか出られるのかもしれないという希望が捨てきれない。
沙良はゆっくりとしたバスタイムを楽しむと、服を着て部屋を出た。着替えたパジャマは部屋の外に出しておけばお手伝いさんが回収して行ってくれる。
誰とも話すことのない毎日。声を出さないから、たまに声の出し方を忘れてしまう。
だが――
バスルームから出た沙良は、目を見張って立ち尽くした。
誰もいないはずの部屋に、一人の男が立っていたからだ。黒い髪に黒い服、黒い瞳。氷のように冷たい雰囲気の、とてもきれいな男の人だった。
男は乱暴に沙良の手を掴むと、そのまま有無を言わさず、沙良をどこかに連行した――
12
あなたにおすすめの小説
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる