旦那様は魔王様!

狭山ひびき

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旦那様は魔王様≪最終話≫

違和感 2

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 リビングに飛び込んできた女を見た瞬間、シヴァは平穏の終幕を悟った。

 彼女の背後からは、同じく金髪の、だが赤い瞳をした青年が、ぐったりとした表情を浮かべて立っている。その両手には大量の袋が抱えられており、買い出しにつき合わされたあとだというのは想像に難くなかった。

 女はスキップでもしそうな足取りでソファに座るルードヴィッヒまで近づいていくと、その首に細い腕を回してぎゅっと抱きつく。そして顔をあげ、テーブルをはさんで真向かいにシヴァが座っていることに気がつくと、ぱあっと顔を輝かせた。

「シヴァちゃん!」

 女はルードヴィッヒから手を離すと、ぴょんとテーブルを飛び越えてシヴァに飛びついた。

「やぁん、来るなら来るって言ってちょうだい! 元気かしら? 何年ぶり? やだぁ、眉間に皺なんて刻んじゃって! そうしていると、ホントおじい様そっくり!」

 ぎゅーっと抱きつかれて、シヴァは鬱陶しくなりながらもじっと耐える。

「……お久しぶりです、母上」

 女――母、フローラはさんざんシヴァに頬ずりをして満足すると、再びルードヴィッヒの隣に移動して抱きついた。

 ルードヴィッヒがにこにこ笑ってフローラの頭を撫でている。

 その間に大量の荷物をおいて戻ってきた金髪の男が、ぐったりした様子でシヴァの隣に腰を下ろす。

「お前も来ていたのか、クラウス」

 セリウスと髪と瞳の色こそ違えど、瓜二つな顔立ちのクラウスは、セリウスの双子の弟だ。

 クラウスはずり落ちかけた片眼鏡を指の腹で押し上げると、シヴァの顔を見上げて小さく苦笑した。

「お久しぶりです、兄上。私は父上に用があり昨日来たばかりですよ。……なぜか、母上に意味不明なものの買い出しにつき合わされましたけどね」

「あら、可愛いじゃないの」

「―――コウモリの剥製はくせいと一角獣の目玉、水晶に掘られた芋虫を可愛いと言うのは、魔界広しと言えど、母上くらいでしょうよ」

 そんなものを買ったのか。

 シヴァは母の趣味の悪さを思い出してため息をつきたくなった。間違いなく、この不気味かつ無秩序むちつじょな邸の外観は母の趣味によるものだ。母の趣味が殺人的に悪く、また父の芸術のセンスが壊滅的であることから、このような混沌とした邸が産まれたに違いない。

「あら、ちゃんとクラちゃんの服も買ったじゃない」

 のほほん、とフローラが言えば、ギョッとしたのはクラウスだった。

「は……? ちょ、ちょっと待ってください! あのセンスの悪……、いえ、非常に独創的かつ実用的でない、そもそも服なのかどうかわからないあの代物は、父上ではなく私の服だったんですか!?」

 真っ青なクラウスの横顔を見つめて、シヴァは同情を禁じえなかった。

「そうよ? 当り前じゃないー。パパは金色の服なんて似合わないもの。パパに買うなら黒か白、それか赤よねぇ」

「僕には君がいてくれることこそが何よりの贈り物だから、プレゼントなんて買わなくていいんだよ」

「いやーん、ルーイったら!」

 シヴァは帰りたくなった。

 よほど壊滅的なセンスの金色の服だったのか、クラウスは魂を飛ばしかけている。母のことだ、必ず着させるのはわかっている。その時のことを考えて絶望しているのだろう。

 シヴァはぬるくなった紅茶を飲みながら、母をこの場から追い出す方法を算段しはじめた。母がいては話も進まない。なんとかして追い出す必要がある。それには申し訳ないが生贄スケープゴートが必要だ。

 シヴァはクラウスの顔を見上げて、心の中で合掌した。すると、シヴァの視線に何らかの危険を察知したのか、クラウスの顔が青を通り越して白くなった。

「あ、兄上……?」

「すまん、クラウス」

 シヴァは小声で謝ると、くるりと母に向きなおった。

「母上、クラウスのために買ったという服ですが、俺も見てみたいので、今ここで着させてきてはどうでしょうか?」

「兄上ぇ!?」

 クラウスはヒッと悲鳴を上げてソファから立ち上がった。そのまま、反射的に遁走とんそうしかけたクラウスの腕を、フローラが素早い動きで捕まえる。

「そーお? じゃあ、さっそくお披露目してあげるわ!」

 そのままクラウスはフローラに引きずられていく。

「覚えていなさいよ、兄上ぇっ!」

 クラウスの絶叫が虚しくリビングに響き渡った。
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