シンデレラは貧乏性~結婚に必要な条件は『金銭感覚』です!~

狭山ひびき

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舞踏会の招待状

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 カレンが小麦粉の袋を盛ってご機嫌で帰宅すると、何やら邸の中が浮き足立っているような妙な雰囲気だった。

「やだーっ、レースのショールはどこにいったのー?」

「ママ! わたしの青いドレス知らない?」

「そんなことより、真珠のイヤリングはどこ!」

 玄関を開けるなり、家中から叫び声が聞こえてくる。

 真珠のイヤリング――そんなものがあったのか。どうせなくすならこっそり売り払っておけばよかったとカレンは内心で舌打ちだ。

「お母様もお姉様たちも、いったい何の騒ぎなの?」

 小麦粉の袋をひとまずキッチンにおいて二階の部屋に上がったカレンは、まず長女のキャサリンの部屋をあけて絶句した。

 床一面、ドレスやアクセサリー、靴などが散乱していて足の踏み場もない。というか、こんなにたくさんドレスやアクセサリーがあったなんて知らなかった。絶対カレンが知らない間に買い足したに違いない。

「な、なんなの? 泥棒にでも入られたの? うちに来たところで、盗むものなんてほとんどないはずなのに……」

 盗むものといえば、せいぜい、継母や姉たちのアクセサリー類くらいだ。本当は全部回収して売り払いたいのだが、さすがに不憫な気がして、母や姉たちの所有物には手を出してない。その代わり、カレンの私物はすべてお金に変えたけど。

「やーね! ちがうわよ! ドレスを探しているの! 一番いいドレスをね!」

「ドレス?」

 キャサリンがきらきらと目を輝かせながらにっこりと微笑む。

 赤みがかった金髪を、いかにコテでくるくるとゴージャスに巻くかに命をかけているキャサリンは、いつにもましてド派手な化粧を施していた。目鼻立ちがぱっちりしている、元が派手な顔立ちなだけに、がっつりメイクをしているといろいろ怖い。美人なのだが――なんというか、そう、ケバい。

 もちろん本人はそんなことは露とも知らず、真っ赤な口紅を塗った口を不満そうに尖らせた。

「あったはずなのよ! 真珠が縫い留められた空のように青いドレス! どこにいったのかしら」

 カレンはそのドレスを見たことがあった。

「二か月前に真珠が取れたって言うから直して、たぶん今わたしの部屋にあると思うわ。取ってくるから、その間にこの部屋片づけておいて」

「あら、まだだめよ。靴とアクセサリーを選ばなきゃ」

 どうやら、ドレスやアクセサリーを選ぶために部屋のものをひっくり返していたらしい。

 カレンは頭痛を覚えて、こめかみをおさえた。

「……お姉様、またダンスパーティーに行くの?」

 カレンは社交界デビューをしていないが、姉のキャサリンやバーバリーはばっちり社交界デビューをしている。ダンスパーティーなど無駄にお金がかかるから本当はやめてほしいのだが、それで姉たちが嫁き遅れたらと思うと反対できず、口出しせずにいた。社交シーズンのときに使っていた王都の邸を売り払うことに賛成してくれただけよしとすることにしたのだ。

 カレンはてっきりどこどこの伯爵家のダンスパーティーに行くと返ってくると思ったのだが、キャサリンは楽しそうにくすくすと笑った。

「やーね、違うわよ! お城よ、お、し、ろ!」

「お城?」

「そうよ! お城の舞踏会よ!」

「お城の、舞踏会……」

 カレンはハッとした。そう言えば、町でドーラがそんなことを言っていた。十六歳以上の貴族の娘は全員出席という強引な舞踏会が開かれるとかなんとか。

 なるほど、アッピヤード伯爵家は落ちぶれていて正直あってないようなものだと思っていたが、頭数に入れられていたらしい。

 通りで姉がウキウキしているはずだ。城の舞踏会というと、第一王子リチャードを一目見るチャンスだからだ。

 ウィストニア国第一王子のリチャードは、今年二十一になる美丈夫だが、どういうわけか婚約者がいない。そのせいで、この国の若い貴族の娘たちは、王子のお妃の座を虎視眈々と狙っているのだ。

「噂によると、この舞踏会はリチャード様のお妃候補を決めるために開かれるんですって!」

「前も同じようなことがあったけど、結局王子は舞踏会に顔を見せなかったんじゃなかった?」

「前は前、今回は今回よ!」

「そういうもの?」

「そういうものよ! ほら、あんたもぼさっとしてないで、着ていくドレスの準備をしなさいよ! 舞踏会は三日後よ! 入念に準備をしなくっちゃ」

「いや、わたしはいいわよ。社交デビューもしてないし、第一……」

 着ていくドレスがない。そう続けようとしたカレンの耳に、のほほーんとして声が届く。

「あらー、カレンちゃんおかえりなさーい。ちょうどよかったわ。見て見てー。このドレス、絶対にカレンちゃんに似合うと思うのぉ」

 キャサリンの部屋に飛び込んできた継母ケリーの手に持たれたドレスを見て、カレンは凍りついた。
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