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王子の体質改善係
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いい加減、抱きかかえられているのも飽きたらしいニワトリが暴れ出したので、カレンはニワトリをそっと地面に下ろして、それから二度ほどゆっくり瞬いた。
城で働かないか――、今リチャードはそう言ったはずだ。
(お城? お城って給金いいわよね……?)
求婚のあといきなり仕事に誘われたことには驚くが、それよりもカレンの脳裏にパラパラと舞い落ちる金貨の方が魅力的。
「ひと月、金貨五枚でどうだ」
「金貨五枚!?」
カレンは声を裏返した。
カレンがドーラの店でどれほど一生懸命働いても、月に金貨一枚分も稼げない。それが、ひと月金貨五枚。カレンはごくりと唾を飲み込んだ。
(落ち着くのよカレン……、確かに金貨は魅力的だけど、でも変じゃない? いきなり求婚してきて、そのあと働かないかって。きっと裏があるんだわ)
でも、たとえ裏があったとしても、金貨五枚はおいしすぎる。
カレンは真剣に考えこんだ。
(ドーラさんのお店で働かせてもらっているのに、いきなりやめるわけにも……。ああ、でも金貨五枚。こんなチャンスもう二度とないかもしれない……)
カレンはパタパタと走り回るニワトリや、あちこちに野菜が植えられている庭を見やる。
昔は綺麗に整えられていたこの庭。季節の花が植えられ、薔薇のアーチがあり、柱に繊細な彫刻がなされた四阿はお気に入りの場所だった。
今更貴族らしい生活に憧れるわけではないが、見る影もなくなった庭の様子に淋しさを覚える気持ちもある。
(金貨五枚あれば、せめて庭の一角で花を育てる余裕くらい生まれるのかしらね?)
継母であるケリーが好きな薔薇を植えてもいいかもしれない。収穫し残した大根が春に花を咲かせているのを見て、かわいいわねーと笑っていたケリーに。
「……ちなみに、わたしは何の仕事をするんでしょうか?」
仕事の内容を聞いてから判断しても遅くはないはずだとカレンが問えば、リチャードはホッとしたように微笑んだ。
「君には俺の侍女をお願いしたい」
「侍女、ですか……? でも……」
王族の侍女は教養が高い人物がつくと聞く。昔は家庭教師についていたカレンも、父が他界してからは家庭教師を雇うお金が無くなり、まともな教育を受けていなかった。そんなカレンに王子の侍女が務まるとは思えない。
途端に肩を落とすカレンに、リチャードは優しく微笑んだ。
「侍女と言っても俺のそばですごしてくれるだけでいい」
「え?」
それは仕事と言うのだろか。カレンは怪訝そうに眉を寄せる。リチャードのそばですごすだけで月に金貨五枚ももらえるとは。ますます裏がありそうだ。
カレンが不審に思っていることが伝わったのか、リチャードは続けた。
「実は俺には侍女がいないんだ。ちょっと困った体質でね。女性に触れられると蕁麻疹が出る。そのせいで、女性を近づけるわけにはいかなくてね」
「蕁麻疹……? でもさっき、わたしの手に触れましたよね……?」
大丈夫なのだろうかと、先ほどカレンの左手に触れた王子の手に視線を向ける。
王子はカレンの手を掴んだ手をひらひらと振って見せた。
「それが、どういうわけか君に触れても蕁麻疹が出ない。だから君にお願いしたいんだ。君と一緒にすごせば耐性がついて、ほかの女性にも触れられるようになるかもしれないし、ね」
もちろんリチャードは、カレンとすごしたからといってほかの女性に触れられるようになるという可能性は考えていない。だが、カレンがそんなリチャードの胸中を知るはずがなく、彼女は顎に手を当てて考え込んだ。
(女性に触れたら蕁麻疹……、それは確かに大変よね。王子様って結婚しないといけないんでしょうし。もしかして、だからわたしなんかに求婚されたのかしら?)
カレンはリチャードに同情した。女嫌いという噂を聞いたことがあるが、まさかそんな事実があるとは思わなかった。
カレンはしばらく悩んだが、そういうことならこの話も悪くないとひとつ頷く。
「わかりました。ただ、今すぐってわけにはいかないので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか? 周りに説明する時間がほしいので」
リチャードはパッと顔を輝かせると、もちろんと頷く。
こうして、カレンはリチャードの侍女――もとい、体質改善係として城で働くことになったのだった。
城で働かないか――、今リチャードはそう言ったはずだ。
(お城? お城って給金いいわよね……?)
求婚のあといきなり仕事に誘われたことには驚くが、それよりもカレンの脳裏にパラパラと舞い落ちる金貨の方が魅力的。
「ひと月、金貨五枚でどうだ」
「金貨五枚!?」
カレンは声を裏返した。
カレンがドーラの店でどれほど一生懸命働いても、月に金貨一枚分も稼げない。それが、ひと月金貨五枚。カレンはごくりと唾を飲み込んだ。
(落ち着くのよカレン……、確かに金貨は魅力的だけど、でも変じゃない? いきなり求婚してきて、そのあと働かないかって。きっと裏があるんだわ)
でも、たとえ裏があったとしても、金貨五枚はおいしすぎる。
カレンは真剣に考えこんだ。
(ドーラさんのお店で働かせてもらっているのに、いきなりやめるわけにも……。ああ、でも金貨五枚。こんなチャンスもう二度とないかもしれない……)
カレンはパタパタと走り回るニワトリや、あちこちに野菜が植えられている庭を見やる。
昔は綺麗に整えられていたこの庭。季節の花が植えられ、薔薇のアーチがあり、柱に繊細な彫刻がなされた四阿はお気に入りの場所だった。
今更貴族らしい生活に憧れるわけではないが、見る影もなくなった庭の様子に淋しさを覚える気持ちもある。
(金貨五枚あれば、せめて庭の一角で花を育てる余裕くらい生まれるのかしらね?)
継母であるケリーが好きな薔薇を植えてもいいかもしれない。収穫し残した大根が春に花を咲かせているのを見て、かわいいわねーと笑っていたケリーに。
「……ちなみに、わたしは何の仕事をするんでしょうか?」
仕事の内容を聞いてから判断しても遅くはないはずだとカレンが問えば、リチャードはホッとしたように微笑んだ。
「君には俺の侍女をお願いしたい」
「侍女、ですか……? でも……」
王族の侍女は教養が高い人物がつくと聞く。昔は家庭教師についていたカレンも、父が他界してからは家庭教師を雇うお金が無くなり、まともな教育を受けていなかった。そんなカレンに王子の侍女が務まるとは思えない。
途端に肩を落とすカレンに、リチャードは優しく微笑んだ。
「侍女と言っても俺のそばですごしてくれるだけでいい」
「え?」
それは仕事と言うのだろか。カレンは怪訝そうに眉を寄せる。リチャードのそばですごすだけで月に金貨五枚ももらえるとは。ますます裏がありそうだ。
カレンが不審に思っていることが伝わったのか、リチャードは続けた。
「実は俺には侍女がいないんだ。ちょっと困った体質でね。女性に触れられると蕁麻疹が出る。そのせいで、女性を近づけるわけにはいかなくてね」
「蕁麻疹……? でもさっき、わたしの手に触れましたよね……?」
大丈夫なのだろうかと、先ほどカレンの左手に触れた王子の手に視線を向ける。
王子はカレンの手を掴んだ手をひらひらと振って見せた。
「それが、どういうわけか君に触れても蕁麻疹が出ない。だから君にお願いしたいんだ。君と一緒にすごせば耐性がついて、ほかの女性にも触れられるようになるかもしれないし、ね」
もちろんリチャードは、カレンとすごしたからといってほかの女性に触れられるようになるという可能性は考えていない。だが、カレンがそんなリチャードの胸中を知るはずがなく、彼女は顎に手を当てて考え込んだ。
(女性に触れたら蕁麻疹……、それは確かに大変よね。王子様って結婚しないといけないんでしょうし。もしかして、だからわたしなんかに求婚されたのかしら?)
カレンはリチャードに同情した。女嫌いという噂を聞いたことがあるが、まさかそんな事実があるとは思わなかった。
カレンはしばらく悩んだが、そういうことならこの話も悪くないとひとつ頷く。
「わかりました。ただ、今すぐってわけにはいかないので、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか? 周りに説明する時間がほしいので」
リチャードはパッと顔を輝かせると、もちろんと頷く。
こうして、カレンはリチャードの侍女――もとい、体質改善係として城で働くことになったのだった。
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