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行商人は女好き
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次の日の午後、カレンはヨハネスと城下町に降りていた。
馬車を降りて二人で石畳の町を歩くが、馬車が二台ゆうに通れるほどの横幅がある大通りだというのに、歩くときに通行人と肩がぶつからないように気をつけなくてはならないほど人が多い。
昔来たことがある城下町だが、カレンの記憶は朧気で、また、新しい店がたくさん軒を連ねているので、まるで生まれてはじめて訪れた地のように目新しいものばかりだった。
ヨハネスが本屋に用事があると言うのでまずは本屋に向かう。博識なヨハネスが気に入っているという本屋だけあって、店の中はとても広く、また、天井までびっしりと本が詰まっている大きな本棚が規則正しく並んでいた。
ヨハネスは顔なじみらしい店主に目的の本のことを訊ねている。
カレンはヨハネスの買い物を待つ間、店の入り口付近に並んでいる小説のコーナーに足を向けた。
カレンは昔家庭教師についていたから、文字の読み書きはできるが、難しい本を読むには苦労する。小説だったら気楽に読めるので、ヨハネスを待っている間、気になった本を一冊取って、ぱらぱらとめくってみた。『灰かぶり』という題名の小説だ。
(お父様が亡くなって、継母と姉二人と暮らすって境遇は似ているけど、全然違うわね。お母様が優しくてよかったわ……)
父が亡くなったあと、後妻としてやってきた継母と姉たちに召使のように扱われている主人公に、カレンは表情を曇らせる。似たような境遇だが、カレンの継母であるケリーも姉二人も優しい。問題は金遣いの荒さだけだ。
(わたしって恵まれてたのね)
貧乏だが、毎日はつらくなかった。今だって、こうして城で雇ってもらえて、高い給金も支払われ、恵まれていると思う。
(お金も大事だけど、それ以上に大切なものってあるわよね)
パラパラと本をめくりながら考える。給金につられてリチャードの侍女を引き受けたが、ヨハネスやロスコーネ夫人という教師をつけてもらえて、雇い主であるリチャードもスキンシップ過多なのはたまに困るが、優しい。城に来て一か月が経ったが、城での生活は楽しいと思う。やはり、自分は恵まれているのだ。
カレンは小説を棚に戻して、そろそろヨハネスの買い物が終わったころだろうかと踵を返しかけ、ふと足を止めた。
視界に、見たことのない身なりの男が歩いているのが見えたからだ。
金と赤い色での刺繍が見事な、白く長い袖なしの外套に裾にかけて広がっているズボン。頭には箱のような形をした帽子をかぶっている。外套の上から巻かれた太いベルトには一本の剣。むき出しの腕にはジャラジャラと金のブレスレットが幾重にも巻かれている。
ウィストニア国では見ない格好の男はかなり浮いて見えた。
通りを歩く人々も振り返っては男を見ている。
「……旅行者かしら?」
どこか異国の香りが漂う男に、カレンはそう結論づけると、今度こそヨハネスの下へと向かった。
馬車を降りて二人で石畳の町を歩くが、馬車が二台ゆうに通れるほどの横幅がある大通りだというのに、歩くときに通行人と肩がぶつからないように気をつけなくてはならないほど人が多い。
昔来たことがある城下町だが、カレンの記憶は朧気で、また、新しい店がたくさん軒を連ねているので、まるで生まれてはじめて訪れた地のように目新しいものばかりだった。
ヨハネスが本屋に用事があると言うのでまずは本屋に向かう。博識なヨハネスが気に入っているという本屋だけあって、店の中はとても広く、また、天井までびっしりと本が詰まっている大きな本棚が規則正しく並んでいた。
ヨハネスは顔なじみらしい店主に目的の本のことを訊ねている。
カレンはヨハネスの買い物を待つ間、店の入り口付近に並んでいる小説のコーナーに足を向けた。
カレンは昔家庭教師についていたから、文字の読み書きはできるが、難しい本を読むには苦労する。小説だったら気楽に読めるので、ヨハネスを待っている間、気になった本を一冊取って、ぱらぱらとめくってみた。『灰かぶり』という題名の小説だ。
(お父様が亡くなって、継母と姉二人と暮らすって境遇は似ているけど、全然違うわね。お母様が優しくてよかったわ……)
父が亡くなったあと、後妻としてやってきた継母と姉たちに召使のように扱われている主人公に、カレンは表情を曇らせる。似たような境遇だが、カレンの継母であるケリーも姉二人も優しい。問題は金遣いの荒さだけだ。
(わたしって恵まれてたのね)
貧乏だが、毎日はつらくなかった。今だって、こうして城で雇ってもらえて、高い給金も支払われ、恵まれていると思う。
(お金も大事だけど、それ以上に大切なものってあるわよね)
パラパラと本をめくりながら考える。給金につられてリチャードの侍女を引き受けたが、ヨハネスやロスコーネ夫人という教師をつけてもらえて、雇い主であるリチャードもスキンシップ過多なのはたまに困るが、優しい。城に来て一か月が経ったが、城での生活は楽しいと思う。やはり、自分は恵まれているのだ。
カレンは小説を棚に戻して、そろそろヨハネスの買い物が終わったころだろうかと踵を返しかけ、ふと足を止めた。
視界に、見たことのない身なりの男が歩いているのが見えたからだ。
金と赤い色での刺繍が見事な、白く長い袖なしの外套に裾にかけて広がっているズボン。頭には箱のような形をした帽子をかぶっている。外套の上から巻かれた太いベルトには一本の剣。むき出しの腕にはジャラジャラと金のブレスレットが幾重にも巻かれている。
ウィストニア国では見ない格好の男はかなり浮いて見えた。
通りを歩く人々も振り返っては男を見ている。
「……旅行者かしら?」
どこか異国の香りが漂う男に、カレンはそう結論づけると、今度こそヨハネスの下へと向かった。
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