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モンレアーレ伯爵夫人の報復 4
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「信じられない! なんで勝手に決めるわけ⁉」
ジョルジアナは壁に向かってティーカップを投げつけた。
ガチャン! と音を立てて砕け散ったティーカップが床の上に散乱する。
その大きな音を聞きつけて、母が部屋に飛び込んできた。
「ジョルジアナ、どうしたの⁉ って、まあ! またティーカップを割ったの⁉ もう残りが少ないんだから、大切に使ってちょうだい。あと、せめて破片は片付けておかないと危ないわよ」
「だったら今すぐメイドを連れてきてよ!」
「募集をかけているけど来ないのよ」
使用人が一人もいなくなったアントネッラ伯爵邸の中は、どこもかしこも滅茶苦茶だ。
ジョルジアナの部屋は脱ぎ散らかしたドレスのほか、癇癪を起して割ったティーカップや皿の破片までが散乱し、足の踏み場もないほどである。
「それで、今日はいったい何に怒っているの?」
「ギオーニ男爵との縁談の件よ‼ お母様、知っていたわね⁉」
ジョルジアナは先ほど父の書斎に呼ばれ、来年の春にギオーニ男爵に嫁ぐと言う話を聞かされた。まさに寝耳に水である。ギオーニと言えば六十歳。数年前に妻を亡くしており、息子が三人もいる。ついでに髪の生え際が後退していて頭のてっぺんくらいまでつるっとしているおじさんだ。
(冗談じゃないわよ! なんでそんなおじさんにわたくしが嫁がないといけないわけ⁉)
父によれば、アントネッラ伯爵領に討伐対象の魔獣が出たのだそうだ。
しかしアントネッラ伯爵家の兵だけでは魔獣の討伐は困難で、討伐隊を雇う金もない。魔獣を野放しにしていたら領地に甚大な被害が出るほか、国からも咎めを受ける。
どうしたものかと頭を抱えていた父に、救いの手を差し伸べたのがギオーニ男爵だったらしい。
ギオーニ男爵は領地を持たない宮廷貴族だが、国の騎士団の事務局長。事務局長ともなれば給料も多いし、実業家でもあるため男爵家の資産も巨額だ。身分は下だが、男爵だからと軽んじていい相手ではない。
ギオーニ男爵は、ジョルジアナを嫁にくれるのならば魔獣討伐の援助をすると父に申し出たそうだ。
跡継ぎに関しても、ギオーニ男爵家には息子が三人もいるため、ジョルジアナに子ができればその子をアントネッラ伯爵家の跡取りにしてもかまわないと言ったという。
そして父は、ジョルジアナに何の相談もなく、ギオーニ男爵のその申し出を受けたのだ。
ジョルジアナが母を睨めば、母は視線を泳がせた。
「あ、あのねジョルジアナ。ギオーニ男爵はとってもお金持ちなのよ。そして、魔獣の討伐は領主に課せられた義務なの。それを怠ると、最悪領地を没収されることもあるのよ?」
「だから⁉」
「だ、だからね? 伯爵家の娘であるジョルジアナにも、その義務があると言うことよ。領地のために嫁がないと、ね?」
「じゃあお母様がお父様と離縁して嫁げば⁉」
「まあ! なんてことを言うの⁉」
「だってお母様の方がギオーニ男爵と年が近いじゃない! そうよ、そうしましょう!」
「馬鹿なことをおっしゃい! それに、ギオーニ男爵のご指名はあなたなのですから、あなたが嫁がないと意味がないのよ! あなたが嫁げば金貨三百枚の支度金もくれるそうだし、アントネッラ伯爵家にとってこんなにいい話はないわ」
「ふざけないで‼ つまりはお金でわたくしを売ったってことでしょ‼」
「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。ね? ジョルジアナ。ギオーニ男爵はちょっとお年だけどお金持ちなのよ。あなただって最新のドレスや高い宝石が欲しいと言っていたでしょう? きっとたくさん買ってくださるわ? あなたがいい子にしていたら我が家にもきっと援助してくださるでしょうし、そう、これはね、親孝行なのよ?」
母が猫なで声でジョルジアナをなだめようとするも、もちろん逆効果。
ジョルジアナは眉を吊り上げて、割れたティーカップの破片を掴むと、それを母に向けた。
「出て行って‼」
「ひっ!」
尖った破片を突きつけられて、母が青ざめて部屋から飛び出していく。
ジョルジアナは破片を投げ捨てると、ドレスが散乱しているベッドにぼすんとダイブした。
「もう! なんなのよ! 絶対に禿げたおじさんになんて嫁がないわよ!」
どうして自分がこんな目に遭わないといけないのだろう。
ドレスも宝石も新たに購入できないから、嫌だったけれど仕方なくモンレアーレ伯爵と復縁してあげたのに、あの男、妻のコンソラータにばれて離婚されたらしい。
モンレアーレ伯爵は入り婿だったので、離縁されたら伯爵の地位も取り上げられる。実家にも勘当され、コンソラータに多額の慰謝料も請求されたから、もうジョルジアナに貢げないらしい。
当然、貢いでくれない男なんて不要なのでジョルジアナからも別れを告げた。
(それもこれも、全部お姉様が悪いんだわ!)
ジョルジアナはイアナから全部奪い取ってやろうと目論んでいるものの、なかなかそれもうまくいかない。
というのも、ステファーニ公爵夫妻が参加するパーティーにアントネッラ伯爵家が招待されていないからだ。
フェルナンドに近づきジョルジアナの愛らしさで虜にしてやろうと考えたのに、近づけないのなら意味がない。
(ギオーニ男爵との縁談を拒否するには、お姉様からなんとしてもフェルナンド様を奪い取らなくちゃ! 公爵家の圧力があれば縁談なんて簡単に白紙にできるでしょ。というか、お姉様が魔獣討伐の援助をしてくれたらこんなことにはならなかったんじゃない! あの、役立たず‼)
家の中がぐちゃぐちゃなのも、ドレスや宝石が買えないのも、料理人がいなくなったから毎日買い付けたパンしか食べられないのも、ギオーニ男爵にお金で売られそうになっているのも、全部全部イアナのせいなのだ。
「お姉様だけ幸せなんて許さない。わたくしをこんな目に遭わせたんだもの、絶対に後悔させてやるわ」
ジョルジアナはぎりっと奥歯を噛んだ。
ジョルジアナは壁に向かってティーカップを投げつけた。
ガチャン! と音を立てて砕け散ったティーカップが床の上に散乱する。
その大きな音を聞きつけて、母が部屋に飛び込んできた。
「ジョルジアナ、どうしたの⁉ って、まあ! またティーカップを割ったの⁉ もう残りが少ないんだから、大切に使ってちょうだい。あと、せめて破片は片付けておかないと危ないわよ」
「だったら今すぐメイドを連れてきてよ!」
「募集をかけているけど来ないのよ」
使用人が一人もいなくなったアントネッラ伯爵邸の中は、どこもかしこも滅茶苦茶だ。
ジョルジアナの部屋は脱ぎ散らかしたドレスのほか、癇癪を起して割ったティーカップや皿の破片までが散乱し、足の踏み場もないほどである。
「それで、今日はいったい何に怒っているの?」
「ギオーニ男爵との縁談の件よ‼ お母様、知っていたわね⁉」
ジョルジアナは先ほど父の書斎に呼ばれ、来年の春にギオーニ男爵に嫁ぐと言う話を聞かされた。まさに寝耳に水である。ギオーニと言えば六十歳。数年前に妻を亡くしており、息子が三人もいる。ついでに髪の生え際が後退していて頭のてっぺんくらいまでつるっとしているおじさんだ。
(冗談じゃないわよ! なんでそんなおじさんにわたくしが嫁がないといけないわけ⁉)
父によれば、アントネッラ伯爵領に討伐対象の魔獣が出たのだそうだ。
しかしアントネッラ伯爵家の兵だけでは魔獣の討伐は困難で、討伐隊を雇う金もない。魔獣を野放しにしていたら領地に甚大な被害が出るほか、国からも咎めを受ける。
どうしたものかと頭を抱えていた父に、救いの手を差し伸べたのがギオーニ男爵だったらしい。
ギオーニ男爵は領地を持たない宮廷貴族だが、国の騎士団の事務局長。事務局長ともなれば給料も多いし、実業家でもあるため男爵家の資産も巨額だ。身分は下だが、男爵だからと軽んじていい相手ではない。
ギオーニ男爵は、ジョルジアナを嫁にくれるのならば魔獣討伐の援助をすると父に申し出たそうだ。
跡継ぎに関しても、ギオーニ男爵家には息子が三人もいるため、ジョルジアナに子ができればその子をアントネッラ伯爵家の跡取りにしてもかまわないと言ったという。
そして父は、ジョルジアナに何の相談もなく、ギオーニ男爵のその申し出を受けたのだ。
ジョルジアナが母を睨めば、母は視線を泳がせた。
「あ、あのねジョルジアナ。ギオーニ男爵はとってもお金持ちなのよ。そして、魔獣の討伐は領主に課せられた義務なの。それを怠ると、最悪領地を没収されることもあるのよ?」
「だから⁉」
「だ、だからね? 伯爵家の娘であるジョルジアナにも、その義務があると言うことよ。領地のために嫁がないと、ね?」
「じゃあお母様がお父様と離縁して嫁げば⁉」
「まあ! なんてことを言うの⁉」
「だってお母様の方がギオーニ男爵と年が近いじゃない! そうよ、そうしましょう!」
「馬鹿なことをおっしゃい! それに、ギオーニ男爵のご指名はあなたなのですから、あなたが嫁がないと意味がないのよ! あなたが嫁げば金貨三百枚の支度金もくれるそうだし、アントネッラ伯爵家にとってこんなにいい話はないわ」
「ふざけないで‼ つまりはお金でわたくしを売ったってことでしょ‼」
「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。ね? ジョルジアナ。ギオーニ男爵はちょっとお年だけどお金持ちなのよ。あなただって最新のドレスや高い宝石が欲しいと言っていたでしょう? きっとたくさん買ってくださるわ? あなたがいい子にしていたら我が家にもきっと援助してくださるでしょうし、そう、これはね、親孝行なのよ?」
母が猫なで声でジョルジアナをなだめようとするも、もちろん逆効果。
ジョルジアナは眉を吊り上げて、割れたティーカップの破片を掴むと、それを母に向けた。
「出て行って‼」
「ひっ!」
尖った破片を突きつけられて、母が青ざめて部屋から飛び出していく。
ジョルジアナは破片を投げ捨てると、ドレスが散乱しているベッドにぼすんとダイブした。
「もう! なんなのよ! 絶対に禿げたおじさんになんて嫁がないわよ!」
どうして自分がこんな目に遭わないといけないのだろう。
ドレスも宝石も新たに購入できないから、嫌だったけれど仕方なくモンレアーレ伯爵と復縁してあげたのに、あの男、妻のコンソラータにばれて離婚されたらしい。
モンレアーレ伯爵は入り婿だったので、離縁されたら伯爵の地位も取り上げられる。実家にも勘当され、コンソラータに多額の慰謝料も請求されたから、もうジョルジアナに貢げないらしい。
当然、貢いでくれない男なんて不要なのでジョルジアナからも別れを告げた。
(それもこれも、全部お姉様が悪いんだわ!)
ジョルジアナはイアナから全部奪い取ってやろうと目論んでいるものの、なかなかそれもうまくいかない。
というのも、ステファーニ公爵夫妻が参加するパーティーにアントネッラ伯爵家が招待されていないからだ。
フェルナンドに近づきジョルジアナの愛らしさで虜にしてやろうと考えたのに、近づけないのなら意味がない。
(ギオーニ男爵との縁談を拒否するには、お姉様からなんとしてもフェルナンド様を奪い取らなくちゃ! 公爵家の圧力があれば縁談なんて簡単に白紙にできるでしょ。というか、お姉様が魔獣討伐の援助をしてくれたらこんなことにはならなかったんじゃない! あの、役立たず‼)
家の中がぐちゃぐちゃなのも、ドレスや宝石が買えないのも、料理人がいなくなったから毎日買い付けたパンしか食べられないのも、ギオーニ男爵にお金で売られそうになっているのも、全部全部イアナのせいなのだ。
「お姉様だけ幸せなんて許さない。わたくしをこんな目に遭わせたんだもの、絶対に後悔させてやるわ」
ジョルジアナはぎりっと奥歯を噛んだ。
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