魔王陛下の押し掛け女房~姉に押し付けられた縁談ですが、頑張って祖国を再興しようと思います~

狭山ひびき

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「なんだってお前は、こんな面倒なものを拾って来たんだ」

「面倒じゃないよ。セシリアはとってもいい子だもん。だって、クッキーをくれたんだ!」

「…………はあ……、誇り高きフェンリルが、クッキーで餌付けされるとはな」

 微かに、誰かの話し声がする。

 ぼんやりと目を開けたセシリアは、自分が見慣れない部屋の中にいることに気がついた。

 レバニエル国の城のように高い天井には、煌々とした灯かりのともった大きなシャンデリアが見える。セシリアが寝かされているベッドはふかふかした感触を伝えてきて、干した手のような優しいお日様の香りがした。

 首を巡らせた先にあるバルコニーの奥の空は暗く、今が夜であることを教えてくれる。

(えっと……、ここはどこかしら?)

 旧グリモアーナ国――現在の魔王国に入って、宿屋の地下室に入ったところまでは覚えている。地下室の足元には魔法陣があって、狐ではなくフェンリルだったリュークは、宿屋の地下から城へ行けると言った。だが、そこから先の記憶がない。いったいどうなったのだろう。

 セシリアがぼんやりと考え込んでいたら、バタンと扉が開くような音がして、ぴょんと何かがベッドに上に飛び乗ってきた。見れば、銀色のふさふさした毛並みのリュークだった。

「セシリア! 目が覚めたの?」

 セシリアは知った顔にほっとしつつ、ゆっくり体を起こす。

「リューク……、ここはどこ?」

「ここ? ここは魔王城だよ」

「え!?」

 セシリアは驚いて目を丸くした。

「いつの間に……」

「セシリアは転移酔いを起こして気を失っちゃったからね」

「転移酔い……?」

 それは一体何だろうか。セシリアが首をひねっていると、少し離れたところからあきれたような声がした。

「ただの人間が魔法陣で転移などするからだ。気持ちが悪くなって当然だろう」

 突然聞こえてきた第三者の声に、セシリアはびっくりして顔を巡らせ――息を呑む。信じられないくらいに整った顔の男がそこにいた。

 夜の空のような黒色の長い髪に、空に浮かぶ満月のような金と銀を混ぜたような色合いの瞳。すっと通った鼻筋に、無駄な肉のないシャープな顔のライン。身長は高く、黒いマントがとてもよく似合っている。

 思わず呼吸を忘れそうになったセシリアは、男がゆっくりとこちらに近づいてきたのでハッと我に返った。

 もしかして、もしかしなくとも――

「……魔王陛下?」

 セシリアが小さな声で訊ねれば、面倒くさそうに息を吐き出される。

「いかにも。それで、お前はここに何をしに来たんだ、グリモアーナ王国の末裔の娘」
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