【第一部完結】やり直し魔女は、三度目の人生を大嫌いだった男と生きる

狭山ひびき

文字の大きさ
32 / 43
第一部 三回目の人生

解毒薬と衝撃の事実 1

しおりを挟む
 結局、襲撃を受けたのはメディナ伯爵領の宿の一回だけのことで、その後の旅は、クリストバルと同じ部屋を使うと言うわたしの心臓に優しくない問題以外は平和そのものだった。

 オルティス公爵領に入って一日ほどで、公爵家のタウンハウスに到着する。
 大きな門をくぐると、青々とした芝生が敷かれた広大な庭の奥に、ほんのりオレンジ色が入ったような白い壁の大きな建物がある。
 前庭に向かって、緩くアーチを描くように作られた邸は、正面に大きな玄関扉、そして、右と左側には、二階部分に通じるように作られたアーチ状の外階段があった。
 左右のそれぞれの階段を上った先は、オープンテラスになっている。

 ……ひ、広っ! さすが公爵家……。

 馬車が、門から玄関までまっすぐ伸びる石畳の道を進んでいくと、玄関前に数十人の使用人がずらりと並んで勢ぞろいしていた。
 その中央に、オルティス公爵と、綺麗な女の人が立っている。彼女が公爵夫人だろう。

 馬車が停まると、使用人の中から燕尾服を着た男性が歩み寄って来て、扉をあけてくれた。彼がタウンハウスの執事なのだろう。四十歳前後くらいの優しそうな男性だった。
 まずクリストバルが下りて、すっと手を差し出してくれる。
 旅の途中いつも馬車から降りるときに手を貸してくれていたから、すっかり慣れていたわたしは、自然と彼の手を取って馬車を降りた。
 すると、オルティス公爵がにこやかに歩いてくる。

「お待ちしていました、アサレア王女殿下」

 公爵が言うと、背後の使用人さんたちがいっせいに「いらっしゃいませ」と頭を下げて、わたしは内心で「おぉぅ」と驚いてしまった。すごい。一分の乱れもないよ。

「お、おじゃまします……」

 人のお家におよばれなんてはじめてだから、こういう時なんて言っていいのかわかんないよ。
 ぺこっと頭を下げると、オルティス公爵が苦笑して、クリストバルが「王女が頭を下げるな」とあきれ顔をした。

 ……え? そういうものなの?

 マナーなんて誰かに教わったことはないし、そもそも王女らしい扱いを受けていなかったから、知らないよそんなの。
 だけど、もしかしてここでは王女としてのふるまいを求められるのだろうか。困るんだけど。

 弱り顔でクリストバルと公爵を交互に見ていると、すすすっと公爵夫人が滑るように歩み出てきた。
 公爵夫人とは初対面なので思わず身構えちゃうよ。
 彼女はにっこりとわたしに微笑みかけて、言う。


「どこかの無礼者が、王女殿下の学ぶ機会を奪ったと聞きます。せっかくですので、ここにいる間はわたくしが責任をもって、王女殿下を素敵なレディにして差し上げますわ」

 え。
 そんな気遣い、い、いらない……。

 だけど、拒否できそうな雰囲気ではもちろんなく。
 きらきらと、エメラルド色の瞳を少女のように輝かせている公爵夫人は、ひるむわたしに、とっても楽しそうにころころと笑ったのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。 そんな母が私宛に残していたものがあった。 青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。 一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。 父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。 十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。 けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。 殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...