ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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濫觴の四月[April of Beginning]

Mission5 イージス管轄地区

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切られた刃はそのまま地面に落ち、2人を潰すことはなかった。

「剣を……」
「斬った……っ!?」

2人も驚いている様だった。俺も同様だ。
まさか自分がフィクションの様に鉄を斬るなんて思いもしない。
しかし今は驚いている場合ではない。

(斬った!もう一撃ッ!)

俺は巨人に大してもう一撃叩き込もうとする。
けれど突然巨人は折れた剣を静かに持ち上げてくるりと俺たちに背を向けた。
そしてそのまま歩いて俺たちの前から去っていった。

「勝った……?」

刃を斬っただけだが巨人がこの場から退いたのは確かだ。
勝利したと考えていいのだろう。
俺は息を整えて立てない2人へと歩み寄った。

「大丈夫ですか?」
「……あ、はい」

2人は1秒ほどの間を置いてからそう返事をした。

「……手を貸してもらってもいいですか?」
「ああはい」

俺は手を差し伸べると2人は掴み、縋り付く様にして立ち上がった。
ミナミと呼ばれた少女は右腕を押さえ、刀を持つ少女は脚を挫いているらしくミナミによって肩を貸してもらいながら立っている。

「……あ、そう言えばこの武器……」

俺は思い出した様に持っている脇差を刀を持つ少女へと差し出した。

「あなたのですよね。勝手に使っちゃいましたけど……お返しします」
「……いや、大丈夫」

彼女は右手で俺の脇差を握る手を下げさせた。

「それはキミが持ってた方がいいみたいだ。あたしじゃああそこまで使いこなせないよ」
「……持ってた方がいいって……別に今後使う予定はないけど……」

俺は彼女から手渡された掌中の得物に目を落とした。

「今後使うことになるんだよ。この町で生きるなら」
「ああ。詳しい話はヘリの中でしようか」

2人を乗せていたヘリが高度を下げて、俺たちの近くに着陸した。
そしてヘリの中からは銀髪と緑の瞳を持つ制服の上に白衣を羽織った少女が出てきた。
俺と白衣の少女も協力して怪我をした2人をヘリに入れて、ヘリはそのまま飛び立った。

「……それであなたたちは?」
「“あなたたち”なんてかしこまるなよ、大和。ここにいるのは全員同い年の奴らだぜ」
「……!なんで名前を知って……」

パイロットが俺の名前を口にしたことに驚きを隠せずにいた。
するとパイロットはそんな俺の方へと向いた。
俺はその顔を見て更に驚いた。

「知ってるに決まってンだろ?親友ダチなんだからよ」
「……直巳なおみ!」

ヘリのパイロットは俺の小学校以来の親友である赤城あかぎ直巳なおみだった。
俺が東京に行っている3年間で随分と声質も変わったものだ。
お陰で知らない人間が俺の名前を知っているのだと思ってしまった。

「驚いたぜ。ミッションの終わりに帰ろうとしたらお前が“スサノオ”に襲われてるンだからな」
「スサノオ……?あの巨人はスサノオって名前なのか。あれは一体なんなんだ?」
「ああ……アイツはな……」

直巳は一瞬白衣を羽織った少女の方を見て、言葉を紡ぐことに逡巡した。
するとそんな彼の視線を感じたのか白衣の少女は「私が話そう」と言った。

「君はこの町の現状についてどれくらい知っている?」
「え、っと……テロ組織がこの町に大穴を空けて町を壊滅させて占拠して、町にシンキ……だったかを持ち込んで隠し場所にしているってことまでは一応知ってる」
「そこまで判っているのなら説明を一部省略できるな。ありがたい」

彼女はそう言うと説明を始めた。

「まず、この町を占拠したテロ組織……その正体は“グラウ・リッター”だ」
「グラウ・リッター……!」

その名を知らない者は今ではほとんどいないだろう。

──灰色の騎士団グラウ・リッター、通称:GR。
主にヨーロッパで活動している国際テロ組織だ。
武力、資金力、組織の規模……全てが他のテロ組織を遥かに凌駕りょうがしている。
数々の軍人や科学者も抱えており、独自の武器・兵器を開発・製造する能力も有していると聞く。

町一つを占拠する武力を有するテロ組織と言ったら真っ先に思い浮かぶのはGRだろう。
白衣の少女は「ああ」と言って更に続けた。

「彼らによって町の3分の2が壊滅し、占拠された。そこで先の巨人“スサノオ”の様な兵器──“神機”が持ち込まれる様になった」
「シンキ……?」
「ああ。神仏の『神』に機械の『機』で『神機』だ。軍需企業“アームズメイカー”の開発した次世代の兵器だ」

アームズメイカーといえば国内最大手の軍需企業だ。
元々は中規模の軍需企業だったが2020年のテロによって対テロ戦争が再燃し、軍需品の需要が高まったことによってわずか数年で業界最大手まで登り詰めた。
そんな企業ならば先の巨人──“スサノオ”の様な兵器を作ることも可能な財力と人材も持っているだろう。

「スサノオは神機の一種だ。神機は一国の軍事力を変えると言われているほどの兵器だ」
「一国の……!?あれってそんなに凄かったの!?」
「ああ。そんな兵器をGRはいくつか保有している。それが世界最強のテロ組織とされる所以だ」

俺はそんな兵器の剣を叩き切ったのか。手に持っている脇差に目を落とした。

「そんなGRに対抗するべく占領されていない紙越町の3分の1の土地を“イージス管轄地区”として国が巨額を投じてGRと戦うための拠点として再開発した」
「再開発だって?」
「おっと、ちょうどいい。外を見てみるといい」

白衣の少女はそう言って俺に外を見るように促した。
外になにがあるんだ、という言葉を飲み込んで俺は外を見てみた。

「えっ、ええっ!?」

窓の外に広がるのは俺の知っている紙越町ではなかった。
古民家と田畑ばかりの時代に取り残された町──その面影は一片たりともなかった。
白亜のアパートやマンションといった建築物が規則正しく並び、町全体を囲う様にして巨大な壁が立っている。
屋根はソーラーパネルで埋め尽くされ、海にはメガフロートがいくつも浮かんでいる。
先刻までの荒れ果てた町とは大違いだ。

「大したものだろう?ありとあらゆる最先端のインフラ設備がこの町に一堂に会している。時代の最先端が集結した町ということもあってあらゆる国家の上層部が注目している」
「俺のいない2、3年で随分と変わったなぁ……」
「政府としては最先端技術の実験という目的もあるんだろうが。日本でここまで真新しい町は他にないんじゃないか?」
「そう、だね。東京も流石にここまで近未来的じゃなかったよ」

ついこの間まで時代に取り残された町だったというのに帰ったら逆に時代の最先端を行っているだなんて誰が想像できただろうか。

「だろうな。元々この町は“対テロ党”が管轄する予定だったらしいが国内の対テロ作戦が忙しく、代わりに“イージス”が管轄することになった様だ」
「イージス……ってあの?」
「ああ。対テロ組織だ。世界各国に支部を置くPMC……民間軍事企業だな」

2020年のテロによる日本の安全神話崩壊と共に設立された巨大な対テロ組織だ。
民間の組織である故に国家の部隊である“対テロ党”とは異なり、迅速な対応が可能だ。
一方の対テロ党も2020年に設立された、日本の政党だ。
『テロの掃滅』を掲げ、自衛隊とは異なる部隊を有しており、少数精鋭でその戦力は自衛隊に匹敵するとも言われるほどだ。
今では日本の与党の仲間入りを果たし、強い発言力を持っている。

「民間の会社が……?」
「紙越町の占拠を終わらせるためさ、仕方がない。そろそろ着くぞ」
「着くってどこに……」
「紙越町奪還の司令部……“イージス学園”さ」
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