ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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濫觴の四月[April of Beginning]

Mission7 帰宅

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「ああ。もちろん無事よ」
「!よかった……」
「……そうか、管轄地区の存在を知らなかったから安否が判らなかったのね」

ここの地区の存在はつい先刻知ったばかりだ。

「よく考えたら町が壊滅したのは3年前で、それからも電話とかメールでやりとりしてたってことはどこかで生きて生活してるってことだよね」

荒れ果てた町を見て冷静に考えられなかった様だ。
この地区にいると守られているという安心感から落ち着いて考えられる様になった。

「ええ。ここら辺はほぼ被害が出てないからね。我が家も2人も無事よ」

俺は安堵した。

「ほら、帰るわよ。もうそろそろここの先生も帰ってくるし」
「判った。じゃあ、帰ろう」

俺たちはそのまま保健室から出て、校舎から出た。
そして学園のあるメガフロートと管轄地区を繋ぐ鉄橋から振り返って学園を見てみた。

「……でかいな……」
「ええ。膨大な人員と資金を使って1年半かけて造ったのよ」
「こんなでかい建造物を造ったり武器とかを買えるイージスの資金力って……」

やはりただの民間企業ではない。
数々の優秀な人材を抱えられるのはその潤沢な資金力も理由の一つなのだろう。

「そのおかげで今じゃこの管轄地区も平和になったわ。少しずつGRの占領地も奪還されていってるし……あと数年もすればこの町は元に戻るんじゃないかしら」
「あ、俺の家こっちなんで帰りますね」

丁字路に差し掛かると直巳は脚を止めて自身の進む方向を指差した。

「ああそういえば……カフェはどうなの?」
「繁盛してるぜ。母さんも元気だしな」

彼の家はカフェを経営している。
俺も姉さんもたまに飲みに行っていた。

「そっか。今度行くよ」
「ああ。そうしてくれ。紅茶1杯無料にするからよ」

じゃあな、と彼は俺たちの進む道とは逆の方向へと歩んでいく。
それを見届けてから俺たちは家へと歩いていく。

「さ、我が家よ。ちっとも変わってないでしょ?」
「そうだね。少し安心したよ」

丘の上にある和の邸宅──それが我が家だ。
父さん曰くそれなりに歴史のある家らしく、結構大きい。
田舎町なのでよその家も大きいが我が家はその2倍以上はある。

「久しぶりに帰ってきたけど……我が家ってこんなに大きかったんだ……」
「あれ、叔父さんの家って『普通』だった?」
「そうだね。4LDKだって言ってたな。つい最近までこれが『普通』だとばかり思ってたから……驚いたよ」

俺は東京の中学に通っている間、叔父さんの家に共に住んでいた。
叔父さんの家に居候するまで俺は我が家が『普通』で平均的な家の大きさだと思っていた。

「さ、入りなさい。2人とも待ってるわ」
「そうだね……ただいま」

数寄屋門を開けるとガチャリという音がして、父さんが出てきた。
父さん──東条とうじょう明慶あきよしは藍色の着物を着ており、185センチあるガタイのいい男性だ。
更に姿勢が良く、険しい顔をしているので初対面の人間は彼が怒っていると勘違いする様だ。

「ああお帰り。母さん、大和が帰ってきたぞ」
「あらあら、帰ってきたの~?」

間延びした口調で父さんの後ろから母さんが出てくる。
母さん──東条とうじょう恵美めぐみはベージュのカーディガンと黒いロングスカートを来たごく普通な女性だ。
身長も160ちょっとで姉さんよりも少し高いくらいだ。
そんな彼女は穏やかそうな顔で俺たちを出迎えた。

「あら、お帰り~」
「ああただいま。母さん、父さん」
「……東京では色々あった様だな。明夫あきおから聞いている」

父さんは東京での出来事について明夫叔父さんから聞いているらしい。

「ええ。大和は悪くないわ」
「…………」

どうやら母さんも知っている様だ。
その様子を見て静かに口を噤んでいる姉さんも恐らく知っているのだろう。
俺たちの周りに気まずい空気が流れる。
しかし姉さんはその気まずい空気を破った。

「さぁ、寒いからとっとと中に入りましょう。4月とはいえ、紙越はホントに寒いわ」
「ああそうだな。東京から帰ってきて疲れただろう。ゆっくり休むといい」
「あ、お茶淹れるわね。さ、入りなさい」

母さんに促され、俺たちは家の中へと入る。
久しぶりの我が家に入ると家の壁や床が真新しくなっていた。

「もしかして畳とか壁とか……変えた?」
「いいえ、頑張って掃除したのよ。最近の掃除用具って凄いのね~、どんなに汚れてても落ちるんだもの」

家のどこを見ても全てが真新しくなっている様に見える。
畳や壁紙を変えずにここまで綺麗にできるとは……母さんの掃除の腕は確かだ。

「お茶淹れるから座って待ってなさい」
「あ、それじゃああたしも手伝うわ」

そう言って母さんと姉さんは台所へと歩いていく。
俺と父さんは茶の間にあるこたつに向かい合う様な形で座った。

「……しかし驚いたぞ」
「え?」
「お前がこの町に自力で帰ってくるとはな。俺はイージスの戦闘員たちにお前の迎えに行かせるつもりだったんだ」

イージスは民間の軍事会社ということもあって個人で戦闘員を雇うことができる。
世界の政治家もイージスの戦闘員を雇って自身の警備に充てている。

「そうだったの!?……じゃあ、もう少し東京にいれば安全に帰れたのか……」
「すまんな、伝達が遅れて。『何故電話で町がその様に変わり果ててしまったか』を伝えられなかったのもすまなかった」
「いや、父さんは悪くないよ。でも……なにか理由が?」
箝口令かんこうれいよ」

姉さんが急須と湯呑みを盆に載せて運んできた。
そしてそれをこたつの真ん中に置くと座って言葉を続けた。

「箝口令が敷かれているの。この町に関して、ね」
「箝口令……どうして?」
「どうしてって……五輪のテロで世間の人々はテロに怯えてしまっている。これ以上そんな人たちに恐怖を与えたらなにが起こるか判らないわ。だから政府が秘密にしてるの」

……なるほど、だからか。俺は先ほどの駅員さんを思い出す。
彼は俺が町に帰ることと町について話すことにあまりよくは思っていない様だった。
彼もこの町について知っているから口止めされていたのだろう。

「そういや俺って大丈夫なの?封鎖されてるっぽいのに町に入ってきちゃって……」
「元々住民ならば問題はない。……ただ、お前の様に自力で帰って来た者は聞かないな」
「いや、自力じゃないよ。独力じゃここまで辿り着けなかった……」

駅員さんの渡してくれたスタンバトン、ヘリで俺をここまで届けてくれた直巳たち……ここまで辿り着くまでに様々な人々の手を借りている。

「そうか……3年逢わなかったが随分と凛々しくなった様に見える。これも明夫あきおのお陰か?」
「凛々しく?……なってるのかなぁ」
「なってるわよ。身長も随分と伸びてあたしを抜いたし……カッコいいわよ」

そう素直に褒められると照れ臭い。

「さぁ、お茶菓子も持って来たしゆっくりしましょう。ほら、仙も座って座って~」
「そうね。久々の一家団欒だものね」

俺たちはそれぞれこたつを囲む様にして、湯呑みを片手に茶菓子を摘みながら憩いの一時ひとときを過ごした。
……こんなに心が安らいだのはいつ振りだっただろうか。
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