ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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濫觴の四月[April of Beginning]

Mission9 尾行

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「ただいまー」
「お帰り~……って、あら、拓海ちゃんも。それに……その背中の子は?」
「こんばんは。実はかくかくしかじかで……」

拓海姉が母さんに説明をする。
そして全て説明し終えると母さんは「なるほどねぇ」と納得した様に言った。

「それなら目が覚めるまで休ませてあげなさい」
「母さ~ん、歯磨き粉切れたわ~……って、拓海、来てたのね」

姉さんが白いブラジャーとパンツだけという格好で歯ブラシ片手に洗面所から出てきた。
来ていたのがまだ面識のある拓海姉だったからよかったもののもし初対面の人だったらどうするつもりなのだろうか。

「またそんな格好でうろついてっ!」
「だって、楽じゃん~」
「せめて白衣を羽織りなさい!」

──そういう問題か!?
下着の上に白衣……というのも色々と問題のありそうな格好だ。
初対面ではなくてもその格好を来客に見られたら色々と誤解を与えそうだ。

「判ったわよ、着替えるわ──って、その子は?今気付いたけど」
「ああ。そうだった。仙、あんたの部屋にこの子を眠らせておけない?」
「別にいいけど……散らかってるわよ?それよりも大和の部屋で寝かせた方が……」
「……流石にそれはまずいでしょ、仙ちゃん。年頃の男の子の部屋で女の子を寝かせておくのは」

同感だ。少女が俺の部屋で寝ているなんてなにかの案件になりそうだ。

「ああ……そうね。大和はそんなことやあんなことはしない人間だけど……その子も男の子の部屋よりも女の部屋で眠ってた方がいいだろうしね」
「仙ちゃんが話の判る人間でよかったよ。お邪魔しまーす」

俺たちは玄関で靴を脱いで、姉さんの部屋へと向かう。
姉さんの部屋は2階だ。俺の部屋の隣に位置する。
彼女の部屋の扉は和風な邸宅のそれとは大きく異なり、鉄でできている。
なんでも実験用に扉を強化したらしいが……一体なんの実験をしているのだろう。

「ほら、入りなさい」

姉さんは扉を開けると先に俺と拓海姉を入らせた。
……相変わらず超がつくほどに整理整頓のされていない部屋だ。
計算式のびっしりと書かれた紙が床中に散らばっていたり、大量の本がうずたかく積まれていたり、素人にはよく判らない薬品の入った瓶でテーブルが埋め尽くされていたりなどものが溢れている部屋だ。
姉さんも部屋に入ると半分床に落ちている掛け布団を正し、俺は彼女をベッドへと載せた。

「……それにしても仙ちゃん、随分と散らかってるね……片付けはしてるの?」
「たま~にね。研究中にいじるとどこになにがあるか判らなくなるから中々片付けられないのよね~」
((あ、多分この人、片付けられないタイプの人間だ))

たまに、とは言っているが姉さんの部屋が片付いているところなんて見たことがない。
前に一度母さんは部屋の片付けをしようと試みたらしいがあまりの散らかりようにお手上げしたらしい。
……確かにこの部屋の散らかり具合を見て、匙を投げない人はいないだろう。

「……それにしても、可愛らしい寝顔ね」

姉さんはそう俺たちではない、虚空に向かってそう言った。
確かに可愛らしい寝顔だ。

「さてと、帰るね」
「あら、もうちょっといればいいのに。いっそ泊まっていってもいいのに」
「いやいや、そういうわけにはいかないよ。この子を届けに来ただけだしね」
「それじゃあ送っていくよ」
「いや、大丈夫。管轄地区内以上に安全な場所はないからね」

確かに警備も担当しているイージスの管轄する地区ならば安全は確保されていて安心できるだろう。
送っていく必要はないか、と納得した。

「それじゃあね。おやすみなさい」
「おやすみ」

数寄屋門の近くまで彼女を送り届けると手を振って帰っていった。
俺も家の中に入り、寝ることとする。





わたしは大和と共に気絶した少女を東条家に運び、自家へと帰っていた最中の出来事だ。

(……ん?)

ふと遠くの家の屋根になにか黒い影が見えた。
最初は猫かなにかが屋根に登っているのだろうと思った。
けれどそれは猫にしては大きかった。

(人……?)

それは先ほどのうずくまっていた少女の様にもぞもぞと暗闇で動いていた。
しかも1つだけではない様に見える。
影は3つ──わたしは目を凝らして見てみた。

(……フード被ってる……?顔が見えない……)

暗いのとフードを目深に被っている様で顔がよく見えなかった。
でも、屋根の上に3人いて、フードらしきものを被っているなんて普通の人間ではないだろう。
3人はぼそぼそとなにかを話している様だったのでわたしは耳を澄ませてその会話を盗み聴いた。

「……ちっ、いねえな。せっかく地区内に侵入したってのに」
「ああ。仕方がないね。仕方ない、帰るとしようか」
「……そうですね」

……侵入?
穏やかな話じゃない。

(もしかしてあの3人……GRの戦闘員……!?)

だとしたらこのまま放置したらなにが起こるか判ったものじゃない。
わたしは慎重に3人の様子を物陰から観察することにした。
3人は屋根から飛び降りると物音を最小限にした走りでその場から去っていった。

(あっ、どこかに行っちゃう!)

わたしは3人の後を追いかける。
あの3人がGR所属のテロリストならば見つかったらただじゃすまない。
物陰から物陰へと慎重に移動して3人の姿を失わない様にして進む。

「“神殺しの少女”……『GRとしては確保したい』って総統ボスが言ってたな」
「ああ。でも長時間この町にいたらまずいからね。今日はここら辺で終わりだ」
「……そろそろ“壁”ですね」

3人のうち、身長の低い少女らしき人物がそう言った。
この管轄地区は巨大な壁によって覆われる様にしてテロリストの侵入を防いでいる。
けれど3人はそれを超えてやってきたらしい。

(見た感じなにかをするってわけでもなさそう……とりあえずこのまま帰って学園に報告して町の見回りをもっと重点的にして貰おう──)

そんなことを考えながら近くの物陰に隠れようとしたその時だった。

ガッ

「ん?」
(まずい──ッ!)

緊張し過ぎて思わず地面を蹴ってしまった。
咄嗟に近くにあった電柱に隠れたけれど3人の意識はこちらに向いている様な気がする。

「なんか物音がした様な気がするな」

3人のうちの1人がそう言ってこちらへと足音を立ててやって来る。

(このままじゃ見つかる……!)

心臓が早鐘を打ち始める。
わたしもイージス学園の生徒の1人とは言っても前線に出て戦いはしない。支援担当だ。
故に戦闘能力は一切持っていないので見つかれば終わりだ。

(お願い……ッ!)

──見つからないで……
わたしは未だ見たことのない神様にそう祈った。祈るしかなかった。

「……気のせいじゃないんですか」
「ああ。猫でもいたんだろう」
「ん?それもそうか……それじゃあ行くか」

こちらに向かってきた1人はくるりとこちらに背を向けて2人と共に去っていった。
そして懐中から銃の様なものを取り出すと壁の上へと向け、引き金を引いた。
一本の黒いワイヤーが銃口から放たれ、ワイヤーの先端に取り付けてある小さな銛が壁に突き刺さる。

(あれって……ワイヤーショット!?GRも……)

──ワイヤーショット。ワイヤーを射出する装備の1つだ。
ワイヤーの先端に取り付けられた銛の様なものを射出し、壁や屋根に突き刺すことでワイヤーが巻き取られると同時に自身を銛の突き刺さった点まで高速移動させることが可能だ。
腰に取り付ける箱型のものもあれば彼らの使っている様な銃型のものもある。
……まさかGRも使用しているなんて……

「……とりあえず見つからなかったみたいだし……このまま大人しく帰ろう……」

幼馴染の家に行った直後に命の危機に遭遇することになるとは思うもしなかった。
わたしは深呼吸してから我が家に帰ることにした。
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