ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
10 / 92
濫觴の四月[April of Beginning]

Mission10 契約

しおりを挟む
紙越この町に帰って来てから3日目──
俺も対テロ戦闘員の1人として今日から学園に通うこととなった。

「……対テロ戦闘員養成校って言うからもっと難しい試験を想像してたけど……」
「案外大したことなかった?」

イージス学園の制服に袖を通していると姉さんがそう問うてきた。

「まぁ、筆記だけだったしね。……ところでこの制服って」
「ああ。アームズメイカー製の衝撃吸収素材でできた制服よ」
「120万するやつ?」
「そうね。そのくらいはするわね。まぁ、イージスが購入したものだからあたしたちが払ったわけじゃないけど大切にね」

100万を超える服に袖を通すことになるとは……しかもそれが制服とは……。
多分100万を超える服に袖を通す機会はそうそうないだろう。

「うん、似合ってるわ」
「見た感じ普通の制服だけど……ホントにこれが衝撃を吸収してくれるの?」
「ええ。ほらッ」

頷くと同時に姉さんは俺の背中へと蹴りを入れた。
普通ならば背骨が砕けてもおかしくないレベルの蹴りだった。
けれど特に背中に痛みを感じはしなかった。

「痛くないでしょ?」
「ああ……だけどいきなり背中を蹴るのは……」

弟相手だというのに全く遠慮のなかった。恐ろしい姉だ。
彼女は軽く「ああごめんごめん」と謝る。
……ホントにごめんって思ってないな……

「でも、これで衝撃を吸収してくれるって判ったでしょ」
「…………」
「あ、そうだ。あんたがあたしに預けてくれたこれ、返すわ」

姉さんは黙ってじっと睨む俺の視線から逃れる様にして右手に握っていたものを俺に差し出す。
脇差だ。あの時巨人スサノオの剣を斬った刃を持つ武器だ。
俺はそれを受け取ると鞘から抜いた。

「ちょ~っとだけ改造したわ」
「……?どこも変わってない様な気が……」

銀色の刃を持つそれは以前と全く変わっていない様だった。
俺は柄を握りながらその脇差を色々な方向から見ていると──

「ッ!」

突然その動きは止められた。
物理的に止められたわけではない。
なにかが脳に流れ込んでくる様な感覚に俺は思わず頭を抱えた。

「……ぐ……ぁ……ッ!」

それは脳が破裂してしまうのではというくらいに強烈な痛みを伴っている。
立っていられずに背中からは汗が一気に湧き出す。
姉さんのことをちらりと見てみると特になにか驚いている様子でもない。

「姉、さん……なにを……!?」
「もうちょっと待ってね。それはその武器との『契約』みたいなものだから」
「契約……?」

姉さんはこうなることを知っていて俺にこの脇差を手渡した様だ。
しばらくすると痛みに徐々に慣れてきた。

[──武器使用者の生体データを登録──完了]

痛みに慣れ始めると脳内にそう囁く声が聞こえた。
姉さんの声ではない、人工的な、温かみのない無機質な女声の声だ。
やがて痛みも消え、姉さんは俺が頭から手を離したのを見て「終わったわね」とだけ言った。

「終わったって……?」
「『契約』よ。……いえ、登録と言った方が正しいかしら」
「登録……?」

今のが登録だって?

「凄い痛かったけど……姉さんはこうなるって知ってたの?」
「まぁね。武器を改造したのはあたしだもの」
「凄く痛かっただけでなにもない様に見えるけど……これでなにもなかったら恨むからね」
「どうぞご自由に。時が来れば判るわ。それに……あたしが意味のない改造はしないわ」

それもそうか。意味のない改造をしたところで彼女になにかメリットがあるわけでもない。
となると武器を使うことになればなにを改造したか、改造した意味について判るだろう。

「さ、腰に挿して行きなさい」
「え、大丈夫なの?捕まったり通報されたりしない?」
「大丈夫よ。社会科で習わなかった?対テロ戦闘員は──」
「──武器の携行が認められた超法規的な公務員、だっけ。今思い出したよ」

しかし武器の携行を認めるだなんて日本……いや、世界も五輪あのテロから随分と変わったものだ。
武器の携行、テロリストの逮捕、或いは殺害──それらの行為が認められている職業なんてそうそうないだろう。

「そう。あたしも一応対テロ戦闘員の資格を取得してるから……ほら」

そう言って姉さんは白衣の内側から拳銃を取り出す。自動式拳銃だ。

「まぁ、あたしは無線とかで支援サポートするから撃つ機会なんてないけどね」
「確かに姉さんが銃を撃ってるイメージってあまりないな……」
「まぁ、大和撫子は銃を撃ったりはしないものね」
「……大和撫子は風呂から上がった後に下着だけでいるなんてことはしないと思うけどね」
「なにか言った?」

ニコリと微笑みながら手中にある拳銃を俺の額に突きつけた。
微笑んでいるもののその瞳は笑っていない。
……というか弟に実銃を突きつける姉がこの世界にいるだろうか?

「いえなにも言っておりません……」
「よろしい。さ、行くわよ。あたしもこの後入学式やらの準備やらで色々と忙しいんだから」

彼女は拳銃をしまうと先に出て行ってしまった。
俺も腰に刀を帯びると姉さんの後に続いて学園に向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

Amor et odium

佐藤絹恵(サトウ.キヌエ)
ファンタジー
時代は中世ヨーロッパ中期 人々はキリスト教の神を信仰し 神を軸(じく)に生活を送っていた 聖書に書かれている事は 神の御言葉であり絶対 …しかし… 人々は知らない 神が既に人間に興味が無い事を そして…悪魔と呼ばれる我々が 人間を見守っている事を知らない 近頃 人間の神の信仰が薄れ 聖職者は腐敗し 好き勝手し始めていた 結果…民が餌食の的に… ・ ・ ・ 流石に 卑劣な人間の行いに看過出来ぬ 人間界に干渉させてもらうぞ

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...