15 / 92
濫觴の四月[April of Beginning]
Mission15 戦う覚悟
しおりを挟む
1日を終え、俺は家路に就く用意をしていた。
そんな俺のところに直巳がリュックを左肩だけで背負った状態で早足でやってきた。
「ああ大和、ちょっと今日は先に帰るぜ」
「なにか用事が?」
「ああ。例年に比べてちょいと早めの繁忙期でさ、今日は特にな。賃金はちゃんと払ってくれるから別に不満だとは思ってねえけどな」
前も言ったが彼の家は母親がカフェを経営している。
どうやら繁盛している様で何よりだ。
「それじゃあな」
「ああ。さようなら」
彼は急ぎ足でそのままその場から去って行った。
カフェか……しばらく行っていなかった。今度行ってみるか。
「大和」
俺は荷物をまとめて昇降口へと向かう途中で背後から誰かに肩を叩かれた。
「拓海姉」
振り向くと拓海姉がいた。
彼女とは学年──俺が1年で拓海姉が3年──が違い、下駄箱の場所も離れているので一旦別れ、靴を履いてから外で合流した。
俺たちはそのまま歩き、話を始める。
「大丈夫だった?仙ちゃんから聞いたよ」
「大丈夫って?……ああ、襲われたって話?」
俺は推測し、それが合っているかどうか彼女に確認した。
姉さんから聞いたという俺を心配する様な話と言ったらそれくらいだろう。
「そう。怪我とかしてない?」
「大丈夫。東京にいた時も鍛えてて正解だったよ」
元々父さんによって俺と姉さんは武術を叩き込まれている。
叔父さんの家にいた3年間も一応鍛えてはいた。
武術を覚えても使う機会はないだろう……と思っていたがあった。
「ああ。無事ならよかった。それよりも部隊はどうなった?」
「部隊?ああ既に組んだけど名前が決まらなくて……」
俺自身も色々と考えてみたが中々思い付くものでもない。
この調子では部隊編成届の提出日までに思い付きそうにない。
「名前か……ふざけた名前だと却下されそうだしね」
「拓海姉も部隊に入ってるんだよね?この学園の生徒ってことは」
「ああ。“神聖なる円舞曲”っていう部隊にね」
セイクリッドワルツ……神聖なる円舞曲か。
言葉の響きは格好いいが……なんというか……
「……そんな感じでいいの?ちょっと、なんていうか……中二感が……」
「問題なかったよ。……まあ、ちょっと中二感はあるけど」
自覚はあるのか。それならよかった。
自覚なしの中二病ほど怖いものはない……多分。
いや、そもそも拓海姉は中二病ではなさそうだ。
「ああ勿論だけどちゃんと意味はあって名付けたよ?」
「そりゃあね……一応迷ったら参考にさせてもらうよ」
「どうぞご自由に。……あ、そうだ」
拓海姉はぴたりと足を止める。
俺もそれに合わせて足を止め、彼女の方へと身体の向きを変える。
「どうした?」
「こないだの夜、覚えてる?赤い髪の女の子を大和の家まで運んだ夜」
俺は少し考え、記憶の海からその夜の出来事を引き揚げた。
突然倒れた緋色の髪を持つ少女が目覚めるまで我が家に置いている。
「ああ……あの子、少しすれば起きるかなって思ってたんだけど、全然起きる気配がないよ。今も家で寝てる」
「それは心配だなぁ。病院とかは?」
「一応病院の先生に看に来ては貰ってるけど『大丈夫』って言ってる」
そうは言っているが俺たち家族は安心できずにいた。
少しすれば目覚めるだろうと高をくくっていたがここ数日は寝ている。
本当に大丈夫なのか、彼女が目覚めるまで安心できない。
「そっか、ならよかった……ってその話じゃなくて。いや、まあ、その報告も大事だけど……」
「この話じゃないならどの話?」
「ここの道、その日の夜に通りかかったんだけど……その時に怪しい人影を見たんだよね」
「人影?」
そう、と言って拓海姉は近くの家の屋根を指差す。
「ちょうどそこの家の屋根だったかな、3人組で誰かがいた。フードを目深に被って顔を隠してた」
「それは確かに怪しいな……その3人組は?」
「地区を囲む壁の向こう側に行ってた。会話の内容からGRのテロリストだと思う」
壁の向こう側……GRによる占領地に用があるなんてただの人たちではなさそうだ。
壁の外に用があるのは奪還作戦のために突入するイージスか、町の大半を占拠しているGRくらいだろう。
民間人が占領地に用があるとは思いがたい。
「あの家を見て思い出してさ。もしかして大和を襲ったのもその3人組かも……」
「でも、俺を襲った犯人は単独だった」
「もしかしたらその3人組の1人かも──」
そんな時だった。
突然拓海姉が俺を突き飛ばした。
「え──」
一瞬なにが起こったのか理解できずにいた。
俺は重力に引かれる様にして、横に倒れた。
「……まさか気付かれるなんて。気配は消していたつもりだったのに」
「これでも耳はいいからね。靴と地面の微かな摩擦音で気付いたよ。それでもそのくらい近くなるまで気が付かなかったけど……」
「突き飛ばして助けるなんて……あと少しだったのに」
見上げると拓海姉の双眸は俺ではないものを映していた。
彼女の瞳に映るもの……それは白い仮面とナイフだ。
刹那、俺は何故突き飛ばされたのか理解した。
「ごめん大和、いきなり突き飛ばして……立てる?」
「あ、ああ……」
白い仮面はナイフを俺の首へと振るっていた。
そのままでは首を切り裂かれて死んでいた。
けれど拓海姉はナイフが俺の首へと届く前に突き飛ばして助けてくれたのだ。
彼女の差し出した手を借りつつ、俺は立ち上がり、俺へとナイフを振るった人物を睨む。
「昨日振りね」
「あんたは……!」
濡れた様な長い黒髪、黒いパーカーのフードと白単色のシンプルな仮面──
俺はその人物に見覚えがあった。
それもそうだろう。自身を殺しかけた襲撃者の姿なのだから。
「まさか戦いとは無関係そうな人間に邪魔されるなんて思っていなかったけれど……ワタシを目撃した以上殺すしかないわね」
「彼女に手を出すなっ!」
「それはどうかしら……ねっ!」
彼女が逆手に持ったナイフを拓海姉へと振るった。
俺は咄嗟に脇差を抜いてそのナイフを弾いた。
凶刃は弾き飛ばされ、近くの塀に叩きつけられ、重力に従って落ちた。
「……あら、傷付けることを恐れてるんじゃなかったの?」
「ああ。怖いよ。とてもね。できることなら傷付けたくはない」
──俺は他人を傷付けることを恐れている。
これが変わることは一生ないだろう。
「……甘ちゃんね──」
「──けど、大切な人を傷付けられるくらいなら俺は戦う」
俺の手にあるのは人を殺められる道具だ。
それを握りしめ、目の前の襲撃者を睨む。
彼女は弾き飛ばされたナイフを拾うことはせずに懐中から新たにナイフを取り出した。
「大和……」
「拓海姉はどこかに隠れてて」
「わ、判ったッ!」
拓海姉がいなければ俺は気配と殺意を消していた襲撃者──いや、暗殺者か──の凶刃によって殺されていただろう。
そんな彼女を今度は俺が守るために握った脇差を構えた。
「……確かに戦う覚悟はあるみたいね。なら、ワタシはその覚悟を否定するわ」
「やれるものならやってみろっ!」
戦うことを決めた俺とその覚悟を否定する暗殺者による戦いの火蓋が切られた。
そんな俺のところに直巳がリュックを左肩だけで背負った状態で早足でやってきた。
「ああ大和、ちょっと今日は先に帰るぜ」
「なにか用事が?」
「ああ。例年に比べてちょいと早めの繁忙期でさ、今日は特にな。賃金はちゃんと払ってくれるから別に不満だとは思ってねえけどな」
前も言ったが彼の家は母親がカフェを経営している。
どうやら繁盛している様で何よりだ。
「それじゃあな」
「ああ。さようなら」
彼は急ぎ足でそのままその場から去って行った。
カフェか……しばらく行っていなかった。今度行ってみるか。
「大和」
俺は荷物をまとめて昇降口へと向かう途中で背後から誰かに肩を叩かれた。
「拓海姉」
振り向くと拓海姉がいた。
彼女とは学年──俺が1年で拓海姉が3年──が違い、下駄箱の場所も離れているので一旦別れ、靴を履いてから外で合流した。
俺たちはそのまま歩き、話を始める。
「大丈夫だった?仙ちゃんから聞いたよ」
「大丈夫って?……ああ、襲われたって話?」
俺は推測し、それが合っているかどうか彼女に確認した。
姉さんから聞いたという俺を心配する様な話と言ったらそれくらいだろう。
「そう。怪我とかしてない?」
「大丈夫。東京にいた時も鍛えてて正解だったよ」
元々父さんによって俺と姉さんは武術を叩き込まれている。
叔父さんの家にいた3年間も一応鍛えてはいた。
武術を覚えても使う機会はないだろう……と思っていたがあった。
「ああ。無事ならよかった。それよりも部隊はどうなった?」
「部隊?ああ既に組んだけど名前が決まらなくて……」
俺自身も色々と考えてみたが中々思い付くものでもない。
この調子では部隊編成届の提出日までに思い付きそうにない。
「名前か……ふざけた名前だと却下されそうだしね」
「拓海姉も部隊に入ってるんだよね?この学園の生徒ってことは」
「ああ。“神聖なる円舞曲”っていう部隊にね」
セイクリッドワルツ……神聖なる円舞曲か。
言葉の響きは格好いいが……なんというか……
「……そんな感じでいいの?ちょっと、なんていうか……中二感が……」
「問題なかったよ。……まあ、ちょっと中二感はあるけど」
自覚はあるのか。それならよかった。
自覚なしの中二病ほど怖いものはない……多分。
いや、そもそも拓海姉は中二病ではなさそうだ。
「ああ勿論だけどちゃんと意味はあって名付けたよ?」
「そりゃあね……一応迷ったら参考にさせてもらうよ」
「どうぞご自由に。……あ、そうだ」
拓海姉はぴたりと足を止める。
俺もそれに合わせて足を止め、彼女の方へと身体の向きを変える。
「どうした?」
「こないだの夜、覚えてる?赤い髪の女の子を大和の家まで運んだ夜」
俺は少し考え、記憶の海からその夜の出来事を引き揚げた。
突然倒れた緋色の髪を持つ少女が目覚めるまで我が家に置いている。
「ああ……あの子、少しすれば起きるかなって思ってたんだけど、全然起きる気配がないよ。今も家で寝てる」
「それは心配だなぁ。病院とかは?」
「一応病院の先生に看に来ては貰ってるけど『大丈夫』って言ってる」
そうは言っているが俺たち家族は安心できずにいた。
少しすれば目覚めるだろうと高をくくっていたがここ数日は寝ている。
本当に大丈夫なのか、彼女が目覚めるまで安心できない。
「そっか、ならよかった……ってその話じゃなくて。いや、まあ、その報告も大事だけど……」
「この話じゃないならどの話?」
「ここの道、その日の夜に通りかかったんだけど……その時に怪しい人影を見たんだよね」
「人影?」
そう、と言って拓海姉は近くの家の屋根を指差す。
「ちょうどそこの家の屋根だったかな、3人組で誰かがいた。フードを目深に被って顔を隠してた」
「それは確かに怪しいな……その3人組は?」
「地区を囲む壁の向こう側に行ってた。会話の内容からGRのテロリストだと思う」
壁の向こう側……GRによる占領地に用があるなんてただの人たちではなさそうだ。
壁の外に用があるのは奪還作戦のために突入するイージスか、町の大半を占拠しているGRくらいだろう。
民間人が占領地に用があるとは思いがたい。
「あの家を見て思い出してさ。もしかして大和を襲ったのもその3人組かも……」
「でも、俺を襲った犯人は単独だった」
「もしかしたらその3人組の1人かも──」
そんな時だった。
突然拓海姉が俺を突き飛ばした。
「え──」
一瞬なにが起こったのか理解できずにいた。
俺は重力に引かれる様にして、横に倒れた。
「……まさか気付かれるなんて。気配は消していたつもりだったのに」
「これでも耳はいいからね。靴と地面の微かな摩擦音で気付いたよ。それでもそのくらい近くなるまで気が付かなかったけど……」
「突き飛ばして助けるなんて……あと少しだったのに」
見上げると拓海姉の双眸は俺ではないものを映していた。
彼女の瞳に映るもの……それは白い仮面とナイフだ。
刹那、俺は何故突き飛ばされたのか理解した。
「ごめん大和、いきなり突き飛ばして……立てる?」
「あ、ああ……」
白い仮面はナイフを俺の首へと振るっていた。
そのままでは首を切り裂かれて死んでいた。
けれど拓海姉はナイフが俺の首へと届く前に突き飛ばして助けてくれたのだ。
彼女の差し出した手を借りつつ、俺は立ち上がり、俺へとナイフを振るった人物を睨む。
「昨日振りね」
「あんたは……!」
濡れた様な長い黒髪、黒いパーカーのフードと白単色のシンプルな仮面──
俺はその人物に見覚えがあった。
それもそうだろう。自身を殺しかけた襲撃者の姿なのだから。
「まさか戦いとは無関係そうな人間に邪魔されるなんて思っていなかったけれど……ワタシを目撃した以上殺すしかないわね」
「彼女に手を出すなっ!」
「それはどうかしら……ねっ!」
彼女が逆手に持ったナイフを拓海姉へと振るった。
俺は咄嗟に脇差を抜いてそのナイフを弾いた。
凶刃は弾き飛ばされ、近くの塀に叩きつけられ、重力に従って落ちた。
「……あら、傷付けることを恐れてるんじゃなかったの?」
「ああ。怖いよ。とてもね。できることなら傷付けたくはない」
──俺は他人を傷付けることを恐れている。
これが変わることは一生ないだろう。
「……甘ちゃんね──」
「──けど、大切な人を傷付けられるくらいなら俺は戦う」
俺の手にあるのは人を殺められる道具だ。
それを握りしめ、目の前の襲撃者を睨む。
彼女は弾き飛ばされたナイフを拾うことはせずに懐中から新たにナイフを取り出した。
「大和……」
「拓海姉はどこかに隠れてて」
「わ、判ったッ!」
拓海姉がいなければ俺は気配と殺意を消していた襲撃者──いや、暗殺者か──の凶刃によって殺されていただろう。
そんな彼女を今度は俺が守るために握った脇差を構えた。
「……確かに戦う覚悟はあるみたいね。なら、ワタシはその覚悟を否定するわ」
「やれるものならやってみろっ!」
戦うことを決めた俺とその覚悟を否定する暗殺者による戦いの火蓋が切られた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
Amor et odium
佐藤絹恵(サトウ.キヌエ)
ファンタジー
時代は中世ヨーロッパ中期
人々はキリスト教の神を信仰し
神を軸(じく)に生活を送っていた
聖書に書かれている事は
神の御言葉であり絶対
…しかし…
人々は知らない
神が既に人間に興味が無い事を
そして…悪魔と呼ばれる我々が
人間を見守っている事を知らない
近頃
人間の神の信仰が薄れ
聖職者は腐敗し
好き勝手し始めていた
結果…民が餌食の的に…
・
・
・
流石に
卑劣な人間の行いに看過出来ぬ
人間界に干渉させてもらうぞ
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる