ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
16 / 92
濫觴の四月[April of Beginning]

Mission16 VS暗殺者

しおりを挟む
暗殺者のナイフは早速俺の喉元を捉え、それをそこまで滑らせた。
捉えてから滑らせるまでが素早い。
暗殺だけでなく、戦いにも慣れている様だった。

「戦い始める前に彼女にどこかに隠れる様に言っていたわね」
「ああ、それが?」
 
俺はその刃を刃で受け止める。

「……足手まといだから、でしょ。彼女を守りながらじゃまともに戦えないから」

……正解だ。
暗殺者は彼女が戦う能力を持たないと判っていたから真っ先に彼女を狙った。
それに初めて刃物を使って戦うのだ。彼女を守りながら戦える自信はなかった。
故に彼女にはこの場から避難してもらった。

「……だから?」
「守る“力”を持たない者は弱い。攻めるだけの“力”しか持たない人間もね」
「…………」

俺と彼女は互いに睨み合いながら互いの刃で押し合っていた。
確かに今の俺に彼女を守り抜くだけの力は持っていない。

「……なら、あんたはその力を持ってると?」
「ワタシは守るものを持っていない。……あなたたちとは違ってね」

一瞬仮面の奥に悲しみが見えた。
しかしすぐにそれを自身の中に引っ込めると左脚で俺を腹を蹴飛ばした。

「っ……!」
「攻めるだけよ。ワタシはね」

蹴飛ばされた衝撃自体は制服が吸収してくれる。
しかし鍔迫り合いを蹴りで終了させるとは……卑怯だ。
いや、これは試合ではない。ルールのない“戦い”だ。
卑怯と思われる様な戦い方をしたとしても勝利すれば全てなのだ。

「そうかよ。なら、俺は“攻める力”も“守る力”も手に入れる!そのためにあんたを倒す!」
「そう……」

彼女は腰のホルスターから拳銃を取り出す。
一瞬身構えたがあれは拳銃の形をしているだけだと思い出す。
彼女はその銃口を近くの電柱へと向け、引き金を引いた。
黒い銃口からワイヤーが放たれ、先端に取り付けてある銛が近くの照明灯の柱に突き刺さる。

「そう簡単に暗殺者を殺せると思わないことね」

彼女が地面を蹴って飛ぶと銛の刺さった場所まで途中まで巻き取られ、片手でぶら下がる様な体勢になった。
そしてこの状態でブランコの様に器用に自身の身体を振り子の様にして、俺へと接近してきた。

「っ!」

ワイヤーの軋む音と共に殺意の込められた刃が俺に迫る。
脇差で受け止めても自身の身体全体の重さを刃に込められる彼女の方が有利だ。
俺は力を入れて、彼女の刃を受け止めると力強く踏み込んでそれを押し切る。

「……やるわね」

攻撃を弾かれた彼女は後ろへと重心をかけて下がり、近くの塀を蹴ってその動きに素早さを追加した。
彼女がここまでのワイヤーアクションを行えるのも俺が存分に戦えるのも人の通りが少ないどころか全くないと言っても過言ではないからだ。
しかしここを通らない人間がいないわけではない。
俺は遠くに人影を確認した。遠いので姿形はよく見えない。

(人か……!まずい、ここに来るのは……!)

戦闘能力を持たない拓海姉を狙うなどという卑怯な手段を選ぶ彼女のことだ。
俺の意識を戦闘と防衛の2つに分散させるために間違いなくここへと接近する人影を狙うだろう。

「ヤマトーッ!」
「っ!?あれは……レイっ!?」

その人影をよく見てみると同じ部隊の隊員であるレイだった。
彼女は長い金髪を揺らしながらこちらへと向かっている。

「ちっ……増援ね。ここは退かせてもらうわ」

彼女は地に降りるとワイヤーを巻き取り、そのまま銃を近くの住宅の屋根にワイヤーを放った。

「待てっ!」

このままでは逃げられる。
彼女はまだワイヤーを放っただけで巻き取ってはいない。
ここで彼女を逃がすことは彼女を捕らえられるチャンスを逃してしまうことだ。

「逃がさないッ!」

レイは腰に取り付けられている箱からワイヤーを射出する。俺が町に帰った時、見たものだ。
彼女は俺たちの近くの塀にその先端の銛を打ち込むとそのままワイヤーを巻き取られるのを利用して仮面の女性との距離を詰めた。
そのまま自身の持つ刀を暗殺者へと振るう。

「っ」

暗殺者は咄嗟に身を後ろへと引いて彼女の一太刀を回避した。
けれど完全に避けられたわけではなかった。
刀の切っ先が彼女の仮面に掠り、その仮面を彼女の顔から引き剥がした。

「……!見たわね……」

俺たちは彼女の露わになった顔を見た。
一言で言うならば、美少女だ。
艶のある黒髪に紫水晶アメジストの様な瞳、高く通った鼻筋、白磁の肌……。
童顔で可愛らしいというよりは美人だ。

「見られた以上殺すしかないわ」
「レイ、なんでここに?」
「さっき学園に駆け込んできたんだよ、ヤマトの幼馴染って人が」
「……!拓海姉だ……!」

彼女は戦えはしないが決して足手まといではなかった。
暗殺者の言葉を否定できた様で俺は少しばかり自信が湧いてきた。

「だからここまで来たんだ。ミナミも一緒だよ」
「森さんも?」

しばらくすると森さんもここまでやって来た。
片手には白銀の拳銃が握られている。

「……さあ、どうする?3対1だ……大人しく投降した方がいいと思うけど?」
「──投降?……クソ食らえね」

そう言って彼女は屋根に放ったワイヤーを回収すると今度は違う家の屋根に放った。
しかし森さんが構えている拳銃で彼女の手を撃った。

「っ!」

手に直接被弾はしなかったものの彼女の手に握られていた銃を弾いた。
彼女の手から銃が離れ、そのまま最後の逃走手段が潰えた。

「しまっ──」
「確保っ!」

レイが一瞬の隙を突いて彼女の手首に手錠を嵌めた。
すると彼女は彼女は諦めた様に抵抗せずに静かに立っていた。

「……とりあえずこのままイージスまで来て貰うよ」
「……ええ。判ったわ。好きにしなさい」
「……?やけに素直になったね。……なにか企んでいたりとか?」
「それはないから安心なさい」

そうは言うがつい先ほどまで俺を殺そうとしていた人間だ。
そんな人間の言葉をそんな簡単に信じられるわけがない。
俺たちは警戒しながら彼女の身柄をそのままイージスまで運ぶこととする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

Amor et odium

佐藤絹恵(サトウ.キヌエ)
ファンタジー
時代は中世ヨーロッパ中期 人々はキリスト教の神を信仰し 神を軸(じく)に生活を送っていた 聖書に書かれている事は 神の御言葉であり絶対 …しかし… 人々は知らない 神が既に人間に興味が無い事を そして…悪魔と呼ばれる我々が 人間を見守っている事を知らない 近頃 人間の神の信仰が薄れ 聖職者は腐敗し 好き勝手し始めていた 結果…民が餌食の的に… ・ ・ ・ 流石に 卑劣な人間の行いに看過出来ぬ 人間界に干渉させてもらうぞ

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...